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不屈の心が育んだ力。夏目智依と山田佳帆、かく戦えり――【シンデレラリーグ2020プレーオフ1st】

不屈の心が育んだ力。夏目智依と山田佳帆、かく戦えり――【シンデレラリーグ2020プレーオフ1st】

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不屈の人。夏目智依と山田佳帆を評するとしたら、そんな言葉が良く似合う。麻雀ウォッチ シンデレラリーグには第1回大会から出場している両名だったが、不運に見舞われる展開が多く、思うような結果を残すことが叶わなかった。とくに山田は昨年度の結果が振るわなかったことで、今期は出場枠争奪戦からエントリーすることに。それでも持ち前の粘り強さを発揮し、最終戦で見事な逆転勝ちを収めてこの舞台に立つこととなった。

そんな彼女たちが、今年はそろって予選を通過。プレーオフ1stから3rdまでの、決勝へと続く舞台に立つこととなった。

上位2名が次へと勝ち進めるシステム。トップ取りの爆発力だけでなく、駆け引きも重要視されるようなシステムだが、どう立ち回るかは初戦の結果次第。3年連続の出場となる彼女たちの集大成と言うべき戦いは――

1回戦東3局1本場、まずは夏目がテクニカルな選択で魅せた。ドラ1のカンテンパイだが、ここでヤミテンを選択した。現代麻雀ではドラ1愚形の先手はリーチというのがセオリー化しているが、当然彼女にはヤミテンを選んだ理由がある。

ポンからの単騎変え、ピンズの両サイドの変化も見ていました。自分がだったりだったりを切って片スジになっていたらリーチするんですけれども、両方切っていないので出アガリ率も減ってしまう。またリャンメン以外にも引いてのカン引いてのカンもいいので、ヤミテンにしました」

夏目は元来、守備に重きを置き、懐の深い打ち回しを得意としている。早々にその雀風を実感する判断だった。そして――

狙い通りにを重ねてリーチに踏み切った!

そして梅村のを一発で捕らえた!

夏目の技ありの満貫成就となった。これでトップ戦線に名乗りを上げた夏目だが――

東4局に塚田が4000オールを和了して一気に突き抜けた。

さらに次局、ラス目の梅村が2000-4000をツモアガったことで、下3者がほぼ横並びの状況に。

南2局、塚田の満貫確定リーチが他家を襲う!

これに押し返したのが山田! こちらも満貫確定の本手で、塚田から直撃すればトップの可能性も急浮上する。勝ったのは――

塚田! 早々に勝負は決し――

裏が2枚乗った! 12000のアガリが炸裂し、この半荘のメインテーマは夏目と梅村の2着争いに絞られた。

そしてオーラス、夏目が2600をアガって決着! これにより――

夏目と梅村が同点2着となった。順位点を分けるため、2着の+10と3着の▲10を合わせ、順位点は0。結果、塚田だけがプラスポイントとなり、初戦で早くも通過に王手をかける形となった。

初戦ラスの山田からすれば、この2回戦は意地でもトップを奪取したいところ。その思いをほとばしらせたかのように、東1局から積極的に仕掛けていく。自風のとポンをし、現状雀頭のもポン。シャンテン数は変わらないが、これによりテンパイへの受け入れ牌が2種類から6種類に増える。なおかつ他家へのけん制効果も大きい。

 

そして見事にを重ねてテンパイ。山田が完全に主導権を握ったかのように見えた。

が! この渦中に、なんとトータルトップの塚田がかち込んだ! 不敵なヴァルキリーは、多少のリードでは手を緩めない。ション牌のを問答無用で切り飛ばしてのリーチだが、もちろんただ強気なだけではない。ピンズ場況の良さから勝算十分と見たこの手は―

会心の1300-2600として実を結んだ。

塚田がここで連対しようものなら、通過の席の一つは早々に埋まってしまう。東2局1本場、そうはさせじと夏目が渾身のヤミテン満貫を入れた。

先制リーチは梅村。リーチ・・赤の待ちだ。

これを受けた夏目は、を空切ってヤミテンを続行。目立つ牌を通すことになるが、梅村が早い巡目でを切っていることから、黙っていればまだを拾えるかもしれない。

が、続いての無筋のを持ってきて、「ここまで目立ってしまうなら最高打点を目指しましょう!」とばかりにツモ切りリーチを敢行!

しかし、その直後に梅村がツモ! さらに裏を2枚乗せて、3000-6000と大きく加点することに成功した。

南2局1本場、親落ちしてラス目の夏目だが、まだまだ諦めるわけにはいかない。2枚切れながら場況の良さを見て、カン待ちの赤1リーチをかけた。対抗するのは――

親の塚田! 驚愕の跳満確定リーチで、夏目に牙を剥いた。夏目としては、さぞかし肝が冷えたことだろう。

だが、ここは見事に競り勝ってみせた! 2600は2900の加点をするとともに、塚田の鬼手を封殺してみせた。

誰もが一歩も退かない2回戦。南3局、現状は梅村がトップ目だが、まだまだ全員に十分な条件が残されている。を赤含みでリャンメンチーを入れた山田には、タンヤオ・赤2のテンパイが入っている。しかしながら、待ちはのシャンポン待ちと、なかなかに苦しい。しかも塚田からリーチを受けており、残るツモ番は1回。ここで山田は、塚田が切ったに手を止めた。

山田はこれをチー! 安牌のを切り、ツモ番を放棄! 塚田にハイテイが回るリスクはあるが、もちろんこれには理由がある。

「塚田さんにツモられたら死にたくなっちゃうけど、オーラスの条件がテンパイだけ取っておくと1000-2000でOKなんですよね。自身のアガリには全く自信がなかったし、自分のアガリで危険牌をつかんで降りるのも嫌だし、押して放銃はもっと嫌。なので条件を緩和して、オーラスに賭けることに決めました」

夏目と梅村は、降りているように見えるし、見た目は4枚とも残っている待ちとはいえ、2人も降りていては正確な場況も把握できない。自身のアガリ牌を持ってくるよりも、塚田に対して押しきれない牌をつかむ可能性の方が高い。よって彼女は、ここはオーラスに希望を繋ぐ選択を取った。「ブチギレリベンジャー」の愛称を持つ山田だが、じつに冷静な判断だと思う。

 

だが、その策が生んだのは悲劇だった! 梅村のもとへ流れたのは、本来であれば山田がツモるはずだった! もちろん起こり得るケースなのだが、あまりにも山田をあざ笑うかのような巡り合わせだ。さらにオーラスも山田の一人ノーテンという結果に終わり――

2連続ラスという最悪の展開に入ってしまった。

山田の狙いは、じつに実戦的だったと思う。彼女が考えていたように危険牌をつかんで降りた結果、オーラスでトップに届かないケースだってあるのだ。だが麻雀の選択は、どんなものであれ必ず裏目が存在する。それを悔やんでも始まらない。不屈の心をもって、劣勢を覆すしかない。出場枠争奪戦で成し遂げた逆転への思いを、山田は再び胸に宿して後半の戦いへと臨んだ。

3回戦、夏目は1トップを取るだけで通過ボーダーに入れる状況だ。開局早々、わずか3巡でドラ2・赤1のシャンポンリーチを入れたが――

 

結果は流局。1枚切れのを誰かが早々につかめばアガれそうなリーチだったが、残る1枚は王牌に眠っていた……。

 

次局も夏目は一気呵成に攻め立てる。ダブ・ドラ1のテンパイを入れたが――

テンパイ打牌で梅村に5200は5500の放銃を許してしまう。

東3局は山田の親番。7巡目で、この1シャンテンとなった。678の三色も見えるが――

ここは堅実にマンズの愚形ターツを払った。ドラが1枚あるため、最低限の打点は保証されている。を残したことで、を引いた際にの亜リャンメンか、のノベタンかを選択することもできる。

この残しが効いた! 望外の重なりで、最速のテンパイへとたどり着いた。

これに飛びこんだのが塚田。からスライドさせたを捕らえて――

5800のアガリ。この日、初めて山田が単独トップ目に踊り出た。

だが、この人も負けてはいられない! 東4局、夏目が会心の3000-6000を成就させた。これでトップ目が再び入れ変わる。

南1局にも大きなアガリが発生。今度は塚田だ。4000オールの加点で、一気に場が平たくなった。そしてオーラス――

親の梅村に、とんでもない好配牌が訪れた! 山田はこの半荘、なんとしてでもトップを取らなければ、事実上、勝ち上がりの可能性が消滅しかねない。その危機を感じさせるには、十分すぎるほどの手が入っている。

対する山田は、この手だ。はるか遠くにホンイツが見えるが、どう考えても速度で追いつけそうには思えない。梅村と山田のどちらの配牌が欲しいか100人アンケートを実施したら、おそらく梅村にフルマークがつくことだろう。

ならば夏目はどうか? こちらはチートイツの1シャンテン。しかし1600-3200では塚田に届かない。できれば赤牌やドラが欲しいところだ。いずれにせよ、速度で圧倒的に劣る相手が2人もいる。山田は万事休すか――

!? 先ほどの配牌と、もう一度見比べてほしい。

わずか3巡で、山田の手は跳満、倍満クラスまでに膨れ上がっていた。と4連続で有効牌を引いて、その手の価値を化けさせたのだった。

だが、以前危機は続く。現状トップ目の塚田からのポンも入った。山田は間に合うのか!?

また有効牌だ……! 今度はネックのカン。恐ろしいことに、急所から埋まっていく。そして次巡――

当たり前のようにを引いた! 驚愕の6連続有効牌引き。幾多の不遇に見舞われながらも耐え続けた山田に対する、この日最大の恩恵がここで訪れた。メンホン・・ドラ3の確定跳満。もう、どこからアガってもトップ目だ。ポイント状況を加味すると、ラス目の山田はリーチをしてくるだろうと他家は考える。当然だ。こんなに簡単にヤミテン跳満など生まれないのだから。故に――

いかに夏目でも山田をケアすることはできず――

ここに戦慄の逆転劇が生まれた。

トータルポイントは、山田と夏目の順位が入れ替わる結果に。トップと2着は等価値のため、下位2名が狙うのはもちろん梅村だ。トップラスで順位点60の差が縮まるため、彼女たちにも十分に勝機が残されている。とくに山田は、絶体絶命の状況から繋いだ命だ。この追い風を一身に浴びて、意気揚々と最終戦に臨んでいった。

せっかく繋いだ希望の糸だ。東1局、山田はこの親番で何としてでも加点をしたい。ポンから軽快に発進して、タンヤオ・赤1を目指していく。

狙い通り、早々にテンパイへとこぎつけた。

ップを譲れないのは、夏目も同じだ! メンタン・赤のカン待ち。山田に真っ向勝負を挑んでいく。

山田は食い伸ばしをして待ちにチェンジ。前巡は夏目のリーチに対して無理に押す価値が下がっていたためをスルーしていたのだが、今回はそのが待ち牌となるため、勝算ありと見て食い伸ばしに踏み切った。この待ちは盲点になる……!

この戦いを制した方が、プレーオフ2nd進出へ大きく前進する。そんな分水嶺で――

「ロン」

その声の主は、2人のどちらでもなかった。山田がを河に捨てた瞬間、彼女の下家――

梅村が手をかすかに震わせながら手牌を倒した。トイトイ・三暗刻・・ドラ3、ツモり四暗刻のその手は、ヤミテンでも倍満。よりにもよって、夏目と山田がトップラスをつけたいと目論んでいた梅村に、規格外の手が入っていたのだった――

「来た配牌に対しては精いっぱいやりましたけど、こんなんじゃないんだよなあって。悔いは……残りますね」

梅村からの倍満直撃は、山田にとっては致命傷だ。だが、それでも彼女はわずかな可能性に全てをかけた。3回戦オーラスに繋いだ希望の糸は、まだ切れていない。そう信じて。

東4局1本場、山田が先制のテンパイを入れた。タンヤオのみのカン待ち。だが、打点が圧倒的に足りない。親番があと1回残されているとはいえ、アガリ連荘では何度もチャンスは巡ってこない。だから彼女は――

梅村からのをスルーした! 梅村から1300は1600をアガったところで、現状の打破には至らない。夏目が加点すれば梅村を着ダウンさせる可能性も増えるし、同じ見解の夏目も山田からは見逃す公算がある。山田は歯を食いしばり、夏目の援護射撃に専念した。こうしてこの局の決着が長引いた結果――

塚田からリーチが入った。メンピン・赤の高め満貫。夏目に親被りでもさせれば、それはこの半荘の決定打となる。まだポイント状況に余裕があるうちに、若干のリスクを背負おうといった狙いだろう。

が、それは夏目にとっても千載一遇の好機だ! 無防備の塚田から直撃すれば、プレーオフ1st突破に光明が差す。ターゲットが梅村から塚田に代わることとなりそうだが、素点でおよそ4万点差のトップラスならばボーダーに入れる。まさしく乾坤一擲! その一撃は――

切なくも、打ち砕かれた――

夏目から塚田へ、8300の横移動。その一撃は――

夏目と山田の舞踏会閉幕を告げる鐘だった。

「最近は3人打ちルールのお店で働いているんですけど、その影響もあって守備寄りだったところからだいぶ押せるようになりました。リーチ後の負けの放銃はあったんですけど、後手を踏んでからの放銃はあんまりなかったですし、バランスは良くなったのかな? 成長できたかなと思いますけど、がんばったとて結果がついてこなければ……」

そうこぼす夏目に、山田も賛同の意を示していた。努力を重ね、幾多もの逆境を乗り越えても、あと一歩届かない。彼女たちにとってシンデレラリーグの舞台は、もしかしたらそう映っているのかもしれない。けれど、僕たちはたしかに見た。1年前の山田はガムシャラな印象が強かったけれど、今回はテクニカルな引き出しもあることを披露してくれた。夏目も守備力の高さは評価されていたものの、ここ一番での打点構想力と押しっぷりで、新たな地平を切り開いたように感じた。

不屈の思いは、間違いなく彼女たちの糧になっている。負けてなお、また見たいと思わせる。そう感じさせる2人の佇まいは、じつに堂々としていた――。

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この記事のライター

新井等(スリアロ九号機)
麻雀スリアロチャンネルの中の人。
ナンバリングは九号機。
スリアロでのポジションをラーメンに例えると、味玉くらい。
お酒があれば、だいたい機嫌が良い人です。

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