スポーツとして捉える
—なるほど、そういう経緯だったんですね。警察庁とのやり取り、業界内部に対する取りまとめ、水面下での動きがよくわかりました。それで最終的に9月に通達文ができたときに、『スポーツ競技として認められているから風営法の対象から外す(※注通達文参照)』とありましたが、あのような落としどころはどうやって決められたのでしょうか?
斎藤:矢口社長は、ダーツとゴルフだけに限らず、将来、多くのスポーツがデジタル化していくであろうということを予測しました。
デジタル化によって、スポーツは競技からエンターテイメントにシフトし、観戦するものからプレイするものへと変化して、より多くの競技人口を獲得していく。
しかしながら、デジタル化によってゲーム機として風俗営業にとりこまれるということになると、そのような巨大なポテンシャルが潰れてしまう。
このような、既存事業を守るための規制緩和ではなく、将来の新しい産業を創出しようという切り口での矢口社長のプレゼンは非常に説得的でした。
秋元先生もeスポーツのことも頭にあって、スポーツという切り口でこの問題を捉えていたと思います。
—確か議連で矢口社長が発表された時期、2017年の冬でしたでしょうか、警察庁から全雀連に「スポーツ麻雀とはどのようなものか」という問い合わせがありました。私が対応致しましたが、麻雀のスポーツ競技化について警察庁に行って話をしてきた覚えがあります。さて、最終的に規制緩和を実現することができましたが、内々でこれはいける、そういった確信はどの程度あったのでしょうか?
斎藤:矢口社長は強いスタンスで警察庁との交渉に臨んでいました。
僕が矢口社長と警察庁の間を取り持ち、着地点を見つけるという立場になることも多くあったと思います。
もっと多くの時間を要するのが通常だと思いますが、警察庁もかなりのスピードで進めてくれていたと思います。
こちらの熱意が伝わったのかもしれません。
—監督官庁である警察庁、国民目線で新しい時代の産業の在り方を代弁する斎藤先生、そして事業者を代表して業界の健全化と自主規制を図っていく矢口社長、それぞれの立場で熱い議論を交わし、理解を深めることができたからこそ実現できたのだと、本当に伝わってきます。とはいえここまでスピード感をもって実現できたのは、奇跡的だと思うのですが、細かい指摘や厳しい対応も警察庁からそれなりにあったのでしょうか?
斎藤:そうですね、サラッと話していますが、実際は非常に大変でした。
風俗営業から外すということはそんなに簡単な話ではありません。
私が見ていないところで矢口社長も業界の取りまとめなど、大変なご苦労をされたと思いますし、警察庁に対しても粘り強く、かつ誠実に話をしていました。
例えば、様々なダーツ機の種類や遊び方について細かく説明した上で、警察が想定するリスクを把握しながら、お店の管理体制についても細かく議論していた印象です。
矢口:警察庁からさまざまなご指摘を頂きましたが、一つずつ対応していきました。
ダーツ機の写真を提出したり、警察の方の視察もあったりしました。
規制緩和は一時的な可能性も…
—なるほど、やはり目に見えない部分で、さまざまなやり取りがなされていたのですね。さて、これで風営法から除外となりましたが、一つの課題として、業者の管理体制が挙げられると思います。この点については、協会で自主規制ルールを作って各事業者に守ってもらう形になるのでしょうか?
矢口:規制緩和が実現できた中で、自主規制という部分は大変重要であり、協会のHPにQ&Aを載せて事業者への周知を図っております。
—警察の方は当面見守っていく感じでしょうか?
矢口:いまのところそう感じています。
解釈運用基準を見ると、完璧に除外したという形ではなく、様子を見るということが書いてあります。
ですから自主規制が守れなければ、数年後に再度規制となることも十分に考えられます。
—なるほど。そうしますと、完全にOKということではないでしょうから、業界の自主規制がしっかりできているかが規制緩和を維持する為のポイントとなりますね。ちなみに今回の規制緩和で事業者が台を増やすなどといった業界的なプラスも既に出ているのでしょうか?
矢口:規制緩和がなされたばかりですのではっきりとはわかりませんが、業界と全く関係がなかった飲食店などから、ダーツを置きたいというような話を聞きました。
そうなったときに、これまでの経緯を知らない事業者が、軽い気持ちで深夜にダーツの営業を行い、自主規制が守れず、起こってしまうであろうトラブルが不安です。
そういうところも含め、メーカー様には周知をお願いしてありますので、しっかりと管理して営業して頂けると思っております。
斎藤:確かに今回の規制緩和をきっかけに新たに参入してきた事業者などが、十分な知識を持たずに営業し、トラブルに繋がってしまうということがあってはなりません。
一部の店舗だけではなく業界としての対応が求められると思います。
矢口:協会として自主規制をするのであれば、事業者を募り、会費を集めて、組織として対応していくという方針もありますが、まだそこまでは考えておりません。
斎藤:ガチガチにやろうとするなら、協会に加盟している店にしかゲーム機を卸さないというやり方もあると思いますが、それはそれで利権を生んでしまい業界の発展を損なうリスクがあると思います。
矢口:協会で規制していくというより、まずは今回の経緯を周知していき、健全な経営を心掛けてほしいと思います。
—それにしても、今回わずか2年足らずで規制緩和を実現できたというのは、時代の変化でしょうか?
斎藤:やはりダンス業界の盛り上がりが大きかったと思います。
そこから夜間市場の話に繋がって、他の風俗営業種の課題もクローズアップされるようになってきたので、規制緩和に向けての機運醸成ができている状態にありました。
ただ、もちろん、ただその機運に乗っかったのではなく、業界がまとまり健全化に向けた動きを作れたというのが大きかったと思います。
風俗営業からの脱却がもたらすメリット
—なるほど。よくわかりました。それでは、最後にまとめさせて頂きますが、今回矢口社長が動かれたことに関して、その総括をお話し頂けないでしょうか?
矢口:私は、最初はどこまで大変なことのなのかあまりわかっていなかったのですけど、ポイントとしては業界の活性化と、働いている従業員や、属しているプロが、自分が扱っているものが、日本でいう風俗営業法というところに属しているというのは、事業者側からしてもマイナスですし、それを変えてあげたかったということが大きくありました。
ですから、今回規制緩和をできたことは非常にうれしく思います。
周りからは、大箱をもってるところしか得をしないよねと言われてしまう部分もございますが、それはプラスアルファの部分であって、従業員が気持ちよく働ける環境、事業所として正直者がバカを見る環境を変えられたのはすごい大きかったと思います。
これはすべての事業者にとって大きなメリットだと思っております。
そして、今回私が知らなかった、弁護士の先生、政治家の先生、そういった方々が、自分たちのこういう業界に対しても、一緒に考えて、行動して頂けるということは発見にもなりましたし、大変ありがたいことだなと思いました。
—それは、本当に麻雀業界にいる私も痛感しております。こちらはまだまだ風俗営業産業ですけども…。また弁護士の先生、政治家の先生の応援も本当に心強いです。それでは斎藤先生からも、総括をお願い致します。
斎藤:企業としての営みの中に、事業を伸ばしていくことと並行して、規制対応やルールメイキングをしていくというマインドセットがない事業者や業界も多いと思います。
事業を健全に発展させていく上での法規制とルール作りというところに目を向けていくというのが、弁護士としての新しい仕事として重要になっていくと思います。
ダンスに続き、今回それがもう一つ実現できたのは、非常にうれしく思います。
—確かに法に対する意識自体があまりない事業者も結構多いと思います。麻雀業界も多くの課題を残しているゆえ、今回のお話は大変参考になりました。斎藤先生、矢口社長、本日はありがとうございました。
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