「麻雀の匠」の動画で、醍醐大選手(第45期最高位)による「『静観』という立派な戦術」という回があります。
醍醐選手は、とても真面目な方です。
私がプロ試験を受ける前、「最高位戦プロアマリーグ」という大会に何度か出ていました。
プロ、アマチュアにかかわらず、誰でも申し込める貴重な場です。
あるとき、醍醐選手と同卓しました。
最上位リーグで活躍されている方ですから、こちらは当然緊張しますが、醍醐選手が一打一打丁寧に打っておられることは、すぐに分かりました。ホーテイ牌で何を切るか、苦悶の表情で長考されているときもありました。大変ありがたいと思うとともに、いつか自分もこのような姿勢で牌に向き合いたい、と感じたことを覚えています。
さて、そんな醍醐選手は、独特な感覚と打ち筋で知られています。
この動画でも、東4局の西家で、最初のツモ後の牌姿は下記のような形ですが、「そんなに悪くない手。なんならいい方」と話し、日向藍子選手を戸惑わせています。
ドラ
ドラ入りメンツとアタマはあるとはいえ、5シャンテンなので、多くの人は「うへえ」と思うでしょうが、あたりにくっつけばピンフになりやすく、が重なっても楽しみがある、という感覚のようです。
確かにこの手は、マンズとピンズはほぼ全部、ソーズはから、字牌はをツモれば手が進みますから、とても受けが広いともいえます。
このように、醍醐選手の見方は、一瞬「?」と思うものの、「言われてみれば確かに…」ということが多いので、ぜひこの「麻雀の匠」シリーズは通してご覧になることをお勧めします。麻雀の見方が広がるはずです。
この手はそれほど進まず、親はソーズのホンイツ模様、さらに下家がリーチしてきたので、醍醐選手は「もう静観しましょう」と判断します。2人でやりあうのを見ながら、あわよくばラス目の上家の参戦を期待しながら見守る作戦ですね。
最終的には、ライバルの下家に満貫をツモられ、嬉しくない結果になりますが、これは致し方ありません。親にアガられて連荘されるよりはマシ、ぐらいの感じで受け入れます。子に満貫をツモられても、失点は2000点で済むので、深い傷ではありません。
麻雀ではこのように、参加せず眺めているのが最善策、という場面が頻繁にあります。
戦術を勉強すればするほど、毎局何かを試したい気持ちになりますが、全て参加する義務はないのです。
むしろ、中途半端な攻撃力で前線に出ていくと、手詰まって致命傷を負うことが増えます。
無駄な放銃をしていると感じる方は、ぜひ「静観」という戦術を採り入れてみてください。
多井隆晴選手の最新刊「無敵の麻雀」(竹書房)は、Mリーグの実戦譜に基づいて、多井選手の考え方が紹介されていますが、26個あるテーマの中の最初は、やはり「麻雀をやらない局」です。
自分が打点もなく、速くもないときは、アガリに向かわず、安全牌を確保しながら早々にオリていくことが推奨されています。
一見よくない手でも、ペンチャンやカンチャンが埋まったりドラを引いたりすると、2、3巡で見違えるような手に育つこともあるため、早々にオリるかどうかの判断は難しい面もあります。
ただ、「参加しない」という戦術を有効に活用しメリハリをつけているからこそ、多井選手は結果を残されているのだと思います。
分野は変わりますが、競馬や競艇などでは、達人は「ケン」をうまく使います。
「ケン」とは、馬券や舟券を買わずに、レースを見ていることです。
一応予想はするけれども、自信がなければ勝負しない。
作家の浅田次郎さんは、熱心な競馬ファンで知られますが、「競馬どんぶり」(幻冬舎アウトロー文庫)という著書のなかで、ケンの重要性を説いています。「(格の高いレースである)クラシックだからどうのGⅠだからどうのって買い方はあまりしない。ダービーだってケンしているレースもある」。
レースの格にかかわらず、その日の勝負レースを決めて、確実にとれるところで勝ち、ほかでは勝負しない。
この考え方は、麻雀にも通ずるところがありますね。
「この局はケンする」と決めたあとでも、「ハイテイをずらせないか」「誰かをアシストできないか」「複数ある安全牌をどの順番で切るか」など考えることは多いので、本当に「何もしない」という瞬間はないのですが、無理をしない方がよい場面も多い、と知っておいてください。
よく見るのは、真面目な性格の方ほど、すべての局に律義に参加しすぎて、あまりよくない結果になっている光景です。表現は難しいですが、「真面目にやらない」ことも覚えて、引き出しを増やしてみてください。
次回は最終回、心の持ちようについてお届けします。