鶴海と田渕のポイント差は、52.8ポイント。順位点ウマが10・20のオカありルールなので、田渕とトップラスを決めれば条件クリア。トップ・3着も素点で2800点の差がついていればいいので、自然と条件を満たしそうだ。
2回戦も鶴海は攻勢だ。ドラ2のテンパイを果たし、カン待ちでリーチをかけた。とのシャンポンにも取ることができるが、m7はすでに2枚切れ。しかも3者の河を見る限り、を持っているようにはとても見えない。
「丸山さんや百恵ちゃんの捨牌は変則的にも見えるところがあって、行方の分からない(手にしまってあるかもしれない)2枚のにアガリを求めるよりは、ほぼ2枚が山にいるであろうカンに賭けました」
そのは、田渕のもとへ。もちろんトップ目の彼女は、おいそれとこれを切らない。
そして都美が追いついてリーチ! 宣言牌はだが、むろん鶴海はこれで後悔するそぶりを見せない。
「がツモれないことが不思議で不思議でしょうがなかったです。なんでだろう? なんでだろう? って毎巡思ってました(笑)」
たしかには山にいた。だが、そのは鶴海のもとを訪れなかった。代わりに、これ見よがしに1枚しか残っていないを持ってきてしまうというのも、なんとも皮肉な話だ。
さらに次巡、都美のアタリ牌であるをつかみ――
3900の失点をした。
続いて東2局、都美がドラの、そして
をポンして、待ちのテンパイを入れた。
これに鶴海が飛び込んでしまう。親番、まだ中盤の巡目でワンチャンスの切りを選択。めいいっぱいに受ける選択でもあったのだが、あまりに手痛い8000点の損失となった。
徐々に追い詰められていく鶴海。だが、チャンスはまだまだ巡って来る。東3局には、ドラ3・赤1というビッグチャンス到来。
4巡目、めいいっぱいに受けるなら切りだが、ペンのターツを払っていく。白・ホンイツ・ドラ3など、仕掛けても跳満が見える手だ。ならば重なってうれしいを残しておく。
と落としている間に、さらにソーズが伸びる。こうなると、もはやも不要か?
いやいや、からの横伸びでも打点が十分すぎる。を引けば、ピンフ・イーペーコー・ドラ3・赤1、ヤミテンでも跳満確定なのだ。それに、鶴海の河は1打目にが切られ、その後も端牌ばかり。ペンのターツを払っていることで、より良形のターツがありそうというくらいで、ここまで高打点の手が入っているとは見えない。ソーズのチンイツまで持っていくとしても、をギリギリまで引っ張った方が、目立たず進行できそうだ。
ここで田渕がリーチ! しかも待ちは、鶴海が使いきれるだ。入り目次第では、トータルトップの田渕から直撃を狙えるかもしれない。
このリーチに対し、鶴海はをチーして、を勝負! ソーズの受け入れを伸ばし、田渕と真っ向勝負を挑む!
そして田渕の河に、が捨てられた。これをチーしてかを切ればテンパイを取れるが――
もちろん、鶴海は切りを選択。チンイツ・ドラ3、倍満のカン待ちで田渕に追いついた。
だが、この直後に田渕がをツモ! 500-1000のアガリで、鶴海のチャンス手は潰されてしまった。
それでも、まだまだ鶴海に手が入り続ける。東4局1本場では、なんと配牌で三暗刻というなんたら映えしそうなシーンまでお目見えした。
と処理しているだけで、あっという間にテンパイ! 三暗刻にはならないが、ドラがであるがゆえに、高めをツモれば満貫の手。ならば、リーチ! 安目のは、状況的に見逃すという選択を取るかもしれない。だが――
トータルトップの田渕から出た場合に限り、なんとも見逃しにくい!
裏ドラが乗ることはなく、1300は1600のアガリ。大きな加点とはならなかったが、まだ親番も残っている。わずかに田渕との差を詰めて、後半戦へ望みをつなぐ。
南1局、都美がさらなる加点をする。タンヤオ・三色・赤2のカン待ちで、丸山から8000点を奪い取る。これで都美は、田渕まで12ポイント差と迫った。
鶴海も負けてはいない。最後の親番で白・ホンイツの5800点を丸山から出アガった。これで鶴海はこの半荘3着目に浮上。この親番で都美をまくることさえできれば、晴れてプレーオフ1st通過だ。
運命の南2局1本場、先制テンパイを入れたのは鶴海だった。をポンし、打。東・發・赤1、7700点のテンパイを入れた。を残してテンパイを取らず、ホンイツに渡る手もあったかもしれないが、鶴海はそれを選ばなかった。
「テンパイを取りはしましたけど、最初はトイトイにするつもりで、ホンイツまでは考えなかったです」
7700点でも打点十分だし、さらなる高打点へのルートが断たれたわけでもない。それゆえの判断だった。
そこに田渕がドラ1・赤1のカン待ちのリーチで応戦!
中盤に差し掛かり、鶴海が望んだトイトイ変化となるがやってきた――。
「リーチが入り、巡目も深くなっても、シャンポンへの待ち変えに関してはかなり考えました。だけど先制リーチが入っていること、そして百恵ちゃんが切りリーチをしているのが気になって、リャンメンに受けてしまいました。アガリ連荘なので、親番が終わったらほぼノーチャンスなので」
田渕の宣言牌であるがくっつき候補として残されているとは考えにくく、関連牌だと仮定できる。すると考えられるパターンは、、、、のいずれかとなる。はがすでに3枚見えているため否定され、やから打ち出された場合はでアガれているはずなので、これも違う。もし、田渕の手の内にがトイツだったら、鶴海のこのチャンス手はほぼ空砲と化してしまう。ならば――
待ち続行! 極めてセオリーに忠実な選択で、こちらの方がアガリ率の方が高いのは間違いない。ところがは、じつはこの時点でが1枚山に残っているのみだった――
ここで、またしても安牌が尽きてしまった丸山からがこぼれ、田渕の5200は5500のアガリ。左上の河を見てほしい。もしも鶴海がトイトイに受けていたならば、田渕のを捉えて12000点をアガれていたのである。悲しいほどに裏目を引き続き、ついに鶴海の泳ぎは止まってしまった――
都美の猛追をかわしきり、田渕がプレーオフ2ndへと進出。2戦目をトップで終え、ただ一度の放銃もなかったのに敗れた都美。スタートと同時に12000点を失い、最後までその枷に苦しめ続けられた丸山。そして、極上の配牌を何度も手に入れながら、弄ばれるように裏目を引き続けた鶴海。彼女たちのシンデレラストーリーは、ここで途絶えた。
「シンデレラリーグに出場して、いろんな方に麻雀を見てもらえてよかったです。声をかけてもらえる機会も増えました。これからも、麻雀が楽しく打てる日々が少しでも続くよう、スキルを磨いて健やかに過ごそうと思います」
今回は対岸まで泳ぎきることはできなかった。けれど心のストレッチは、すでに準備万端だ。スタート台に立ち、次に「Take your mark」と呼ばれるその日まで――