「完全」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
私はまず、野球の「完全試合」ですね。
相手を1人も塁に出さず勝つことで、ヒット、四死球、味方のエラーが1つも許されません。極めて達成が難しく、日本のプロ野球では過去に15回だけです。もっとも新しい達成は1994年5月18日、巨人の槙原寛己投手(対広島戦)で、27年以上も前になります。
麻雀を学び始めると、「完全イーシャンテン」という言葉にであいます。
最初に聞いたとき、私の胸は高鳴りました。「きっと完全試合みたいな凄いやつに違いない。マスターすれば無敵になれるぞ!」
結論からいうと、錯覚でした。もちろん良い形ではあるのですが、劇的に強くはなく、むしろ、中途半端に付き合うとマイナスになりかねない面もあるのです。「これに『完全』と名付けていいものか…?』と突っ込みたい気もしますが、広く定着している呼び方なので、慣れていただければと思います。
前回、イーシャンテンには大きくわけて
1 くっつきイーシャンテン
2 ヘッドレスイーシャンテン
3 2メンツのイーシャンテン
の3パターンがあり、ふつうは、1→2→3の順でテンパイしやすいことを紹介しました。
完全イーシャンテンは、「3 2メンツのイーシャンテン」のなかの少しテンパイしやすいバージョンです。つまり2と3の中間ぐらいで、
1 くっつきイーシャンテン
2 ヘッドレスイーシャンテン
2.5 2メンツのイーシャンテン(完全イーシャンテン)
3 2メンツのイーシャンテン(完全イーシャンテンではない)
みたいなイメージです。「完全」といっても、最上位ではないんですね。ただ、くっつきやヘッドレスは、それほど頻繁に出現しません。実際によくできるのは2メンツのイーシャンテンで、それをパワーアップしてくれる完全イーシャンテンはありがたい存在だ、というイメージです。
前置きが長くなりましたが、具体的に見ていきましょう。
前回、2メンツのイーシャンテンの典型的な形として
を紹介しました。ここでを引いて
を切ると、こうなります。
完全イーシャンテンの定義は、細かく見ると複数あって定まっていないのですが、一般的にはこのように、リャンメンが2つ、かつシャンポンの受け入れもある形を指すことが多いです。
(専門的にご興味がある方は「第271回 ネマタの麻雀徒然草」をご参照ください)
最初の形では、テンパイへの有効牌は、の4種16枚だけでした。
下の完全イーシャンテンになると、と
を引いてもテンパイできます。
と
は、自分で2枚ずつ使っていますので、残りは2枚ずつですね。
つまり、有効牌がの4種16枚から、
の6種20枚に増えます。受け入れが4枚増えました。どれを引いてもリャンメン待ちでテンパイできるのも魅力ですね。
毎巡4枚の差があると、テンパイまでのスピードは早くなります。先制リーチを打ちたいとき、早いテンパイが期待でき、必ずリャンメン待ちになる完全イーシャンテンは、有効な武器になります。
また、次のような場面でも、大きな意味があります。
ドラ
ドラ
上は普通の2メンツのイーシャンテン、下は完全イーシャンテンですね。
ドラ3なので、ぜひアガリたく、鳴ければ鳴いていきます。
上の形は、をチーして、
を切ればテンパイです。
下の形になると、さらにをポンすることもできます。ポンできるのは非常に大きなポイントです。チーは、対象の枚数が多いかわりに上家からしかできませんが、ポンは3人からできるチャンスがあります。一刻も早くアガリたい時に、これほど心強いことはありません。
打点が高いときにくわえ、ライバルの親をクイタンでさっと流したい時なども、完全イーシャンテンは重宝します。
一方、完全イーシャンテンには「安全牌を持ちにくくなる」という弱点もあります。
のような形は、比較的安全な牌を1枚(ここでは)を持つ余裕があります。
くっつきイーシャンテンや、ヘッドレスイーシャンテンは、14枚すべてが機能しているので受け入れが広いのですが、この形は受け入れが少ないかわりに、安全な牌を持てるメリットがあるのですね。
他家から先制リーチを受けたときに、安全な牌が1枚あると、一発で振り込むことを避けられますし、一巡耐えるあいだに新しい安全牌が増えて、しのぎやすくなることもよくあります。安全牌が1枚あるかどうかで、半荘の結果が大きく変わることも珍しくありません。
しかし、完全イーシャンテン
にすると、を持つことはできません。ここからテンパイすると、
か
を切ることになりますが、それで放銃になることもままあります。有効牌が4枚増えて攻撃力が上がるかわりに、防御力も減ってしまうのですね。
「安全牌を持つか、完全イーシャンテンにとるか」というテーマは、プロ選手同士の勉強会や検討会でもよく話題になりますが、状況によるので、綺麗な正解はありません。
その時の4人の点数、巡目、自分の手の打点、自分が絶対にアガりたい場面か、他家のスピード、他家の想定される打点など、多くの要素を総合的に考えて判断することになります。
また、そもそも安全牌をどれぐらい重視するかも、打ち手によって違います。政党や学術の世界や宗教にさまざまな「派」があるように、人によって考えがわかれるのです。
「安全牌などいらん」というのが、将棋棋士の鈴木大介さんです。著書「麻雀強者の流儀」(竹書房)で「安全牌を持つのはカモ」と断じ、字牌を1~2枚残しながら打つスタイルを強く否定しています(46ページ)。
極端な意見ですが、鈴木さんは2019年、なみいる強豪プロ雀士を打ち破って、麻雀最強位に輝いた方です。この考え方も
一つの「正解」だといえます。
ただこれはおそらく、鈴木さんの将棋棋士ならではの雀力、局面に対する感覚や、他家に対する読みなど、卓越した力があるから成り立っているのだと思います。普通の打ち手が、この部分だけ鈴木さんにならって安全牌を軽視しすぎると、やけどをすることになるでしょう。
安全牌を巡る考察は、尽きることがないので、このあたりにとどめますが、今回は「完全イーシャンテンは強い形ではあるが、『完全試合』のようなパーフェクトな『完全』でもないでっせ」ということを、印象にとどめて頂ければと思います。
次回は「待ちの強さ」について考えます。