「麻雀ウォッチ プリンセスリーグ」の予選第1節は全ブロックの対局が終了。折り返し地点となる第2節が始まろうとしていた。
予選第2節Aブロック1卓の対局者4名。このうち2名が、第1節でマイナススタートに甘んじている。
1人は日本プロ麻雀協会所属、「ぴよぴよ雀天使」こと水瀬夏海。今年に入って、姉の水瀬千尋がプロ雀士を引退。それ以前は姉妹雀士として人気を博していたが、今後は一人の麻雀打ちとしてこの世界で戦い続けることとなった。彼女にとって大きな転機であることは間違いないと思うが、意外にも本人は淡々とした様子だった。
「正直あんまり(姉の引退は)意識していないです。それがお姉ちゃんの幸せにつながるのであれば構わない。さみしいと言えばさみしいけど、本人も私もさっぱりしています」
夏海は現在、事あるごとに「お姉ちゃんが獲れなかったタイトルを獲りたい」と公言している。それが「お姉ちゃんを応援してくれていた人が、私に求めてくれること」なのだという使命感を抱きながら、姉がたどり着けなかったプリンセスリーグの頂きを目指している。
トータルポイントがマイナスのもう1名は、最高位戦日本プロ麻雀協会所属、「逆転の西嶋」こと西嶋千春。第17・18期女流最高位である彼女がプリンセスリーグ参戦を果たすのは、今年が初めてのこと。実力・実績ともに申し分ない西嶋ではあるが、昨年のプリンセスリーグ開催時には第一子を妊娠中だった。そのため出場は見送り。まさしく満を持しての参戦というわけだ。
「お客さんとプリンセスリーグの話題になることがよくあって、『ああだった』『こうした方がよかった』なんていう話をしています。注目度の高さを感じますね」
第1節はわずかにマイナスとなったが、第17期女流最高位の逆転戴冠劇になぞらえてつけられたキャッチフレーズ通り、彼女のファンはここからの巻き返しを期待していることだろう。
各々に戦う理由が、そして負けられない理由がある。だが、そんな思いを意に介すこともなく、無情にも勝者と敗者を分かつのが麻雀という競技だ。その先に続くのは歓喜か、絶望か? 第2節、対局開始――。
1回戦東1局、最初にチャンスが巡ってきたのは西嶋だった。イーペーコー・ドラ2・赤1の満貫確定テンパイ。を切ってカン待ちとした。を引けばリャンメン変化になるし、をツモれば跳満だ。何気ない一打ではあるが、カン待ちを最終形としない柔軟な思考が、これだけでも垣間見える。
その後、を持ってきたところでカン待ちに変えてリーチに踏み切った。上家の瑞原がを切って見た目枚数は1枚少ないが、よりアガリが拾えそうと判断したか。また、ダブをポンしている親の松嶋が安牌候補のを手出ししていることも判断材料の一つとなっていそうだ。松嶋はテンパイか手広い1シャンテンが濃厚に見える。切りにすることで、西嶋と松嶋のスジとなるを吊り出せる可能性は十分にありそうだ。
このリーチに水瀬も応戦。リーチ・ピンフの待ちで追いかけた。そして――
水瀬がをツモ。700-1300のアガリで、西嶋のチャンスを握り潰した。
続く東2局、西嶋は松嶋のを捉えてホンイツのみ、2600のアガリを成就。2着目へと浮上した。
東3局では、ここまで受けに回っていた瑞原が先制リーチをかけた。リーチ・赤1、絶好の待ちだ。
同巡、西嶋がを引き入れてテンパイ。瑞原の現張りをヤミテンに構えた。
そして松嶋からを出アガり、1500点を加点した。
ほぼ西嶋と並びとなった水瀬が、一気に突き放しにかかる。をポンして1シャンテンに。
順調にも鳴け、役々・赤・ドラの満貫テンパイ。
この仕掛けを受け、西嶋はドラまたぎのを切らずにくっつきを求める構えとした。
狙い通り、を引いてカン待ちのリーチをかけたが――
水瀬がをツモ! 会心の2100-4100で一歩抜け出すことに成功した。
東4局は、現状ラス目の松嶋が反撃。ともに1枚切れのとのシャンポンをヤミテンとし、引きからリーチに踏み切った!
をポンしている西嶋も、カン待ちのテンパイを入れた。
同巡、水瀬も猛然とリーチ! メンピン・赤・ドラの強烈な手で子方にプレッシャーをかけていく。このめくり合いは――
松嶋が制す! 画像では見えないがをツモ! さらに裏2で2000-4000をものにした。
南入しても各者のベタ足インファイトは激しさを増していく。まずは西嶋がリーチ・赤1のカン待ちで先手を取る。
同巡、水瀬もドラ2・赤1の勝負手で追いかけリーチを放った!
さらに松嶋も高めイーペーコーのリーチを見舞う。たった1巡で三軒リーチへと発展した。そして――
瑞原もテンパイ。リーチをかけたが、宣言牌のは――
水瀬の当たり牌だ。満貫をアガり、さらに水瀬がリードを広げていく。
そんな水瀬を、松嶋が再び猛追する。メンタンピン・ドラ1を一発ツモ! 3000-6000でほぼ並びの状況となった。
こうなると水瀬としても、もう一アガリ決めたいところ。をポンしてホンイツ・ドラ2が見えているところからをツモ切ったが――
西嶋のヤミテンに突き刺さる! タンヤオ・ピンフ・赤1の5800点の放銃を許し、ついに2着目へと陥落した。
水瀬の雀風は、とかく攻撃に特化した打ち回しが特徴だ。放銃を喫することもあるものの、それ以上の手数と打点で他者を圧倒していくスタイルを好む。それ故に一度や二度、点数をまくられたくらいで動揺することはない。
南3局1本場、終盤にテンパイを引き入れて、赤2のチャンス手を見事にアガリ切ってみせた。2100-4100で再逆転。松嶋と7100点差のトップ目でオーラスの親番を迎えた。水瀬としては松嶋以外がアガる分には、とくに問題ないといった状況。
そんな中で西嶋がリーチをかけた。メンタンピン・赤1で満貫確定だ。
それを受けた水瀬の牌姿。水瀬としては、満貫を放銃すると2着に陥落してしまう。とはいえ西嶋の河が強すぎて安牌もない。少し悩んだ後――
最も不要なをツモ切った。西嶋の一発アガリ。西嶋と水瀬は23500点差で、跳満だと順位がさらに入れ替わる。現状、西嶋はメンタンピン・一発・赤1の5ハン。裏ドラは――
――。
これにより西嶋が2着に――
水瀬はトップから痛恨の2着順ダウンとなった。
「オーラスは、配牌から手組しないという手もあったと今になって思ってはいます。けっこう手牌が整っていて、行っちゃおうかなと。考えを放棄しちゃった部分があったので、反省しています」
水瀬は、屈辱の一打をそう述懐した。たった一打で失ったポイントは、じつに62.0ポイント。麻雀はメンタルゲームだと言われることが多々あるけれど、後々に引きずってもおかしくない放銃に思われた。だが――
2回戦東1局、水瀬はいつもの水瀬だった。残りツモが2回というところで、強気にリーチを敢行。最高打点を見据え、力強く肩を回す雀風に陰りは見られない。
このリーチに、同巡テンパイを果たした松嶋が一発で飛び込んだ。
リーチ・タンヤオ・ピンフ・一発・赤1に裏も1枚乗り、12000点を成就。ヤミテンにしていたら3900止まりだったが、じつに3倍の収入を得たことになる。
東2局は、初戦ラスだった瑞原がリーチ! カン待ちのヤミテンから3メンチャンへと変え、ドラを叩き切った。
これを松嶋がポン! をでチーしており、タンヤオ・ドラ3のテンパイだ。手痛い失点からの回復を試みたい松嶋ではあるが――
をつかんでしまう――
リーチ・タンヤオ・ピンフ・赤1、12000点のアガリで瑞原がすぐさま水瀬に並んだ。
1回戦に続いて高打点の応酬がある中で、西嶋にも好機が訪れた。リーチ・タンヤオ・イーペーコー・ドラ1の待ち。
をしっかりとツモりアガり、2000-4000。水瀬・瑞原を追いかける。
一人取り残された格好の松嶋は、東3局の終盤にこのテンパイ。タンヤオのみのシャンポンではあるが、が3枚、とが2枚見えていて、待ち牌のとが山に眠っていてもおかしくなさそうだ。
この待ちで果敢にリーチをかけ――
華麗なる一発ツモ! 2000-4000のアガリで箱下から脱出してみせた。
ほとんど流局がなく、点棒のやり取りが激しく繰り返される。この日の4名は打牌も模打も非常にスピーディーで、それはさながら格闘技かのような興奮を誘う光景だった。冒頭で、僕は思いなど意に介さず麻雀は勝者と敗者を決すると書いたけれど、その打牌に思いが宿ることはあるのかもしれない。つい、そんなセンチメンタルなことを考えずにはいられなかった。
瑞原、西嶋、水瀬の3名が満貫圏内で競っている点差でオーラスを迎えた。ラス目の松嶋も親番だ。逆転の可能性は十分に残されている。そんな中、瑞原が役ありのテンパイを入れた。アガればトップの彼女は、当然ここはヤミテンを選択する。
テンパイ二番手は水瀬。最も打点が安くなる入り目となってしまったが、ここから打点アップを望むのは難しい。ツモ裏条件の1着順アップが現実的か。
が、とをポンしてテンパイを入れている松嶋のもとへ、当たり牌のがすぐさま訪れた。松嶋としては、を切ってとを吊り出す狙いを持った意志ある一打だったが、こうなってはを止められるわけがなく――
水瀬の一発ロン。さらに裏ドラも1枚乗って、水瀬としては望外の満貫和了。1回戦は2着順ダウンの屈辱を味わったが、2回戦は真逆の結末となった。
「1回戦の放銃から切り替えはできたか? そこは私、プロなので」
そう語って水瀬は破顔した。窮地にあっても自分を貫き続ける。彼女はそんな強さを僕たちに見せてくれた。
一方、2回戦が3着となったことで再びマイナス圏内に突入した西嶋。なんとか巻き返しを図りたい3回戦の東2局1本場には、ドラが3枚。わずか4巡で1シャンテンとなった。
赤2の松嶋も、をポンして前へ出る。手がぶつかりそうな予感が早々に漂う。
をアンコにした西嶋。さらに手広くなり、攻撃態勢は整った。
が、先制リーチは親の瑞原だった。を引き、の3メンチャンだ。
同巡、西嶋のテンパイを果たす。相手が親とはいえ、こっちはドラ3だ。選択肢は2つ。危険牌(実際に入り目)のを切ってに受けるか、現物のを切ってに受けるか。西嶋は――
を選んだ。自身にドラが3枚あるとはいえ、プリンセスリーグは赤牌が採用されているルールだ。実際には赤牌3枚のうち2枚は松嶋の手元にあったが、瑞原が抱えていてもおかしくない。
「の方が山にいそうとは思っていたのですが、が危ないと見ていました」
結果的に入り目だったものの、西嶋の読みは的中していた。
そんな西嶋をあざ笑うかのようにを持ってきたものの、最高位戦日本プロ麻雀協会の女流最高峰タイトルを2度も手にした彼女の絶妙なバランスを垣間見た思いがした。そして――
盤石の1シャンテンとなった松嶋がをリリースして決着。
裏も1枚乗せて、瑞原がメンピン・ドラ1、5800は6100を加点した。結果的に好機は逸したものの、西嶋はこうして失点を最小限度に食い留めてきた。だからこそ――
次のチャンス手も生きてくる! 続く東2局2本場、メンピン・赤・ドラの先制攻撃を西嶋がかけた。
このリーチを受けながらも、すでにを仕掛けている松嶋がカンをチー。ドラのにくっついた場合はを安全に処理できそうだし、ホンイツで満貫が確定すればを勝負する価値もありそうだ。結果は――
を2枚持ってきて・ホンイツ・赤1のテンパイを入れた。
同巡、現状ラス目の水瀬が待望のテンパイ。メンピンの待ちだ。そして――
松嶋のもとへ、再びが巡ってきた。自身は満貫テンパイで、西嶋には通した牌だ。ツモ切る理由はいくらでもある。
だが、松嶋は迂回を選択した。を切ってへのくっつきによる復活を目指す。この迂回が――
最後のを西嶋がつかむというドラマを生んだ――
裏も1枚乗せて、水瀬が8000点のアガリ。西嶋、痛恨のラス目転落――。
そして先ほどの立役者である松嶋が、リーチ・ツモ・赤・ドラ・裏の満貫ツモを成就。2着目へと浮上し、西嶋は親かぶりでさらなる失点を喫してしまう。
東4局は、西嶋と松嶋の2人テンパイ。迎えた南1局1本場、西嶋に今度こそは! と言わんばかりの手が入った。赤とドラを1枚ずつ内蔵した3メンチャンリーチ。うれしすぎる引きで絶好の待ちとなったが――
トップ目の瑞原が押し返していく。をポンし――
イーペーコーのヤミテンを入れている松嶋が放ったも――
当然ポン! こちらも3メンチャンの満貫テンパイを入れた。このめくり合いは――
瑞原が制した! 2100-4100の加点で他者を突き放す。
続く南2局、水瀬に反撃の機会が訪れた。絶好の赤3テンパイ。待ちの選択ができる牌姿だが――
を切っての3メンチャンに構えた。は2枚切られているため、待ちから除外。は残っていないが、を瑞原と西嶋が1枚ずつ切っており、と比較して場に放たれる公算が十分にある。なにより自身がを切っているため、残り1枚のも狙い目だ。
そのリーチの間隙を縫うように、瑞原もチートイツ・ドラ2のテンパイを入れた。は西嶋が切ったばかり。こちらもアガリが見込めそうな待ちだ。
瑞原が切ったに、即座に反応したのは西嶋だった。役なしテンパイからをチーして――
切り。水瀬がを早めに処理していることもあり、このもアガリが拾えそうだ。だが――
そのが受けに回っている松嶋のもとへ食い流れた! 西嶋としては必然のチーだったのだが、結果論で言えば鳴かなければ300-500をツモっていたことになる。彼女にとって、ただただ不運という他ない。
続けて、瑞原のもとへ3枚目のがやってきた。水瀬のスジ牌ではあるが――
宣言牌のスジを容易に切るわけにはいかない。ましてやドラだ。現状トップ目ということもあり、ここはリスクを冒さずすでに西嶋が通している切りを選んだ。
そしてを引いた西嶋が切りで待ち変え。理で言えば、より安全度の高いを切って水瀬の現物であるで待つのは正着なのだが、は――
そう、水瀬の当たり牌だ。この放銃によって、西嶋が箱下へと突入してしまう。
続けて南3局、ファーストテンパイを入れた瑞原。役なしだが――
を縦に置いた。とは1枚見え。打点も低く自身はトップ目のため、無理に守備力を落とすような選択はしない。さらに3巡目にドラのを切っている水瀬から、いつリーチがかかってもおかしくない。
実際、水瀬は受け入れ十分の1シャンテンだった。
次巡、瑞原は絶好の引きで役ありテンパイに構えることに成功。そして――
テンパイした水瀬から、すぐさまが放たれた。
ピンフのみの1000点。瑞原の絶妙なかわし手で、水瀬のリーチは不発に終わった。
迎えたオーラス、水瀬は松嶋と1300点差の3着目だ。西嶋は着アップが見込みにくいため、素点回復を目指したいところ。親の松嶋は1メンツもなく、なかなか苦しい形。
水瀬は配牌2シャンテン。赤とドラも1枚ずつ抱えた大チャンスの手だ。瑞原とは16300点差だが、もしかしたらトップ浮上さえ狙えるかもしれない。
瑞原は1メンツがあるものの、不要牌の処理にしばらく時間を要しそうだ。
そして西嶋。高打点を目指すならばトイトイ、チートイツ、ホンイツ、チャンタ、123の三色といった手役を絡めるしかなさそうだ。から切り出し、あらゆる手役の可能性を残す。
2巡目、水瀬が早くも1シャンテンに。だが――
受け入れは広くなるものの、なかなかテンパイへと至らない。7巡目にはドラのを持ってきたが――
これをツモ切り。リスキーなトップ狙いよりも、着実に2着を狙ったのだろう。プリンセスリーグの順位点は10-40、3着から2着への浮上は20000点相当の価値があるため、じつにクレバーな一打に思えた。
そんな中、西嶋がメンピンのリーチをかけた。どのみち着順アップが見込めないのであれば、少しでも素点回復を目指した方が良い。それに、この局面での西嶋のリーチは最低でも満貫クラスはありそうに思える。けん制効果も抜群だ。ただし――
3着目の水瀬だけはブレーキをかけるわけがない。をプッシュし、3メンチャンのヤミテンに構えた。結果は――
西嶋がツモ! 裏ドラも1300-2600の素点回復に成功した。
3回戦が終了し、瑞原が大きく抜け出すこととなった。松嶋がオーラスに2600を親かぶった結果、水瀬と同着に。プリンセスリーグでは同点の場合は順位点分けとなるため、両者ともに3回戦は▲3.8pとなる。さらなる混戦模様の中、この日の最終戦が始まった――。
東1局、親番の西嶋がドラ2の先制リーチをかける。この日、西嶋にはじつに多くのチャンスが訪れた。だが――
その結果、反撃の憂き目に遭う展開が非常に多かった印象が強い。同じくドラ2の松嶋が、を切ってカン待ちのテンパイを入れた。そして――
西嶋がをつかんだ――
・ドラ2の6400点。まずは松嶋がアドバンテージを握る。
続けて東2局、水瀬が待ちでリーチ!
このリーチを受けた西嶋は、好形の1シャンテンで反撃態勢を整える。まずは比較的安全度の高い切り。
続けてドラのを引いたが、臆さず切り飛ばしていく。このメリハリは西嶋の強みの一つだ。だが――
またしても当たり牌をつかんでしまう。
1300点の放銃を許したが、満貫級の手で退いていたら加点できるわけもない。
東3局は、瑞原がわずか5巡でチーテンを入れた。ダブ・赤・ドラの12000点。リャンメンチーをしているため相当警戒されそうではあるが、ヤオチュー牌のは十分に拾えそうだ。そして――
またしても1シャンテンの西嶋がをリリース。
西嶋、この半荘3度目の放銃は、12000点という大きな失点となった。
東3局1本場、をポンして松嶋が颯爽と1シャンテンに。
その後、西嶋がをポン! ドラのがアンコで、またしても本手だ。
先にテンパイを入れたのは松嶋。をポンして・赤2、とのシャンポン待ちに。
次いで西嶋もテンパイ。をチーしての待ち。今度こそは――
1シャンテンの水瀬のもとへ、完全不要牌のがやってきた。これを――
水瀬、切らず! は西嶋にも松嶋にも危険な牌だ。すでに自身が後手を踏んでいると見て、いくら満貫手でもテンパイしていない状態で押せる牌ではなかった。
そして決着が長引いているうちに、親の瑞原がリーチをかける。リーチ・タンヤオ・イーペーコーのカン待ち。そしてこのリーチが入ったことにより――
水瀬は躊躇することなく撤退を決めた。場況に即した打ち回しで、見事に放銃を回避してみせた。一方――
トップ目からの直撃さえ狙えるこの局面で、西嶋が中スジのを止めるわけもなく――
松嶋に3900の放銃となった。
次々とチャンス手が巡ってきながら、結果はまさかの4連続放銃。思わず呆然自失としてしまいそうな展開だが、対局後の西嶋は「そうでしたっけ? あんまり気にしていなかったです」と、じつにあっけらかんとした様子だった。さすがの「逆転の西嶋」である。本人は「メンタルは弱い方だと思います」と謙遜していたが、西嶋は逆境の最中にあってそれを意に介さない強い胆力の持ち主なのだと思う。
東4局、松嶋が自風のをポンして――
もポン。その間に切り飛ばしたのはドラ受けを否定するだった。この手を満貫以上に仕上げようという強い意志が感じられた。ソーズのホンイツが濃厚な河となったが、上家の西嶋はラス目だ。絞ることもほぼないという狙いもあったのかもしれない。
目論見通り、西嶋からをチー。待ちの満貫テンパイを入れた。
同巡、西嶋が待望のテンパイを果たす。猛然とリーチをかけ――
これを一発ツモ! ここに来て、ようやく大きなアガリを手にすることができた。
そして迎えた南1局の親番、着アップのためにここは何としてでも加点したいところ。をポンして切り。1500点のテンパイを入れた。直前に瑞原がをトイツ落とししていたが――
瑞原は2枚目のを切らなかった。注目すべきは、2巡前に水瀬が切っているだ。西嶋はこれをスルーした後にをツモ切り。その後のもツモ切りだ。すなわち西嶋がチーやポンなどを仕掛けてバックに構える選択を拒否している場合のみ、は当たり得る可能性が高い牌となる。その可能性は十分にあり得ると目星をつけ、瑞原は不要牌の切りを拒んだ。
瑞原が放銃を回避している間に、西嶋がを加カン。他家は門前ではあるものの、先に述べた通り、ここでは是が非でも加点をしたい勝負所だ。新ドラは――
そのとを入れ替え、打点を3900点にまで上昇させた。そして――
チートイツのテンパイを果たした水瀬がを切った。すでにを捨てている彼女からすれば、この放銃は致し方なし。
西嶋が3着目の水瀬から3900点をアガり、一気に差を詰める。
続く南1局1本場は、西嶋が松嶋にタンヤオのみ、1000は1300を放銃して終了。親番を終えた西嶋だが、水瀬とは満貫圏内にまで差を詰めている。
南2局、水瀬がリーチをかけた直後に西嶋が・赤1の500-1000をツモ。さらに3500点の差を詰めることに成功した。
そして南3局、ソーズのホンイツへと向かった水瀬のをとらえ、瑞原がタンヤオ・ドラ2・赤1の12000点のアガリを決めた。これが決定打となり、最終4回戦の勝敗は決した。
3回戦、4回戦と連勝を飾ったことで、瑞原が200ポイント越えの大台へと突入。西嶋は最終戦で3着に食い込んだことで、被害を最小限度に食い止めたといったところか。一方、一時はマイナスポイントを半分ほど返済していた水瀬は、最終戦のラスでさらにポイントを失う結果となってしまった。
だが何度も述べているように、このプリンセスリーグは各ブロック8名中5位の選手にまで、予選通過の可能性が残されているシステムだ。瑞原が大きく抜け出たことで、最終戦のボーダーが下がる可能性は十分にある。厳しい展開には違いないが、西嶋も水瀬も最終戦へとかろうじて望みを繋いだ結果とも言える。
「ポイントをプラスするのが一番の目標でしたけど、これならまだ最終戦で挽回できるスコアだと思っています」(西嶋)
「私は借金返済するつもりで、とってもハァーって感じ(笑)。ちょっとダメなところが結果に響き過ぎましたね。だけど、まだまだ逆転の可能性はあると思っています」(水瀬)
どんな思いを抱いていようと、やはりそれが結果に結びつくとは限らないのが麻雀だ。それでも、である。彼女たちは一縷の望みを抱き、予選最後の戦いへと向かう。一打一打に思いを込め、意志を宿す。逆転劇のシナリオが、その果てに叶うと信じて。