麻雀で子どもの頭はよくなるのか? そんな素朴な疑問を医学的に検証し、論文を発表したのは、脳神経外科医で麻雀プロでもある東島威史さんだ。これまで誰もやらなかった“麻雀が子どもの知能に与える影響”の研究に挑んだ東島さんの原動力とはーー
横須賀市立総合医療センターでの専門は?
東島さんは脳神経外科医として、神奈川県にある横須賀市立総合医療センターに勤務している。「“ふるえ外来”という、手足のふるえで悩んでいる方を診察し、パーキンソン病、てんかん等の脳手術を執刀して来ました。超音波を脳の一点に集中させてふるえを軽減させる“切らない手術療法”にも着手しています」

麻雀が子どもの知能に与える影響を研究し始めたきっかけは?
「麻雀好きが高じ、麻雀プロとしても活動していたのですが、タイトル戦で順調に勝ち上がっていた時、くも膜下出血の緊急オペが入り、退席せざるを得なくなったことがあったんです。オペが無事終了してから、改めて対局者に謝りに行ったんですが、以降はトーナメント等にエントリーしにくくなってしまいました。今後はどうやって麻雀プロとしての価値を創出していくのか。考え抜いた末、やはり医学の面から麻雀の価値を高めたいと思ったんです」と麻雀普及に寄与する道を模索し始めたという。
そして2016年、将棋界では藤井聡太さんが、史上最年少14歳でプロ棋士デビューした頃。「幼少期から将棋を指すと頭がよくなるというブームが来たのですが、将棋もいいけど麻雀も間違いなくいいので、医学的にきちんと評価したいと思ったんです。それで子ども麻雀教室を全国展開されているニューロン麻雀スクールに、子どもが麻雀するとどういう影響が出るのか、知能指数を計測して調べたいとお願いしに行きました」
知能指数の計測対象は?
「対象は5歳~15歳までの麻雀初心者の子どもです。スクール入会時に親御さんに許可を頂いた後、世界共通のウェクスラー式知能検査という医療現場でも使っている学術ベースのもので知能検査を行いました。そして麻雀教室に1年間通い続けたお子さんに、もう一度知能検査を行って、麻雀によって脳がどのように変化したのかを検証しました。もちろん途中で来なくなってしまうお子さんも多数いて、1年後の検査を行えた20数人を調査するのに約3年間の時間を要しました」
どのような結果が出たのでしょうか?
「知能指数は全体的な知的水準に約8ポイントの上昇が見られました。約8ポイントの上昇とは、学校の成績で言えば100人中40位から20位内にアップしたイメージです。しかも顕著な印象として、コミュニケーション能力がしっかりして来た子や、集中力が確実にアップした子もいました。ただ計算力は予想より伸びませんでした」
研究結果から、麻雀は何歳から始めたらいいのでしょうか?
昨今は麻雀プロリーグ「Mリーグ」人気で、子ども麻雀大会や教室も頻繁に開催されている。「脳が一番発達する6歳から10歳頃までの時期がいいと思います。ネット麻雀なら何歳から始めてもいいのですが、リアル麻雀の場合は5歳以下だと自分の番が来るまでにじっと我慢することができず、中には走り出してしまう子もいるので、小学校で45分間座ることができるようになる6歳後半頃から始めるのがベターです」
東島さんが麻雀を始めたのはいつ頃ですか?
「中学生の頃、友達と一緒に始めました。図工の時間に友達と分担して木材から彫刻刀で削って麻雀牌を1セット共同制作し、その牌を使って学校でも麻雀をやってました(笑)。高校でもたまに友達とやってましたが、本格的に打つようになったのは大学生になって麻雀店でアルバイトし始めてからです」

なぜ麻雀プロに?
2012年、日本プロ麻雀協会・第11期生として入会した。「精神科で初期研修医になった時、何気なくネットを見ていたらプロ試験受講者募集と出ていたので、受けてみようかなという気軽な感じでした。現在はどうやったら自分なりに麻雀界に貢献できるのかを考えながらプロ活動を継続しています」
東島さんにとって麻雀とは?
「私は縁を結ぶツールだと感じています。老若男女はもとより、初心者も熟練者も同じように楽しむことが出来るのが麻雀の良いところかと思います」

大事にされている言葉は?
「“Stay hungry,Stay foolish”というApple共同創業者のスティーブ・ジョブズの言葉です。飢えて馬鹿みたいに行動しろという意味なんですが、何かを成し遂げた人って、非合理的な動きをすごくしているはずなんです。合理的に考えてできることには上限があるので、突き抜けるためにはアホみたいなことをしなければならない。私にとっては麻雀の研究が、まさにそうなんです」
「私の知る限りでは、麻雀のような知育ツールで知能指数を調べた研究はありません。なぜなら、とてつもない手間と膨大な研究費がかかるからです。こんなことをやって何になるという気持ちが湧いて来るたびに、この言葉で自分を戒めて研究を続けてきました。結局はアホじゃなきゃやっていけないし、今の時代はそういう生き方のほうが、失敗しても価値が生まれる気がしています」
インタビューを終えて
不完全情報ゲームとも言われる麻雀とどう向き合うのか。「リスクより、ベネフィット=得、期待が大きいほうを考えて選択を繰り返すことは、最終的に勝利につながります。麻雀で身につけた考え方は、不完全情報だらけの現実社会で意思決定していく時にきっと役に立つはずです」という東島さん。そこには混迷の時代を力強く生き抜くヒントがあるようだ。
◎写真協力:東島威史/インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)
東島 威史(ひがしじま・たけふみ)プロフィール
1983年1月22日。新潟県出身。O型。群馬大学医学部卒業。脳神経外科医。医学博士。日本プロ麻雀協会所属。横須賀市立総合医療センター・ふるえ治療センター長。好きな映画は『フラッシュダンス』。著書は『頭がよくなる! 子ども麻雀』(世界文化社)
東島威史X https://x.com/higashijimahjon
東島威史Note https://note.com/higashijimahjong