「安全牌」と聞いてまず思い浮かべるのは、やですが、当然、これらで放銃することもあります。
Mリーグでは、サクラナイツの内川幸太郎プロが、で雷電の黒沢咲プロの四暗刻単騎に振り込んだシーンが有名です(2020年2月25日第2試合南4局2本場)。
4月25日まで、東京・秋葉原で「M.LEAUGE POP UP STORE」というイベントが開かれていますが、この時の「伝説の」が展示されているそうです。
3月31日に、久しぶりに開かれたMリーグのパブリックビューイング「プレミアムナイト」を取材していたところ、内川プロがを切るたびに実況の日吉辰哉プロが盛り上げ、客席がわいていたのが印象的でした。
実のところ、内川プロは、を安全だと考えて切ったわけではありません。各チームの得点状況なども考え、放銃の可能性があるのは承知で、総合的に判断して切っているんですね。
このように、何が「安全牌」かは、その時の状況で異なります。例えば、他家3人が全員を切っていたら、は堂々の絶対安全牌になります。
され今回は、安全牌を巡る細やかな比較についてご紹介しましょう。
「この局は安全牌を持って引き気味に進めよう」という思考は、おおざっぱな方向性の判断ですが、具体的にどの牌を残すかは、一巡一巡、ミクロな判断です。
最初に、「麻雀の匠」で、醍醐大選手の第5回をご覧ください。
親の醍醐選手の第1ツモ後の手は
5シャンテンで、醍醐プロが言うように「ボロボロ」の手牌。
牌効率だけを考えると、字牌のどれかを切るのですが、醍醐プロの第一打は。
を切ると、引きはロスになりますが、いずれにせよリャンメンターツはできません。
であれば、誰かに先制されるだろうから、安全度の高い字牌を残しておこう、という思考です。大切なバランス感覚ですね。
注目いただきたいのは、二打目のです。
一見、とのどちらを切っても良さそうですが、西家が最初にを切っています。
この瞬間に、よりの方が安全になっているんですね。
西家がリーチしてきたらは現物ですし、は残り2枚なので、南家や北家が持っている可能性も下がります。
ということで、より安全なを残します。
さらに次巡。
をポンした西家が、を切っていることに着目し、マンズのホンイツの可能性も見て、醍醐プロは切り。これは、安全牌を残すというよりは「将来の危険牌を先に逃がす」発想ですね。ここでをポンされると、東・白・ホンイツで満貫の恐れがあります。手を進めさせてしまうリスクもありますが、もしそうなれば、西家を最大限警戒すれば良いので、対応の方針が立てやすくなる、ともいえます。
この局は、他家3人が全員テンパイするピンチになりますが、最初から引き気味に打っていたこともあり、醍醐プロは「(他家の切った牌に合わせておけばいいので)気が楽」と余裕で、放銃は回避しました。
次に強調したいことは、「親の現物は常に意識しよう」ということです。
一見遅そうな親が突然リーチしてきて、何も安全牌がなく、仕方なく一番安全そうなのを切ったら満貫に放銃、この12000点を取り戻せずそのままラスにー-。よくある負けパターンですね。
そのため、「今親がリーチしてきたら対応できるか?」は、常に意識しておくことをおすすめします。
例えば3巡目で、か切りで迷ったとしましょう。自分の打点やスピードは、どちらを切っても差はない状態ですが、親の河にがあります。
であれば、親の現物を残し、切りの一手です。
KONAMI麻雀格闘倶楽部の佐々木寿人プロが、ツイッターで「麻雀とは結局のところ、心の準備です。親の現物を残すのだって準備の一つです」と強調しているように、実力者は常に親の河を綿密に見ています。
私は配牌を取る前からホンイツの事を考えています。それにより、この手役を逃すことはあまりありません。麻雀とは結局のところ、心の準備です。親の現物を残すのだって準備の一つです。そう思ってこれを着て寝たら、夢にも出てこなければ、今日は試合すらありませんでした。 pic.twitter.com/n1g2ntEOpz
— 佐々木寿人 (@sasakihisato) July 3, 2020
もう一点は、「もっとも早そうな他家への対応を意識する」ことです。
巡目が進むと、他家3人のスピードが見えてくることが多いですね。
「最初は一九字牌切りでその後中張牌を複数切る」「序盤にドラを切る」「ターツやトイツを早めに切る」などは、重要なサインです。
一番早そうな人からリーチがかかることが多いので、それに備える意識も大切です。
もっとも、一見遅そうな人が突然リーチをかけてきて、「え、そっち?」となるケースもありますが…。
また、先制を受けてオリている際に、安全牌が複数あるときは、「他家にも安全な牌」を手元に残します。
他家も後で追いかけリーチなどをしてくる可能性があるためです。
例えば、次のような状況を考えましょう。
リーチ者の河
リーチ
別の他家の河
自分がオリることを決め、手には、とがあります。
リーチ者に対しては、どちらも現物ですね。
しかしここで切るのは、です。
を先に切ると、別の他家が追いかけリーチしてきたときに、安全牌がなくなってしまうためですね。
を残しておけば、一巡しのぐことができます。
2人リーチの場合は、一巡まわる間に安全牌が増えることも多いですし、リーチ者同士で放銃するケースもあるので、「一巡しのげるか」は極めて重要です。
これらのミクロな選択は地味なため、放送対局などで注目を集めることは少ないですが、毎巡の地道な思考の積み重ねが大きな成績の差につながります。
インターネットの麻雀では牌譜を見られますので、機会を見つけて、一巡ごとに「本当にこれを切るのが最善だったのか?もっとよい手はなかったか」と振り返るのも上達へ道だと思います。
次回は「一色手への対応」をご紹介します。