~「麻雀界 第9号」より転載~
トラブルの種類は様々あって、その対応も店によっても違うこともしばしば。
今回は大貝プロが、起こりやすいトラブルを分類。全部覚えて大貝プロの裁定とともにグッドマナーに努めよう!
さて、いつもは暴君のごとく「こうあるべきだ」と自説を押しつける私ですが、今回は少々趣が違います。無責任にも自分の答えすら出ていない事柄を書き進めるからであって、そもそもマナーの範疇に入る話かどうかもわからないのですが、まあとりあえず読んでみてください。
答えがいまだ出せないのは「遅ロン」の問題です。その是非、そしてスタッフとしての対応の難しさが悩みの種なのです。
まずは自分の恥をさらすところから話を始めましょう。解決不能の悩みのきっかけは、三十年前の私の不細工な行為にありますので。
当時はもし現代の人が飛び込んだら間違いなく半荘1回で席を立つような、今にして思えばすさまじいマナーレベルの中でゲームが行われておりました。
まだ愛くるしい学生だった私はお父さんたちの『早くツモれよ(先ヅモしろよ、の意)』という視線にも負けず、つねに美しく闘っていたものです(笑)。
オーラス中盤、3着目の私にピンフドラ1のテンパイが入りました。並びと点差はこんな感じです。
東家25400
南家24300(私)
西家26900
北家23400
リーチをかければどこから出てもトップになれますが、投げたリーチ棒のせいでラスになることもありえます。直撃かツモなら届くこともあって、私の選択はヤミテン。そして『東家、北家からは見逃す』と決めました。
若いくせにずいぶん枯れた打ち手です。ところがトイメンから私のアガり牌が出て、それと同時に下家の両手が卓上に上がりかけたのを見た私、咄嗟に「ロン」と言ってしまったんですね。
当時の年輩の打ち手はたいていアガリの発声をしないのが普通であり、したがって私の発声が先んじた形になっています。ダブロンが成立し、私は2着になってこの半荘を終えました。ロンの声があまりにも速やかに出てしまったため誰も違和感を覚えなかったのは確かなのですが、事実上の遅ロンであったことを私だけは知っています。
結局その日は麻雀に気が入らずすぐやめたのですが、もやもやしたものは日を改めても残りました。『自己嫌悪』と言っては強すぎますが、『後味の悪さ』では弱すぎる微妙な感覚をずっと引きずってしまったんですよ。
なおいつもの余談ですが、『遅ロン』を「チロン」と読む人が最近多いように思います。少なくとも往時には「オソロン」と言っていた気がしますし、今でもそう読むべきと思います。『指運』を「ユビウン」と読むべきなのと同様、音から意味を掴みやすい方を用いるのが望ましいですよね。
話を戻しましょう。今度はそれから十数年後、なんの因果か私が麻雀に関わる仕事を始めた頃の出来事です。とあるお店でお客さんとして遊んでいた私の卓に、ある若手プロがご案内されました。その若手プロが、やはり遅ロンをしちゃったんですね。この時の状況をなぜか不思議なくらい鮮明に覚えています。
初戦から絶不調だった彼がまたもラス目で迎えた6戦目くらいのオーラス、彼と本走中のスタッフ(主任さん)との点差は6300。そんな中盤すぎ、彼が少考の末にリーチときました。
この回の私は断トツで、しかもラス親であるためアガリに行く必要もなかったのですが、安全牌だけを切り続けるうちにカンマチのテンパイが入りました。
自分がトップ安泰の時には下位陣の着順を変えるアガリをよしとしない私ですが、タンヤオのみの2000点ならどこからでもアガれます。
すると私のテンパイを待っていたかのように、リーチにも無スジのが主任さんから打ち出されました。主任さんとしてもプロにツモられればまずもってラス落ちですから、勝負に出向いたんでしょうね。むろん私はアガります。「ロン」そして倒牌、点数申告。それに対して主任さんが「はい」と言った頃合いで、若手プロが「あ、僕もロンです」と言ったのです。
が打ち出されてからの時間は5秒もあったでしょうか。決着した瞬間の5秒はそう短い時間ではありませんから、これはもう誰がどこから見ても堂々たる遅ロンです。
遅ロンは注意すべきか?
彼の発声が遅れた理由はその手格好にありました。倒した手牌はリーチピンフだけ。リーチに踏み切った時点の彼の思考を想像するに、『ツモって裏ドラが1枚乗れば着順アップ。そしてその1枚オールの御祝儀でこの回の採算はほぼ取れるから、どこからアガリ牌が出ても見逃そう』こんなところでしょうか。
そして予定通りに見逃そうとしたところが思いがけない方向からロンがかかったため、気を取り直して対応を決めるのに5秒という時間を要してしまったと思われます。これも余談ですが、彼が気合いもろともめくった裏ドラは1枚乗り、彼はどうにか3着になりました。
ここからは同卓していた顔見知りからの後の伝聞なのですが、主任さんがそのプロに注意をしたそうです。
「これが私だからまだよかったのですが、相手がお客さんだったらトラブルの元ですし。元々見逃すつもりだったなら、それを貫く方がカッコいいですよ」という感じで。
この話を耳にした時、初めて私は『やっぱりお客さんにも指導してあげる方がいいことなのかな』と思ったのです。遅ロンがアンフェアであると考える人がいる以上、思わぬところで疎まれてしまう可能性も。そこまではいかなくとも気まずい思いをしてしまうこともあるわけですから。
また同時に、はっきり自分の意見を言ったその主任さんは立派だと思った次第です。彼の注意は、おそらくはそのプロの行く末まで慮ってのものでもあるでしょうからね。
それ以後の十余年、全てのスタッフに見苦しい遅ロンをしないよう指導するとともに、麻雀に真摯に取り組む若いお客さんたちにもそうしてきたわけです。しかしこれを全てのお客さんに周知徹底するのは正直言って無理です。明文化してルール表に載せても、咄嗟の判断を止めることはできないでしょう。
それ以前に万人の理解が得られる話ではない気もするのですね。だからいざそんなシーンを目にした時に遅ロンを認めない裁定を速やかに下せるかどうか、そしてその人に納得させられるのかどうか。本当に見逃す気だったのかどうかは本人だけの胸の内ですしね。
これが私が長年解決できない問題です。もし機会があれば、皆さんのご意見を賜りたく思います。どう裁定すべきか、あるいはアンフェアと思うかどうか等を。よろしくお願いします。
ご褒美のチューレン
ページが少し余ったので、このテーマに関連した自慢エピソードを最後に。
もう2年ほど前ですが、横浜のお店で勤務していた私の手がこうなりました。
局面は東ラスの終盤、現在トップのトイメンとは28000差の3着目なので、これはでなければアガれないところです。それより何よりチューレン好きの私としては、これをでアガるようでは今夜眠れないでしょう。するとすぐ持ち点4ケタの下家からが出て、それにトップ目から「ロン」の声が。
私もアガれば2着ですが、また同じ過ちを繰り返すわけにはいきません。アガらないと決めたらやはりアガらない方が気持ちいいですしね。そして見逃した甲斐あって、その一戦も無事にオーラスを迎えることができました。
私は遠く離れた3着目のままでしたが。そんな16巡目、遅ればせながら私に入ったのがこのテンパイ。
どうです、ポリシーにこだわったご褒美に見えませんか?
そして今度は場に1枚のの方を、すぐに下家がツモ切ってくれました。ちなみにこの下家は若いご新規さん。新規からの役満があまりにカラいのは承知ですが、チューレンだけは倒さないわけにいかないんです、私(涙)。あの時の彼、もしもこれを読んでいたらごめんなさいね。
なんの主張もない文章に加えて最後が自慢話ではなんとも恐縮ですが、皆さんが同じ立場になった時にどうするかをあらかじめ考えておく助けになれば幸いです。
老婆心で申し上げますが、もしあなたが「プロ」という肩書を持つ方ならば、またそうでなくても周りからの評価も財産と考える方ならば、アガらない勇気を持つことをおすすめしておきます。三十年前の私のように、そして十数年前の若手プロのように、一度自分をおとしめてしまうと立ち直るのに時間がかかりますからね。
それでは今回はこのへんで。
皆さんの麻雀ライフがより豊かなものになりますように。
著者:大貝博美
プロフィール:昭和35年、東京都生まれ。101競技連盟所属。第22・30期王座。ファミレス店店長を経験後、競技麻雀に惚れこみ、麻雀プロの世界に足を踏み入れる。
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