その差、わずか500点。この局の結果が最終戦の行方を大きく左右しかねない局面で、先制のテンパイを入れたのは現女流雀王・逢川恵夢だった。
その直後、負けじとライバルもテンパイを入れる。こちらは現プリンセスの麻生ゆりだ。2人の王女の戦いは――
逢川に軍配が上がる形でひとまず幕を閉じた。
「麻雀ウォッチ プリンセスリーグ2019」準決勝B卓。麻雀界の王女たちの戦いも、いよいよこの日を含めて残り2回となった。上位2名が、瑞原明奈と上田唯が待ち受ける決勝へと駒を進める。現状、圧倒的に有利なのが野添ゆかりだ。残る1枠は、逢川と麻生が奪い合う形が濃厚だ。プリンセスリーグの順位点は10-20+オカだ。麻生としては2着3着であれば1900点差で済むが、3着4着の並びの場合は11900点以上の差をつけなければならない。先ほどの戦いの結果が、彼女に条件を突きつける形となっていた。
「3回戦オーラスは、3着で終わると勝ち上がりの条件が逢川さんとの着順勝負以外になくなってしまうのが嫌だったんですよね。2着に入っていたら、逢川さんがトップでも野添さんと2着4着でいいから、やれることが増える。最終戦、もしも逢川さんに走られたら、もうどうにもならないので」
前年度覇者だけあって、麻生は早い段階で条件戦ならではの思考を持っていた。シード枠が存在していないこのシステムにおいて、昨年に続いて決勝進出が見える位置についていたことが、何より彼女の実力を証明していたと言える。
だが麻生の思惑がどうであれ、こうなってしまっては仕方がない。あとは最終戦に望みを託すしかないのだ。その持てる力を、ここで総動員するしか――
東2局、親番で麻生に好機が訪れた。をポンして好形の2シャンテン。ダブ東がトイツで、ドラのも手の内にある。スムーズに行けば5800、赤を引いたり、少しこねれば12000も見えてくる。
二段目にさしかかったところで、ドラが重なった。ここで麻生はたっぷりと時間を使った。現状ターツオーバーで、どこかのブロックを払うしかない。悩んだ末に――
麻生はダブ東のトイツ落としを敢行した!
「逢川さんがピンズに染めていそうで、そうなるとダブ東に期待できない。マンズホンイツの最高めまで見据えてから払うという選択肢もあったけど、さすがに上家ではは払えない。腐っているリャンメンとシャンポン。どっちを払うかって言ったら、リャンメンの方が自力でどうにかできる目が残る分、腐っているシャンポンを払うじゃんという思考です」
麻生は立体的な局面を捉える思考に優れた打ち手だと思う。ライバルの逢川の情勢に目を配り、その結果としてこの道を選んだ結果――
この手をもらった逢川に絶大なプレッシャーを与えることに成功した。マンズを払えば超絶良形のメンホン1シャンテンだが、ドラまたぎのは麻生にあまりに危険すぎる。逢川目線、の手出しを一度挟んでいるとはいえ、直前に引き戻したパターン以外はダブ東のトイツ落としが見えたことになる。すでに役牌をポンしている麻生が、わざわざダブ東を見切ったのだ。ならばドラを2枚以上使った良形や、ダブ東に頼らずとも打点十分な役々ホンイツあたりに見えそうだ。逢川は慎重な選択を取ったが――
結果は麻生の一人テンパイに終わった。もしも逢川がまっすぐ進行していたのなら、14巡目ので跳満をツモっていたことだろう。決して派手な局ではなかったが、麻生はその一打でライバルの本手を封殺した秀逸すぎる局面だった。
複雑に思考が絡み合う両者の戦いは、存外早く天王山を迎えた。東4局2本場、「親番が終わるまでは普通に打つ」と公言していた三添が、 待ちのリーチを放つ。いかにか細い糸であろうと、三添も必至だ。
このリーチに対して、麻生も応戦! メンタンピン・ドラ2、ツモれば跳満の勝負手だ。このポイント状況で、三添が安いリーチをかけることはまずないだろう。それを承知の上で、麻生は勝負所をここと見定めた。この戦いは――
1チャンスにすがった逢川が、麻生に放銃するという形で決着!
裏こそ乗らなかったものの、供託2本と合わせて10600点の加点。これが決め手となり――
麻生の2年連続決勝進出が決まった。
「(最終戦東4局2本場のリーチについて)高ぶっちゃいましたね(笑)。結果的にアガれはしましたけど、三添さんに追っかける時点で自分はめっちゃ損なんで。今日の勝負どころだからとリーチしたけれど、あれは反省です」
劇的な快勝を飾った直後でも、麻生はおごることなく反省点を口にした。その実直さが、彼女の魅力であり、強みなのだとも思う。玉座に居座ろうと、いまだに止まぬ飽くなき探究心。強き王女は、いまだ成長途上だ。
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