2018年内のMリーグの試合も終了した12月末、前半戦を首位で折り返した赤坂ドリブンズの監督、越山剛氏に話を聞いた。
3人で飲みにいく環境を整えるのも監督の仕事
チームの雰囲気をよくするために越山がやっていることなどはあるのだろうか。
越山「さっきも言いましたが、Mリーグって、野球で言うと先発投手3人だと思ってるんですよね。だから、その3人が同時に試合が出てることってないんですよ。でも、野球チームでも、後輩ピッチャーが先輩ピッチャーに投げ方とかアドバイスをもらうことってあるじゃないですか。相手打者の癖とかそういうのも共有してますよね。局面に対する考え方とかもそう。そういうのはどんどん共有した方がいいと思いますし、それはMリーグでも同じだと思ってます」
それがチームワークというものではないのだろうか。
越山「いや、それは結果として出来上がるチームワークとは別で、チームが勝ちに向かう過程としての『思考の共有』ですね。それって、Mリーグの場合にどこで行うかといえば、基本的には2か所しかないと思います。1つはクラブハウスです。ドリブンズは自分が試合に出ないときでも基本的にはクラブハウスに3人ともいるんですよ。そこで、1人の麻雀を観ながらどんどん話して思考を共有しています」
自分が試合に出なくても3人が試合会場にいるドリブンズ。その意味は、思考の共有にあった。では、思考を共有できるもう1つの場所とはどこなのだろうか。
越山「居酒屋ですね(笑)」
薄々感づいてはいたが、やはりそうきたか。
越山「でもこれ、ほんとに大事なことだと思ってるんですよ。選手3人がよく飲みにいくのは本当に素晴らしい。思考の共有って、やっぱりきっかけは会話になると思ってるので。ドリブンズは他のチームに比べて相当飲んでるはずです。試合の後、7~8割ぐらいは行ってるんじゃないかなあ。そして、ぼくはそれってトレーニングの一環だと思ってるんですよ」
飲みをトレーニングの一環という越山。とすると、そこには監督の役割があることになる。越山はどのような役割を担っているのか。
越山「よし!行くか!って声をかけることですかね?これじゃあ監督じゃなくて課長じゃないか、って話になりますけど(笑)。とにかく3人が一緒に話しやすい環境を整えることは、ほぼ全てやってるんじゃないかな。毎回毎回飲みに行くと資金面の負担がきついので、僕の自宅で映像研究したりもしますよ。食事しながら」
飲みにいくのが好きなドリブンズメンバー。その飲みには深い意味があった。
越山「いや、選手たちはそんな深く考えてないと思いますけどね。ただ飲みたいだけでしょうね(笑)。でも、選手はそれぐらいの気持ちでいいんです」
越山「僕は、麻雀プロにはシェアする文化が根付いてると思ってるんですよね。自分で築いた財産を惜しげもなくシェアする文化。麻雀プロのDNAなんでしょうね。共有するのって、敵を強くしてしまって損かもしれないのに、自分から共有することで何かをもらったりするんですよね。そういう文化は、チームとしてもしっかり受け継いでいきたいと思ってます」
本来ならば勝てそうな2人を40回ずつ出すべき
監督の仕事について、もう少し聞いてみたい。ドリブンズにおける監督の仕事とは、どのようなものなのだろうか。
越山「まず、監督って、強くなるための環境や空気を作る仕事だと思っています。その中でもドリブンズで最も大きい監督の仕事は、間違いなく『出場選手を決めること』ですね」
聞けば、ドリブンズでは当日ないしは前日に出場選手が監督から伝えられるそう。出場選手を監督が決めることに、どのような意味があるのだろうか。
監督「これも他のプロスポーツでもそうなんですが、選手はみんな試合に出たいんですよ。メジャーリーグでも、試合に出なくて楽をしてても年俸10億もらえるけど、それでもみんな絶対に出たいんですよね。でも、枠には限りがある。だから、出場選手を決める人が必要になるわけです。そこで、ドリブンズでは、スタート時に監督である僕が全て決めることにしました」
監督が決める意味まではわかったが、選手を決めるのは非常に難しいように見える。その辺り、実際にはどうだったのだろうか。
監督「やってみるとすごく難しいですね。まず、今のレギュレーションって、『全80ゲーム、3人のチーム編成、1人の上限は40ゲーム』となっているんですね。1人当たり最低ゲーム数の決まりがない。0でもいい。だから、本来なら3人のうち最も勝てそうな2人を40回ずつ出すべきなんですよ。それが勝ちに徹するってことだと思ってます」
これまた驚きの言葉が出た。そんな発想をする監督がいるのか。
越山「いや、でもこれって当たり前ですよ。例えば野球だとして巨人なら菅野(菅野智之・2018シーズン 防御率セ・リーグ1位)は投げられるだけ投げさせるべきです。でも、野球では肉体的に毎日投げさせることはできないわけで、登板数には限りがある。ただ、麻雀ではそれができる。マインドゲームだから。ましてやMリーグは1日2試合しかないし」
「当たり前」、確かにそう言われてしまえば当たり前に感じてくる作戦だ。しかし、それなら同時に疑問も湧く。なぜ、越山は現在そういう風に出場選手を決めていないのだろうか。
越山「そこなんですよ。実際監督をやってみて、『勝てる2人って誰?』がわからなかったんですよね。何を基準にするか、まだ模索してる感じですね。なので、今のところ選手を決めてる基準は『3人がバランスよく』になっちゃってますね。基準を模索する上でサンプル数をそれぞれ最大化したいので」
ここまで合理的な考えを貫く越山だが、気持ちのようなもので選手を選んでしまうことはないのだろうか。
越山「なるべくないようにはしてますが、ないといえばウソになりますね。今はたまたま園田が上振れ、村上が下振れを引いてる可能性が高いので、結果的に園田を多めに使うことになってます。でもこれ、ほんとは正しくないですよね。出したからって雀力の理論値に近づくわけじゃないし、どれぐらいの理論値かもそもそもわからないわけですから。
逆も然りで、理論上は違うってわかっているのに、『こんなんじゃ終わらないよね、村上さん』って思っている自分もいる。村上さんは努力家だし、それが報われてほしい気持ちがあるんでしょうね。努力を評価するとかほんとは監督としてやっちゃダメなんですけどね。箱根駅伝で、タイムは遅いけどアイツが一番努力している、なんて理由で選手選ばないでしょ? 今は単純に村上がマイナスで終わるわけがない、という根拠のない確信で選んでいる。正しくないんだけど。ただ、今勝っている園田を出し続けることが正しいのかもわからない」
出場選手を決めるという仕事の難しさについてはわかった。考えるだけで難しそうだ。では、監督として他にはどんな仕事があるのだろうか。
監督「うーん、他で大きい仕事だと、選手のお弁当用意したりとかですね(笑)」
ドリブンズの麻雀が1番勝てると証明したい
最後に、2019年のMリーグでの目標などはあるのか聞いた。
越山「当然『初年度王者』ですね。初年度王者の称号を特別視しているわけじゃなくて、いつまでもずっと負けたくないんですよ。やるからには、ずっと1位でいたいです。今年負けるとその権利がなくなっちゃうから、初年度で優勝したいですね」
すでに次シーズンも見ている。ずっと1位になりたいから今年も1位になりたい、子供のような言い分にも聞こえるが、非常にシンプルな思考だと気づく。確かに、やるからには当たり前だ。
越山「この3人が織りなす麻雀が、一番期待値の高い選択だと思ってるし、そう言われるようになってほしいですね。麻雀って宗教みたいな一面があると思うんですよ。『自分が正しい』と思うことを証明したい人たちなんですよね、麻雀プロって。それは3人1組の個体になっても同じで、『ドリブンズの麻雀が一番勝てる』って証明したいし、選手もそう思ってるんじゃないかな」
では、そのために監督として新たにやろうとしていることなどあるのだろうか。
越山「うーん、そのためにかあ・・・園田に飲みすぎないように言う、とかですかね(笑) まあ、それは冗談ですけど。いや、半分冗談じゃないんですけど。まあ、そういうのも含め、引き続き選手が麻雀に集中できる環境を整えること、それしかないですね。試合以外だと、研究→練習→共有→実行のサイクルだと思ってるんで、チームとしてそういうPDCAサイクルを回していきたいですね」
最後に、ファンのみなさんに向けて一言いただいた。
越山「なんというか、今日話したような考え方なので、シンプルに『優勝します』とかもなかなか言えなくてすみませんって感じですね。『優勝するためにできることをやり続けます』って言い方になっちゃうんですよね。そんなドリブンズの『理由や過程を大事にする』精神を、結果的に1人でも多くの方に好きになってもらえたらうれしいです。そのために、僕や広報含め、全員で全力バックアップしていくことはお約束します」
インタビューを終えて
インタビュー1つを取っても、博報堂の社員として器用に仕事をこなしてきたことがにじみ出ている越山。発想は極めて合理的でシンプルだ。なのに、越山はシンプルに「応援よろしくお願いします」「優勝します」とは絶対に言わない。いや、言えないのだ。
そこには、選手と同じように理由と過程を大事にする越山のプライドを感じた。
このプライドを胸に、2019年もドリブンズは『全員』で理由を探し続けるのだろう。
■赤坂ドリブンズ、2019年の初戦は1月10日(木)!19時からAbemaTV 麻雀チャンネルにて放送予定となっています。