ピンチを切り抜ける場面は、絵になります。
野球でノーアウト満塁を無失点でおさえたり、サッカーのゴールキーパーがスーパーセーブを見せたり。
アクション映画では、主人公は絶体絶命の危機を脱出します。
麻雀では、他家の高い手のリーチをかいくぐる場面が、見せどころです。
放送対局で、当たり牌を「ピタ止め」する選手がいると、大いに盛り上がります。
これらの華々しい場面に比べると、今回は地味な話です。
そもそもピンチにならないようにしましょう、というテーマだからです。
医療ドラマでは、格好いい医師が、難しい手術を鮮やかに成功させる場面が、ハイライトですよね。
一方で、医師が日頃からきちんとした生活習慣を呼びかけたおかげで、病気にならずに長生きしました…。めでたしめでたし。
というストーリーだと、ドラマは作りにくい。
ただよく考えると、病気にならないなら、それに越したことはありません。
同様に麻雀でも、リーチを受けて毎巡冷や汗をかいて切り抜けるより、最初からピンチにならない方が良いのです。
絵にはならないので、放送対局で「○○選手、全くピンチではなーい!めっちゃ安全だー!」と絶賛されることはありません。そのため目立たないのですが、実力者は例外なく、ピンチになる回数自体が少ないのです。
理由は、遅くて打点も高くない手の時や、点数状況や残り局数を考えて無理にアガらなくて良い時などに、あらかじめ安全な牌をキープしているためです。
具体的には、山田独歩プロの「麻雀の匠」の第2回をご覧ください。
配牌は
かすかにピンズのホンイツは見えるものの、厳しそうな手ですね。
その後も手が進まないことを受け、山田プロは安全牌を重視します。
まずは、が河に2枚切れたので、自分の2枚はほぼ安全です。国士無双以外に当たることがないので、とっておきます。
さらに、他家3人のうち、手が早そうな人の河を見て、対応できるかも考えます。
他家2人からリーチを受けますが、事前の備えのおかげで、一巡もヒヤリとすることなく、流局します。
ヒヤリとしないため、視聴者が盛り上がることはありません。
印象には残りにくいですが、もし山田プロが守りを意識せずに進めていたら、2人リーチを受けて困っていた可能性が高いです。
麻雀は4人でするので、先制するより、される方が多いですよね。
「そもそもピンチにならない局」をどれだけ作れるかは、全体の成績に大きく影響します。
ただ、今回の項目は誤解もされやすいところでもあります。
「じゃあ、毎回必ず安全牌を抱えていこう」となりがちですが、そうではありません。
Mリーグのサクラナイツで活躍する堀慎吾プロの著書に、「麻雀 だから君は負けるんです」(竹書房)という、刺激的なタイトルの一冊があります。基本を踏まえてから読むと、目からウロコの話が満載されています。
堀選手はこの本で、「安全牌抱えたい病」という言葉を使い、なんとなく安全牌をキープする姿勢に厳しくダメ出ししています(P92)。勝負手のときはまっすぐ攻めるべきで、有効牌を減らしてまで安全牌を持つ必要はないのです。
P92で紹介されている牌姿は、4巡目で
ドラ
から何を切る?という設定です。
がアンコでドラが2枚、序盤なので先制できそうで、明らかに勝負手ですね。
堀プロは、もしを残す人がいれば、「安全牌抱えたい病」だと診断します。
このような手では、をすべていかし、あらゆるくっつきを逃すべきではない、と。
一度の半荘のうちに、何度も勝負手が来てくれるわけではありません。そのチャンスを、中途半端な姿勢で逃すと、トップ率が大きく下がってしまいます。
では、「勝負手ともいえないけれど、特段悪くもない手」の時はどうでしょう。回数としては、こういう手が最も多いかもしれません。
この点は、打ち手によってかなり考え方が分かれ、攻撃型の方もいれば、守備型の方もいます。
第29回で紹介した将棋棋士の鈴木大介さんのように、「安全牌を持つのはカモ」という意見もあります。
卓上でヨシ!麻雀暗記ノート 第29回 牌効率(その13)完全1シャンテンは完全か?
このバランスは、各自が築いていくもので、それが打ち手としての個性や魅力につながっていくのだと思います。
試行錯誤して、皆さんご自身のバランスを確立されてみてください。
次回は、安全牌を持つ場合の「安全牌の残し方」をご紹介します。