ガラスの靴を履くのは、誰なのか――。
そんな合言葉とともに約半年にわたって行われてきた「麻雀ウォッチ シンデレラリーグ」。24名の新鋭女流雀士たちは次々と夢破れ、最後の舞踏会には4名が並び立った。
出場選手の中で最多のキャリアを誇り、その経験に裏打ちされた雀力の高さを惜しみなく発揮してきた涼宮。大舞台の経験が豊富で、準決勝ではギリギリの接戦を制する胆力を見せた与那城。抜群の押し引きバランスを駆使して、予選、準決勝を通じて圧巻の打ち回しを披露した柚花。そんな猛者たちの中に、プロ歴1年未満の山本がいた。
対局前、山本が所属するRMUの代表である多井隆晴は、彼女に次のような助言を送っていた。
「今回の決勝のメンバーは強すぎる。僕がこのメンバーと戦えと言われたら、勝つ自信がない。そのくらい強い。だから、最後まで楽しんでほしい」
たしかに山本の成長の早さには、目を見張るものがある。だが、そんな彼女でも容易には太刀打ちできないだろうと思わせるほどの実力者がそろっていた。麻雀は、何が起こるかわからない。それでも下馬評というものがあるのならば、山本が不利という見方が大半の意見だったのではないだろうか。
ならば! 経験で、駆け引きで劣るというのなら、どうするのか? 山本が用意した回答は、徐々に明らかになっていく。
1回戦東1局。ピンズのホンイツ、うまくいけばチャンタにまで伸びそうなこの牌姿から、山本は1枚目のをスルー。ギリギリまで門前進行を視野に入れ、より高打点を目指したのだろう。そして、うれしすぎる2枚目のを手中に収めた。これでホンイツの5ブロックは整った。
2枚目のは、もちろんポン!
順調にも鳴け、役々ホンイツの1シャンテンに。
そしてをチーして、カン待ちのテンパイを果たした。
この仕掛けを受けた親の与那城は、足かせのペンターツを払うことができない。
そうこうしている間に、山本があっさりとをツモ。2000-4000と、軽快な滑り出しを見せた。
続けて東2局、今度は涼宮にチャンス手が舞い降りた。タンピン赤ドラの満貫テンパイ。予選でこのようなテンパイが入った涼宮は、ほぼヤミテンに構えていた印象だ。
が、ここではリーチを選択! まだ1回戦の東2局ではあるが、すでに山本が満貫をツモって点差が離れている状況だ。シンデレラリーグは+40ポイントの順位点が加算されるトップの恩恵が、ひじょうに大きい。全4半荘の対局でタイトルを勝ち取るために、できればトップを2回は確保したい。ならばこの手で跳満を成就させ、初戦トップをたぐり寄せようという判断だったのだろう。涼宮の経験値の高さが、早速発揮された局面のように思われた。
だが、そんな涼宮の思惑をあざ笑うかのように、与那城――
そして柚花のもとへ立て続けにがやって来る。牌姿を見る限り、リーチをかけていなければどちらもツモ切っていた可能性が高そうだ。
結果、この勝負手を成就させることは叶わなかった。涼宮は「普段だったら絶対にヤミテンにしていた」と振り返っていたが、彼女はこの結果を決勝戦で戦うためのバランス感覚なのだからと受け入れていたのだろうか? それとも、裏目を引いてしまったと後悔しているのだろうか? その胸中や、いかに――。
南1局、ラス目で親番の与那城が待望の先制リーチをかけた。リーチ・ピンフ・ドラ1の 待ちだ。
このリーチを受けた柚花は、ドラ2・赤1の1シャンテンに。は現物だが――
打とする。すでにを切っているため、ピンズを伸ばしてもう1つメンツを作りたい。彼女もまた、初戦トップの重要性をよく理解している攻撃的な選択をした。
その後も――
とツモ切りして、無スジを勝負し続ける。が、なかなかテンパイに結びつかない。
一方、山本もタンヤオ・三色・ドラ1の1シャンテンに。ここから――
のトイツ落としを敢行! が3枚見えているためトイツ落としの方が安全度が高そうだが、自己都合でアガリを目指すならば、の方が捕らえられそうだ。
このは柚花のもとへ流れ――
ひとまず与那城の現物である切りとする。通ったスジも増えたことで、ドラまたぎはギリギリまで切らないという柚花の優れたバランス感覚が垣間見えた。
テンパイ二番手は、山本だった。を引いて三色は崩れたが、カン待ちのヤミテンに構えた。は、与那城の現物だ。
同巡、柚花もテンパイ。リーチ・ドラ2・赤2。ツモれば跳満の勝負手だ!
2軒目のリーチを受けて、無スジのが山本のもとへ。与那城には比較的通しやすい牌だが、柚花はピンズをしか切っていない。は両者の安牌ではあるが――
山本はツモ切りリーチを選択! 親リーチを含めた2軒リーチに対し、5200点のカンチャンリーチは分が悪い。理で考えれば、たしかにそうかもしれない。だが、これもまた山本なりの決勝バランスというわけだ。勝負どころで腕を振り続け、意地でも勝ち切ってみせる! そんな負けん気の強さがなければ――
このアガリは成就しなかった。リーチ・タンヤオ・ハイテイ・ドラ1、柚花から8000点のアガリでトップ目に立った。
この放銃でラス目に落ちた柚花だったが、続く南2局に4000オールをツモり、一気に2着目まで駆け上がる。このシンデレラリーグを通じて幾度も発揮し続けた地力の強さを、ここでも見せつけた。
全員ノーテンを経て迎えた南3局2本場、柚花が追撃のリーチを見舞う。リーチ・赤1の 待ちだ。
一方、親番の涼宮もリーチで応戦! の変則3メンチャンだ。
この2軒リーチに1シャンテンから勝負した与那城だったが――
涼宮にリーチ・ピンフ・裏1の5800は6400を放銃してしまう。次局は柚花の500-1000は800-1300のアガリが生まれ、この半荘のトップ争いは山本、涼宮、柚花の3名にほぼ絞られた。
オーラスの先制リーチは親の山本だった。リーチ・タンヤオ・イーペーコーの並びシャンポン待ち。ヤミテンでもアガれるとはいえ、この僅差で2900のアガリは決定打とはならない。ピンズ場況は良くはないが、果敢に勝負を仕掛けた。
ここでラス目の与那城もメンピンドラ1・赤2のチャンス手で応戦! このめくり合いは――
決着つかず。着順はそのままに1回戦を終えることとなった。
山本が初戦トップを飾ったことで、他3者に共通見解が生まれる。
「山本だけにトップを獲らせてはならない」
連勝を許してしまえば、残り2戦にかなり厳しい条件が課せられてしまう。知識・技術を総動員して、それだけは阻止しようと目論んでいたに違いない。敷かれることがほぼ確定している包囲網を前に、山本はどう戦うのだろうか? そんなテーマを意識しつつ、僕は2戦目を見守ることにした。