麻雀の勉強をすると、必ず「牌効率」という言葉に出あいます。効率よく早くテンパイ、アガリに向かうための考え方です。
私が麻雀を始めたのは1990年(平成2年)ですが、当時、牌効率という言葉は一般的ではありませんでした。早いテンパイはもちろん重要でしたが、それよりは手作りや、捨て牌を工夫して他家からアガリやすくするのが大事、という風潮が強かった印象ですね。その方が味わいがある、という雰囲気です。
例えば、1984年に刊行された戦術書「Aクラス麻雀」(双葉文庫)を読むと、当時の空気をうかがうことができます。著者は、「麻雀放浪記」などの著作で知られ、「雀聖」とも呼ばれる作家の阿佐田哲也(1989年没)です。
今では古典と言えるこの本でも、5ブロック打法(次回ご紹介します)や繊細な押し引きの考え方が丁寧に書かれており、現代麻雀に通じる部分は少なくありません。ただ、「配牌を見て、まず三色を考えること」(92ページ)、「手牌を進行させていく手だては(中略)実はやさしいことなのである。それよりも捨て牌を作っていくことが技術なのだ」(96ページ)などとあり、牌効率はそれほど重く扱われていません。
しかしその後、ネット麻雀のデータ分析などが進み、先制リーチの威力が高く評価されるようになり、現代では牌効率が重視されています。逆に、最近の戦術書では、捨て牌に迷彩をほどこすことは、あまり強調されていません。そんなことをして効率を犠牲にするより、早くテンパイして自分でツモった方が合理的、という考え方ですね。昭和の麻雀に慣れ親しんだ年配の方からみると、コクがないと見えるかもしれません。どの世界にも世代間のギャップはあるものです。
(もっとも、いま「Aクラス麻雀」を読み返すと、1周まわって新鮮に感じる項目もあります。初心者のうちに読むと戸惑うと思いますが、基本がわかったうえで読むと、最近の戦術書が触れていない発見があるはずです。また何よりも、阿佐田哲也の文章がうまいのも魅力です)
どの程度、牌効率に沿って打つかは、人によって自由にスタイルを決めればよいと思いますが、いずれにせよ、基本知識として牌効率の考え方をマスターすることは必要です。牌効率通りに打った方が、明らかに有利なときがあるからです。
代表例は、いわゆる「アガリトップ」のとき。南4局のオーラスで、1000点さえアガれば1着になれる場面なら、打点は不要です。効率重視で、一刻も早くテンパイすることが大切になります。
あるいは自分が親で、役はなくても先制リーチを打ちたいとき。
ある局の終盤に近づき、「形式テンパイでも良いので、何としてもテンパイをとりたい」ときにも、効率が大事です。
牌効率の考え方
「牌効率を重視して打つ」とは、具体的にいうと、「テンパイに近づく受け入れ牌の枚数を最多にするように打つ」ことです。「受け入れ牌」は、「有効牌」や「くっつき牌」などと呼ばれることもあります。
そして、牌効率を重視する局面では、牌のえらい順、格付けが明確に決まっています。
・一番えらい 3~7の数牌
・2番目にえらい 2と8の数牌
・3番目にえらい 1と9の数牌
・えらくない 字牌
どれぐらい差があるか、イーシャンテンの牌姿で見てみましょう。
3メンツとアタマができていて、孤立牌が2つある、「くっつきテンパイ」と呼ばれる状態で比べてみます。受け入れの枚数は、まだ場には1枚も捨てられていないとして数えます。
1)孤立牌が2枚とも字牌のとき
テンパイになる受け入れは、(残り2枚)、(残り3枚)、(残り3枚)で、合計3種8枚です。
2)孤立牌が2枚とも1か9のとき
テンパイになる受け入れは、(残り2枚)、(残り3枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り3枚)で、合計7種24枚です。
枚数でいえば、1)の8枚から、3倍に増えました。
3)孤立牌が2枚とも2か8のとき
テンパイになる受け入れは、(残り2枚)、(残り3枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り3枚)で、合計9種32枚です。2)よりさらに8枚増えました。
1)と2)では、何を引いてもリャンメン待ちのテンパイにはなりませんでしたが、3)では、を引いたときは、リャンメン待ちのテンパイにでき、アガりやすいのもポイントです。
4)孤立牌が2枚とも3~7のとき
テンパイになる受け入れは、(残り2枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り3枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り4枚)、(残り3枚)、(残り4枚)、(残り4枚)で、合計11種40枚にもなります。
枚数でいえば、1)の8枚の5倍です。また、リャンメン待ちのテンパイになる受け入れも、
の4種類あります。
1)と4)を比べると、1巡ごとに、テンパイしやすさが5倍異なります。それを繰り返すので、ツモる回数が多ければ多いほど、両者の差は圧倒的なものになります(注)。同じ「くっつきテンパイ」でも、雲泥の差なのです。
大きな差が生じるのは、3~7の牌は、自分自身と、両隣、その隣の合計5種類がすべて受け入れ牌になるのに対し、字牌は、自分自身と同じ牌しか受け入れにならないためです。
麻雀を始めるとすぐ、真ん中の牌が強いことは直感的にわかると思いますが、特に牌効率を重視する場面では、3~7の牌は極力大切にしましょう。
見方を変えれば、例えば第一打に孤立しているを切ることは、その後、~の5種19枚のツモを拒否する、もしツモってきてもほぼ切ることを意味します。34種類の牌のうち5種を最初から見切ってしまうので、なかなか大胆な選択ですね。
牌効率の観点からは当然不利なので、あえてそのような打ち方をするときは、「不利に見合うメリット、打点が高くなったり、後々の安全が確保しやすくなったりする利点があるか?」を慎重に考えましょう。
とりあえず今回は、牌効率の基本として、牌のランキングを覚えて頂ければ幸いです。
次回は、「5ブロック打法」をご紹介します。
(注)以下は数式を使うので、読み飛ばしていただいても構いません、最後の太字の結論だけ意識すれば十分です。
1巡のテンパイ確率が5倍異なるときに、残り6巡あると仮定して、その間にテンパイする確率を比べてみます。
仮に、1巡のテンパイ確率を5%と25%と置きます。
「6巡のあいだにテンパイする確率」は、「6巡引いてもテンパイしない確率」を求めて、100から引けば出せます。
1巡ごとのテンパイ確率が5%の場合は、しない確率が95%なので、6巡ともテンパイしない確率(0.95の6乗でおよそ0.74)を求めて1から引きます。答えは約26%です。
1巡ごとのテンパイ確率が25%の場合は、しない確率が75%なので、同様に、0.75を6乗(およそ0.18)して1から引きます。答えは約82%です。
つまり、1巡だけで見るとテンパイ確率は25%であっても、残り6巡あれば、8割以上の確率でテンパイできます。
両者の差は、1巡だけなら25-5で20ポイントですが、残り6巡あれば、82-26で56ポイントにもなります。7巡以上あれば、より差は広がります。
残りツモ回数が多いと、かけ算の効果で大きな差がつくので、牌効率を重視するときは、1枚~2枚のわずかな受け入れ枚数の差にも敏感であることが求められます。