前回、「何を切るかは牌をツモってから考えるくらいでよい」としましたが、打牌から牌をツモるまでの間は何もしなくてよいということではありません。その間になすことと言えば、場の状況や他家の動向を把握すること。当記事で言うところの「認知」です。
ツモ切り手出しの区別や、打牌にかかった時間(時間をかけずに切られたら何を切るか迷わないような手牌であることが多い)といった、自分のツモ番が来る前でないと確認できない情報があります。その一方で、自分の手牌に関する情報は実際に14枚手牌が揃ってからの方が把握しやすいのですから、自分のツモ番が来るまでは、「認知」に集中し、ツモ番が来てからは何を切るかという「判断」に集中した方がよいということです。
「判断」のための正しい知識は、今では戦術書で数多く学ぶことができますが、戦術書は何を切るかについて打牌基準を身につけることを目的としたものが多いので、扱われている内容は手牌だけのものか、場況があっても複雑でないものが中心を占めます。場の情報を正しくスムーズに「認知」するための技術は実戦経験を積むより他ありません。
手牌だけで何を切るかと聞かれて、「状況次第」と答える人が一昔前は多くいたものです。そのような発言をする人は、物理の問題に「摩擦や空気抵抗があるから答えは分からない」とでも答えたのだろうかと皮肉の一つでも言いたくなったことでしたが、麻雀は学校教育のように、誰もが同じ教科書で体系的に学んできたわけではありません。打牌選択について体系的に学べる環境が無かった頃に実戦経験を積んで腕を上げた人が、状況次第としか言い様がないと答えるのも無理もないことかもしれません。
私が「現代麻雀技術論」を記すことになったのは、まさにそのような環境が無かったからでありますが、手牌だけの基準を突き詰めようとすればするほど、「手牌だけでは優劣が微妙だからこそ、このケースは場況を見たうえで判断した方がよい」と言わざるを得ないことも多々あることに気付かされました。
場況を見たうえで判断と言っても、さほど難しいことではありません。マンズ、ピンズ、ソーズの3色のリャンメンが揃ったメンツ候補オーバーの1シャンテン、あるいは3色の浮き牌が揃ったくっつき1シャンテンで先手が取れそうなら、「場に安い色を残し、高い色を切る」。既に誰かがテンパイしていて後手を引いている可能性がそれなりにあるなら、「その他家に危険な牌は残して、安全な牌から切る」というものです。むしろターツや浮き牌同士の細かい差を比較することよりずっと容易で、結果にも差がつきやすいものです。
状況次第と言っても、自分の手牌こそが最も重要な状況ですから、まずは手牌の形をよく知り、基本に忠実に打った方がよいというのは確かです。ただし麻雀はそれこそ、どこまでが基本なのかも定かでないのですから、基本が出来たら次のステップに進むというよりは、「手牌と場況」、どちらが打牌選択を決定する要素として重要になるのかを実戦では意識しましょう。戦術書で知識を身につけるというのは、書かれてある通りに打てるようになるというだけでなく、そのことを意識できるようになるためでもあるのです。