この日の「麻雀ウォッチ プリンセスリーグ2019」で、Cブロックもターニングポイントとなる第2節へと突入した。システム上、ブロック内5位の選手まで予選突破の可能性はあるとはいえ、たった1節で各者のポイント状況は大きく上下していた。この日の対局者で言えば、とりわけ――日本プロ麻雀協会所属、「微笑みの天使」杉村えみにとって、この第2節は正念場といえた。第1節で▲124.5ポイントものマイナスを喫した彼女の最低目標は、抱え込んだ借金を半分以上返済すること。原点まで1トップくらいの位置についておけば、最終節でプレーオフ以上に残る可能性は十分に残る。
「第1節では負けてしまいましたけれど、内容は決して悪くはなかったと思っています。自分の良かったところまで反省してできなくなってしまうのが一番良くなくて、それは避けたいなと思っていました」
前節で心がへし折れてもおかしくないようなビハインドを背負いながら、杉村は天使のように微笑んでいた。現状を打破すべく、課せられたミッションに杉村が挑んだ。1回戦東1局、先制テンパイを入れたのは中里だった。をポンしてカン待ちに。さらにを引いてリャンメン待ちへと変化。打点はのみだが、ドラも赤牌も1枚も見えていないこの状況だ。他家のアガリを、この手でどうに防ぎたい。実際、愛内にはリーチ・メンホン・赤の鬼手が入っていた。中里の当たり牌を4枚も使い、ツモろうものならば三暗刻がついて倍満が炸裂する。さらに石井もドラ3のリーチを猛然とかけたが――宣言牌のが刺さって中里の1000点のアガリ。点棒の移動こそ少ないものの、沸々と熱さが伝わるような局面がいきなり訪れた。続く東2局も、愛内が鋭い攻撃を見せる。をポンして――を切ってまっしぐらにホンイツへ。ただしドラがのため、は瞬間残しておく。さらにをポンして――待ちの満貫テンパイを入れた。そのは――杉村の手元に1枚ぷっかりと浮かんでいる! 先にも述べた通り、杉村はマイナスポイントを返済しなければいけないのだ。場に1枚切れの、切るならばこのタイミングしかないというところだが――をツモ切って放銃を回避する。この手をイッツー・ドラ1の1シャンテンに定めるとしたならば、2枚目のを残しておく価値は低い。ポイントがないからといって、なんでも遮二無二押せばいいというものではない。杉村が自ら語っていたように、自身の持ち味を消さないような打ち回しを厳しい局面でも貫いていることが印象的だった。決着が長引いている間に、中里がカンをチーしてタンヤオ・ドラ1のテンパイを入れる。直後、杉村のもとへが流れてきた。1シャンテンをキープするのであればは不要だが――愛内には通っているを切って迂回を選択した。愛内の最終手出しはで、はおいそれと切れる牌ではない。そうして決着が長引いている間に――愛内がをつかんだ。中里、今度は2000点のアガリで愛内のチャンス手を封殺してみせた。誰も突き抜けた者がいない中、気付けば南2局1本場に。現状ラス目の愛内は、ポンから――切り。愛内からはマンズのホンイツやトイトイなどに仕上げようという、打点意識の高さが随所で感じられた。一方、ここで杉村にビッグチャンスが到来! ドラのがトイツで、赤牌も1枚手の内にある。是が非でも、ものにしたい手だ。愛内は、当然まだまだ攻め手を緩めない。をポンすると――を切ってリャンメンターツを払っていく。字牌は重なれば一気に高打点が現実的となり、受け駒としても優秀だ。故に、もも切らない。さらに、中里が切ったこのも――ポン! まるでどこかの神様や魔法使いのような仕掛けだが、他家へかけるプレッシャーは絶大だ。そして、こんなバラバラな牌姿でも――わずか4巡で張ることだってある。単騎、5200のテンパイ。本場と供託を加味すれば、これをアガれば愛内もトップ戦線へと浮上できる。そんな厄介な仕掛けを受けながら、杉村はチートイツの1シャンテンまでこぎつけた。愛内の鳴きによってが普段以上に出づらくなり、並びシャンポン形のマンズもほぐすのが難しい。ならばとばかりに、メンツ手に見切りをつける切りとした。メンツ手ではなく、ドラ3チートイツの1シャンテン。だからこそ――愛内の当たり牌であるも止めやすい。放銃を回避し、大物手成就の可能性を繋いだ。その直後、を仕掛けている石井がを切ってテンパイを入れた。もしかしたら愛内のような仕掛けをしている人に対し、は切れないという方も多いかもしれない。だが愛内が序盤からがトイツ以上だったとしたならば、無理に染め手に移行しようとはせず、 といった優秀なターツを無理やり払うようなことはしないのではないか? という読みを働かせることができる局面でもある。もちろん後重なりや単騎待ちに当たる可能性があるとはいえ、テンパイしたこの点棒状況であるならば、十分に勝負する価値がある牌だと石井は判断したのだろう。そして、このを――杉村は鳴かず! そしてアンコになったも――ツモ切り! を鳴いてもをアンコにしても、やといった浮き牌が切られることは濃厚だ。いずれも当たり牌だが、チートイツテンパイを貫いたことで、杉村は放銃の未来を見事に捻じ曲げてみせた。そして――を重ねて待望のテンパイを入れた。待ちは、もちろんケアし続けただ。ヤミテンに構え――ノベタンに待ち変えをした愛内から、がこぼれた。あまりに鮮やかな8000は8300のアガリ。この一撃が決定打となり、杉村は初戦トップという最高のスタートを飾ることに成功した。借金のおよそ3分の1を返済した杉村。以前ブロック内7位のままとは言え、6位以上を射程圏内に捉えている。この勢いに乗って2回戦も快勝を飾りたいところだが――東4局、石井が会心の4000オールを決める。さらに石井は、この親番で3連続アガリを決め、50000点オーバーの大トップ目に立った。すでに石井と40000点以上の開きがある杉村。だが、この・赤・ドラの手を焦らずヤミテンに構え――石井から直撃することに成功。5200は6100のアガリをものにして踏み留まると――続く南1局にはリーチ・ピンフ・ツモ・赤の1300-2600をアガって2着目にまで浮上してみせた。脅威的な粘りを見せる杉村。ラス目に落ちた愛内も負けていない。親落ちして大きく加点したいところで、高めイーペーコーのピンフテンパイを入れた。愛内は――ここでヤミテンを選択。を引くとタンヤオとイーペーコーが確定し、高めリャンペーコーの芽も見えてくる。この手を勝負手と定め、高打点を仕上げようという意識をここでも覗かせた。その間に、杉村も・ドラ1のテンパイを入れた。単騎だが、このと心中する気はない。親の中里と愛内にスジ牌のを残すことで、比較的安全に待ち変えする算段を立てたのだろう。そして――愛内がとを入れ替えてリーチ! 狙いのではなかったが、十分なクラスチェンジだ。結果、愛内がを一発ツモ! 即リーしていたら700-1300だったが、絶妙な判断で2000-4000の手に仕上げてみせた。愛内の満貫ツモで同得点となった杉村だが、大事な親番となった南3局、ここでもタンヤオ・ドラ3の好機が巡って来た。ヤミテンを選択すると――マンズのホンイツへと向かっていた愛内がをつかんだ。電光石火の12000をアガり、気付けば石井も満貫圏内に。続けて南3局1本場、杉村が・ドラ2、2600は2700オールをアガると、今度は石井と同点に! 40000点以上のビハインドを、ものの見事に帳消しにしてみせたのだった。こうなると、なんとしてでも杉村の親を蹴りたい石井。南3局2本場、9巡目にシャンポン待ちのリーチをかけると――ここまでなかなか手が入らなかった中里も応戦! 両者のめくり合いは――石井が制した。をツモり、500-1000は700-1200のアガリ。打点は決して大きくはないが、これで再びトップ目に立ったことが大きい。さらに杉村と2000点以上の差がついたため、中里や愛内がオーラスに満貫をツモったとしても、親かぶりで着落ちするという心配もない。石井にとっては、打点以上に価値があるアガリと感じたことだろう。オーラス、ドラ。石井と4800点差の杉村は、5200出アガリか1000-2000のツモがトップ条件となる。1巡目、杉村はをアンコにしてが手の内に。なんと、すでに条件が満たされているではないか! あとは門前でこの手を仕上げ、アガリきるだけでいい。だが、もちろん他家も黙ってはいない。先制リーチを入れたのは愛内だった。リーチ・ドラ2の待ち。中里をまくって3着に浮上し得る手を、しっかりと作ってきた。着落ちのリスクがない杉村。イーペーコー確定のテンパイを入れると、ヤミテンのまま淡々と無スジを勝負し続けた。着落ちのリスクがほぼない以上、この手で降りる理由はないと言っていい。結果は――杉村の愛内の2人テンパイで流局。猛烈な追い上げを見せた杉村だったが、一歩及ばず2回戦は2着となった。トップこそ逃したものの、+20.9ポイントという十分なプラスを得た杉村。借金も半分以上返済し、ひとまず当初の目標をクリアしつつあった。一方――最高位戦日本プロ麻雀協会所属、「天真爛漫特攻天女」中里春奈は、連続3着という結果で杉村とほぼ並びとなってしまった。昨年のプリンセスリーグではブロック内最下位という屈辱の結果に終わり、今年は出場権争奪戦を経てこの舞台に帰って来た。復調の兆しを感じさせていたが、番組冒頭に彼女は「麻雀迷子中なんです」と語っていた。
「先月、上のリーグの方にセットをしてもらった時に指摘されたんですけど、そこから迷子です。私は門前型で鳴かないタイプなんですけど、鳴かないから手数が少ない。だから押すべき時には押さなきゃいけないんですけど、1節目は押すところで押せないで、ズブズブ行ってしまった感じがありました」
中里は門前守備型の打ち手だ。厳しい配牌の時は辛抱強く我慢し、好機を待つ。そうして経験を積み重ねてリーグ戦でも昇級を続け、現在は最高位戦B2リーグに属している。最高位戦リーグに出場している女流雀士ではトップクラスの結果を残しているわけだが、そんな彼女でも迷走期にあるのだという。
いや、正確には中里は試行錯誤の最中なのだろう。いまだ麻雀の戦術は進化・変化を繰り返しており、その渦中に居続けるプロ雀士が結果を残し続けようとするならば、成長の可能性を模索することを止めてはならない。既存のスタイルに甘んじることなく、殻を破ることを諦めない。迷路の出口はどこなのか? 焦りもするだろう。恐れることもあろうだろう。それでも彼女は栄光をつかみ取るため、迷路の出口を求め続けた。3回戦東1局、先制リーチをかけたのは中里だった。同巡、愛内が満貫確定の強烈なリーチで追いかけると――これをツモ。2000-4000の先制パンチで、中里の出鼻をくじいた。東3局は中里の親番。加点を試みたい局面ではあるが、先制リーチを入れたのは杉村だった。リーチ・赤の待ち。この手に紛れて――石井がタンヤオ・イーペーコー・ドラ2のヤミテンを入れた。そこに愛内も参戦! リーチ・ピンフの待ち。高めならタンヤオと三色がつく、これまた勝負手だ。2軒リーチに挟まれた格好の石井のもとへ、が。待ちが選択できるが――安牌のを切ってヤミテン継続とした。これに捕まったのが愛内だった。石井が8000点を出アガってトップ目に浮上した。南1局、先ほどの失点を取り返したい愛内。赤・ドラのこの手、シンプルな受け入れだけを考慮するとと切ってピンズをほぐしたくなるが――を切ってタンヤオを確定させるコースに。鳴きも視野に入れた一打だ。また、ピンズが場に安く――このような縦重なりが十分に期待できる!さらなる変化が見込めるためは残し、をトイツ落とししていく。そしてを引き入れて満貫確定のリーチ! はスジにかかっているが、それ以上に先ほども言った通り――いかにも山に眠っていそうだ! を一発でツモり上げ、3000-6000の加点でトップ目に再浮上した。
そう、この3回戦も中里は、ほとんど勝負に向かえるような手が巡って来なかった。迷路を抜け出そうにも、道を切り開くための道具がない。オーラス一本場、中里は――満貫ツモで杉村をまくって3着に浮上するという点棒状況だった。まずテンパイを入れたのは石井だった。メンホン・・イーペーコーの満貫確定手だ。だが、これがなかなかアガリに結びつかず、待ちの変化も訪れない。勝負は終盤へともつれ込み――ツモ番残り1回というところで、ようやく中里がテンパイを入れた。赤2・ドラ1で、満貫ツモ、跳満出アガリの条件を十分に満たし得る手だ。カンに受けるか、カンに受けるか。慎重に考え――カンでリーチをかけた。石井と愛内が一打目にを切っており、を持たれている可能性が比較的高いと見たのだろう。そのリーチを受けた一発目、石井のもとへ3枚目のが訪れた。もも1枚切れ。安全にテンパイを維持するならば字牌切りとなるが、自身と中里のツモ番が1回ずつ残っており、実質、アガれるチャンスが2回残っている。また、ツモり四暗刻のテンパイでもある。いくつもの選択肢がある中、石井が選び取ったのは――中里の中スジであり、3メンチャンに受けられる切りだった。リーチ・一発・赤2・ドラ、裏は乗らず8300のアガリ。着アップこそ叶わなかったものの、土壇場で大きな素点回復をすることに成功した。これは迷路の先に見えた光明なのか? それとも、まだまだ暗中模索が続くのか? いずれにせよ、中里は次の最終戦で踏み止まらねば予選突破が厳しい立ち位置にあった。その最終4回戦も――愛内のリーチ・ツモ・赤2・ドラ、2000-4000から開幕。早々に暗雲が立ち込める展開に。とはいえ、まだまだ東2局。だが、ここでも中里にとってただならぬ展開が待っていた。愛内が手格好十分の2シャンテンからドラのを切り飛ばす。これを――ドラトイツの杉村はスルー。杉村も門前寄りなスタイルだが、ここでのバックは望ましい仕掛けではないという結論に至ったのだろう。だが――この中里の暗カンで事態は大きく動き出す。新ドラは――!愛内は2枚目のを当然ツモ切ったが――さすがの杉村も2枚目のはポン! 親のドラ6の仕掛けという凶悪すぎる威圧行為だ。この仕掛けに対し――中里がをポンして立ち向かう! 強気な仕掛けのようにも思えるが、中里からは杉村の仕掛けはどのように見えただろうか?
が2鳴きだった理由は、鳴けなかったか、鳴きたくなかったかのいずれかだろう。だが、1枚目と2枚目の間にはを1回手出ししたのみ。可能性で考えるならば、その間にが重なったというパターンよりも、圧倒的に鳴きたくなかったからというケースの方が多いだろう。
鳴きたくなかった理由は、門前で仕上げたかったから、アガリまで遠いから、アガリにくいから、警戒されたくなかったからなど、さまざまな理由が考えられる。だが、いずれにせよ役はだいぶ限定されそうだ。端牌から切り出す素直な進行で、ホンイツやトイトイは考えにくい。役牌で唯一切れていないのは、自身が2枚抱えているのみ。そう考えていくと、杉村の役の本線はバックではないか。石井と愛内からはの所在が不明なため、おいそれと前には出れない。だが中里からはが2枚見えているぶん、思いきって踏み込むことができた。結果は中里と杉村の2人テンパイで流局。ドラ6の暴威に怯むことなく、中里はこの局でできるベストを尽くして加点に成功したのである。輪郭がぼやけていた迷路の出口が徐々にはっきりしてきたような、そんな印象を覚えた。そして南1局3本場、親番で1300は1600オールのアガリを成就させる。供託2本を加え、微差ではあるものの待望のトップ目に浮上した。あと一アガリくらいしておけば、この半荘をトップで終えられるだろう。だが――この顔ぶれの中にあって、たやすく事が運ぶわけがなかった。南1局4本場、石井がイーペーコー・赤・ドラのヤミテンを入れると――杉村が石井の当たり牌を重ねてリーチをかけた! そして――高めのを一発でツモり上げて、裏が2枚! リーチ・ピンフ・一発・ツモ・イーペーコー・赤・ドラ2、4000-8000は4400-8400のアガリが炸裂した。中里は、まさかの親かぶりで原点割れという結果に。親番もなくなり、一転して窮地に追いやられた中里。残り2局で大きなアガリを実らせなければ、トップ奪還は絶望的だ。南3局、中里は3巡目に大事な選択に迫られた。123の三色、イーペーコー、三暗刻など、さまざまな手役の可能性が見えるが――を選んだ。三暗刻にのみ見切りをつけ、三色、純チャン、イーペーコーやリャンペーコーなどの可能性は残す、じつに柔軟な一打だと思う。そして、うれしい引きで1シャンテンに。を切って、最高形の純チャン・三色を意識する。4巡目、杉村はあっさりとチートイツの待ちでテンパイを果たしたが――この局面で中里の止まる理由などない。を引いて一応テンパイしたものの、当然のようにこれをツモ切りする。リーチのみの価値が非常に低い局面で、なによりを残しておいた場合の――この引きが強すぎる! リーチ・純チャン・イーペーコーで出アガリ満貫が確定している。そして――3巡目にを切っていることから、出アガリに相当期待が持てる。狙い通り石井からを出アガリ、8000点の収入を得た。杉村まで満貫ツモ圏内に近づいた中で迎えたオーラス、をポンした親の愛内がタンヤオ・赤2のテンパイを入れる。・赤なしのとポンしている中里も1シャンテンに。そしてをポンして待望のテンパイを果たす。現状5200点だが、トイトイや引き、ポンで満貫になる。現状のまま、杉村から直撃をしても条件クリアだ。一人大きく沈んでしまった石井だが、ドラ2チートイツのリーチで応戦! ツモって裏2の倍満なら、愛内をまくって3着目に立てる。このリーチを受けた愛内のもとへ、がやってきた。現状の待ち(実質的にはペンだが)をキープすると、中里への放銃となるが――ここはを切っての3メンチャン受けとした。この煮詰まった局面で、中里が引いたのはション牌でドラのだった。石井にはスジ牌ではあるが――彼女はを合わせ打った。トップ条件が確定しているわけではないカンで、最後まで心中できるのか? 愛内も前に出ており、2着から3着に落ちようものならば失う順位点は20ポイントにものぼる。この瀬戸際にあってを選べた中里は、僕には迷路から抜け出しているようにしか見えなかった。そして、安牌に窮した杉村が石井の現物であるを捨て――愛内にタンヤオ・赤2の5800を放銃。オーラスは1本場へ突入した。杉村にわずか4000点差の3着となった愛内は、を仕掛けて前へ出る。ドラのもトイツで、打点十分だ。中里もピンフ・ドラの1シャンテン。杉村と3400点差なので、彼女にも条件を満たせる手が入っていた。愛内も1シャンテンに。をでチーして、切り。現状はカンとカンという苦しい受けが残っているので、にくっついての好形変化を意識した一打だ。僅差である以上、杉村も前へ出ざるを得ない。だが中里と愛内と比べ、一歩速度で劣っていた。最初にテンパイを入れたのは――愛内だった。カンを引き入れてのカン待ちだ。続いて中里もテンパイ。タンヤオ・ピンフ・ドラの待ち。当然条件を満たしているため、ヤミテンとする。リーチをすると降着してしまう中で、役ありテンパイで条件を満たせたことは大きい。これが引きテンパイだったら、どうなっただろう? 直撃以外で条件を満たせないテンパイなのだから、中里はリーチをかけていたことだろう。そしてリーチをかけていたならば――杉村がを切ることもなかったように思う。南1局に倍満を親かぶりしながら、奇跡の滑り込みトップ。まさしく薄氷を踏むようなギリギリの勝利だった。「中里さんが迷子と言っていましけど、私が一番の迷子じゃないかなって思っていました(笑)。第2節の結果は良かったけれど、内容では第1節の方が良かったと思います。次は内容も結果もいいものにしたいですね」
杉村は、試合後にそんなことを口にしていた。杉村も中里も迷路に苦しめられつつも、最低目標のチェックポイントにたどり着くことはできたといったところか。残る予選最終節で上位に食い込む可能性は、十分に残っている。迷路の出口に待ち受ける栄光は、彼女たちを祝福するのか? その一つの結末は、予選最終節で明らかになる。