-この記事は「麻雀界 第70号」(2017年1月1日発行)より転載しています-
カジノを含めた統合型リゾートの整備を政府に促す法律(IR推進法)は、12月15日未明の国会で可決、成立した。政府は施行から1年以内をめどに実施法案を策定する。
数年後にはついにカジノ誕生となるわけだが、麻雀と共通項が多いカジノが日本に誕生することで、この業界にどのような影響がでるのだろうか?
今回、本誌連載でおなじみ、国際カジノ研究所の木曽所長に、麻雀界の視点から見たカジノについてインタビューを行った。
国際カジノ研究所・木曽所長(左)と麻雀界集長・高橋常行(右)
・木曽崇(きそ たかし)
米ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒業。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。11 年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。日本では数少ないカジノの専門の研究者。
やり残し感がある成立
―本日はよろしくお願いいたします。
早速ですが、先日カジノ法案が成立しましたが、急に話が出てきたと思ったら一気に成立となり、傍から見たらずいぶん早い決着だと思うんですが、木曽さんは、この動きはどのように映ったのでしょうか?
木曽:そうですね、最初からお尻を決めて進めたようで、多くの人がずいぶん性急な審議だなと感じたと思います。
私自身まさかこの国会で法案が成立するとは思いませんでしたので、正直驚いています。
やるべき議論が行われず、かなりやり残し感がある成立だったので、あとは実施法案までじっくり議論してもらうしかないですよね。
―ですよね、どうみても二週間程度の審議で成立とは、到底深い議論にはならなかったんだと思います。しかし成立してしまった以上は今後の議論に注目ですね。今後はどのような流れになるのでしょうか?
木曽:今回の推進法の中には一年をめどとして実施法を整備しなさいという政府に対する要求が入っているので、まずは実施法案を整備し、実施法成立後、今度は設置する自治体の入札になり、選ばれた自治体が事業者選定をし、カジノの建設が始まるという流れになります。
―そうすると今回成立したのは、あくまでカジノ(IR施設)を建設するために法整備しなさいという法律で、その後実施法で細かく決められ、建設になるわけですね。早くて何年にカジノができるのでしょうか?
木曽:実際に開業となるのは、どんなに早くても2022年ぐらいでしょうか。
―オリンピック終了後となりますね。
木曽:オリンピックには間に合わないというということは、もともと私も主張してきたので、オリンピック後の振興策としてちょうどいい時期ではないでしょうか?
2022年だと、カジノの建設が始まるのが2019年ぐらいでしょうから、オリンピック関連施設の建設も一段落し、建設需要が落ち着いたところでカジノの建設になれば、継続的な経済効果も期待できますしね。
―やはり、カジノのもたらす経済効果は大きいと思いますか?
木曽:確かに、それなりの効果は期待できますが、せいぜい国内で2~3のカジノで、日本全体での経済に与える影響はたかが知れているとは思いますが…。
避けては通れない〝賭博〟論議
―さて、本誌は麻雀の専門誌ですが、カジノと麻雀は間接的に結びつく部分もあり、そういったところを含めて麻雀関係者はいろいろ気にしていると思います。そのあたりをお伺いしたいのですが、やはり問題になってくるのが〝賭博〟の部分だと思います。
ご承知の通り一部の麻雀店では、なんらかの賭けが行われているところもあり、〝賭博〟についてはかなり敏感になっております。
ただ、黙認産業としてなんとかなっているふしもあり、業界としてあえて虎の穴をつつくような議論は避けてきた部分もあります。
そんな中、同じ4号営業であるパチンコが常にその問題の矢面に立ってきたこともあり賭博法制といえばパチンコという面がありました。
そこに登場したのがカジノです。まさしく〝賭博場〟であるカジノの建設という話がでてくると、正面から賭博の議論をせざるを得ない。
そうなると、火の粉が麻雀界にも降りかかってこないかということとを我々が恐れている部分です。
木曽:一つ大きな論議のきっかけとなるのはギャンブル依存症に関わる問題ですね。麻雀というものがギャンブル依存症に関係があるのか、ちょうどこれから厚生労働省がこの問題を調査しますので、万一ギャンブル依存の中に麻雀依存という現象が入ってしまうと問題があると思います。
あとは、またギャンブル依存とは全く別な論議で、賭博行政に関わる問題ですね。すくなくとも今回のIR法の論議において、競馬などの公営競技、宝くじやtotoなどの富くじ、そしてパチンコといった遊技、ここまでの論議はすべてされてきたんですね。
それが今後、その背後に隠れているギャンブル、裏カジノやオンラインカジノ、あるいは金融のFXバイナリ―オプションなど賭博要素のあるもの、こういったものにまで議論が及んでいくと麻雀も無視できないものになってくると思います。
―なるほど。話がギャンブル全般に及べば、麻雀にも波及するということですね。ちなみにこれは警察庁が主導をとって話を進めていくのでしょうか?
木曽:おそらくこれは、話が各省庁に及んでますので、公営競技を管轄している各省庁、富くじを管轄している各省庁、そして警察庁や金融庁などが横軸で話をしなければならない問題だと思います。
だから、公営競技・富くじ・遊技などが議論され、その最後にギャンブル全般に話が及ぶので、どこまで深堀されるかというところですね。
民間が賭博営業に関わることの問題
―もう一つの議論として、カジノの運営に際し公営と民営という部分も議論されていると思うのですが、この点も重要なファクターではないでしょうか?
木曽:そうですね。私は、今の制度に則って議論を進めるほうがシンプルだと思っていますので、公営という枠の中でいかに民間の投資と運営能力を引き込むか、有効利用するかが重要だと思っています。
しかし一方で今回の推進法を起案したIR議連側は最初から民間を前提としていて、そうなってくると賭博行政について突っ込んだ議論せざるを得なくなりますよということですね。
IR議連が推進法の審議の中で使っていたロジックとしては、違法なものを違法じゃないようにする条件として8要件あるんですが、今まではそれをすべて満たしていなければできないという解釈だったんですが、議連はこの8要件の要素を総合的に判断するということになっている。その着地点がどこになるかですかね。
究極的には私は、どちらでも構わないのですが、そもそも民営ありきで議論するのではなく、もっと議論を深めましょうよというスタンスなんですね。
民間での運営には賭博議論全般に及ぶ問題があり、カジノだけの問題だけではなく包括的な論議が必要だと主張してます。
―IRでは200名議員がいてこの皆さんがそのあたりを熟知しているわけではないですよね。そこまで民営ありきだと、なにかやはり背後には強大な利権がうごめいているような…?
木曽:そのことで言えば、お互い様というところもあり、議連側としては、カジノが一定の省庁に結び付けばそれはそれで省庁の利権になるので、官製利権になってしまうという主張もあるんですけど、だから民間だっていうのはちょっとどうなのかと思います。
カジノに麻雀が誕生する!?
―さて、それではいよいよ日本にカジノが誕生するとなれば、そのカジノには種目がありますよね。それはどのように決められていくのでしょうか?そしてそれに麻雀が入るという可能性はあるのでしょうか?
木曽:種目については設置されるカジノを検討する内閣府の組織で検討され決められるでしょうけど、法律で細かく決めるというよりかは、その下の政省令でカジノの中に設置することができるゲームの種目が定められていくと思います。
麻雀については、実際マカオでもありますし、麻雀がカジノのゲームの種目として認めるということは十分あり得るんじゃないでしょうか?
―例えば、麻雀ルームが常設でなく賞金制大会も法整備が必要なんでしょうか?
木曽:もちろん決めないといけないですよね。基本的に賞金制大会と平場のゲームは、違うロジックの法整備なるのですが、基本的にカジノのゲームは3つの種類があります。
カジノが同元で、カジノの中に利益収益率が決められているゲームですね。例えばポーカーでも、ビデオポーカーです。これは麻雀でもありえますね。
つぎにキャッシュゲーム、リングゲームと呼ばれる、客同士が戦っていてその中で収益をあげる方法。
3つめがトーナメントゲームですね。お客様が参加費を持ち寄って分配する形式です。いずれのカテゴリーでも麻雀、もしくはそれににせたゲームは可能ですよね。
―なるほど。カジノに麻雀ができるとしてもいろんな可能性があるということですね。
業界としてカジノの問題を見過ごしているとどのような形かで麻雀がカジノに現れる可能性もありますね。
木曽:それはもちろん、どこかで誰かが画策して、勝手に麻雀の議論が進みカジノに麻雀が登場する可能性はありますよね。
カジノが既存店舗に与える影響
―ちなみに、カジノに麻雀ルームが設置されるとして、既存の店舗との法整備は何か必要になりますか?
木曽:風俗営業種として認められている麻雀店が、カジノに麻雀ができたからと言ってどうにかなるということはないですよね。ましてや賭けが認められるとか。
―そうするとカジノが既存の麻雀業界に与える影響はあまりないのでしょうか?
木曽:直接、街場の麻雀店に影響があるとは思いませんが、もしかしたらポーカーに競技人口をとられる可能性は考えられます。
麻雀じゃないとダメって人はもちろん多いと思いますが、知的ゲームに楽しみを見出している人は麻雀なくポーカーをやるかもしれませんよね。
逆にポジティブな影響も考えられます。それは、例えばカジノで高額の賞金制大会が認められるということになれば、それで活躍するために、既存の店舗で練習するというかお客が集まるということはあり得ると思います。
この合法的な賞金制大会というのは、麻雀に関わらず、ポーカーにしてもそれ以外のゲームにしても、その業界が活性化するポテンシャルは十分にありますよね。
もし、横断的にこの賞金制大会の法整備がされていけば各業界大いに飛躍するかもしれません。
実際に平場の設置についての議論より、トーナメントゲームを認めていく動きのほうが双方にプラスになる可能性があるかもしれません。
麻雀業界が考えなくてはならないこと
木曽:麻雀業界がカジノとどうかかわるか、それは業界自身でしっかり考えたほうがいいと思います。
カジノに麻雀ができるのが賛成か反対か、賛成ならどのような形が望ましいか。そして業界組織だけの議論では、どうしても声が届きにくい部分もあると思いますので、業界関係者と有識者でなる専門委員会を立ち上げ、著名な有識者に意見を代弁してもらうとか、いろんな方法があると思います。
それと、カジノとは直接関係ないかもしれませんが、昨今の警察庁の方向性として、いままであいまいにして棚上げにしてきた部分をどうにかしようというところが見られます。
ダンスの問題もそうでしたが、パチンコのクギ問題もそうですよね。そうなると麻雀業界としてもそれなりの準備、実際にいますぐどうするというわけにはいかないですが、現状の法律の中で決して褒められた営業をしていない部分もあると思うので、そういうところをどうしていくのか。方向性だけでも見出していくべきではないでしょうか?
―確かに、仰ること痛感しております。これまでにないカジノという巨大な遊技の誕生を前にまずは業界内部の整備をしっかりと行うべきですよね。
今後カジノの行方も注視しながら、しっかり議論を重ねていきたいと思います。本日はありがとうございました。
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