「前回よりメチャクチャ強くなってましたね! ラフな放銃、雑な打ち回しがなくて、守備の時の気の使い方がすばらしかった。そりゃベタ褒めしますよね」
対局の合間に、解説の河野直也が興奮気味の様子で僕に声をかけてきた。話題の中心は、日本プロ麻雀協会所属の「借りてきた猫」こと都美。Aリーグ経験もあり、最高位戦日本プロ麻雀協会の次期エース候補と目されるイケメン雀士が、彼女の対局に最大限の賛辞を送っていた。もちろん解説という立場上、河野はフラットな視点で対局を見ている。それでも礼讃の言葉がやまないほど、都美の打ち回しが見事だったのである。
都美の麻雀ウォッチ シンデレラリーグ出場は、今回で2回目。前回は序盤に大きくポイントをロスしてしまい、本領を発揮する前に予選で涙を呑んだ。しかし、都美の真価は守備にこそある。勝負どころできっちりとアガりきり、その後は大崩れしない。そんな堅牢さを、この日は存分に堪能することができた。
今回の観戦記は少し趣向を変えて、河野の解説を織り交ぜながら対局を振り返っていこうと思う。
この日はBブロック1位の塚田(136.2p)、2位の水谷(61.2p)、5位の都美(5.6p)、6位の樋口(▲63.8p)という組み合わせ。上位陣と直接対決する機会に恵まれた折り返し地点ということで、この対局はまさしくターニングポイントと言えた。
1回戦を手堅く2着でまとめて迎えた2回戦東1局。
チートイツ・赤1のテンパイを果たした都美は、打とし、待ちのヤミテンに構えた。
「これ、すごくないですか!?」
と、河野が鼻息を荒くした。
じつに秀逸な一打だと思う。3や7の尖張牌(せんちゃんぱい)より、ヤオチュウ牌の方が牌理上余りやすい。そのため待ちに取る打ち手も多そうだが、 を引けばイーペーコー・赤1のシャンポン待ちへも変化する。と心中するよりも、この方がアガリ率は高そうだ。
それに、親の樋口が2巡目にを切っていることも待ちを選んだ根拠となっていそうだ。は樋口に対して比較的安全そうだし――
今回のように、樋口からこぼれる可能性も増える。
まさしく目論見通り。会心の3200だった。
同じく2回戦の南2局5本場。供託が3本あり、アガれば4500点の加点が確定する。全員が20000点台ということもあり、まず間違いなくスピード重視となる局面だ。
まずは水谷がカンをチー。
同巡、塚田がをポン。
直後、都美はカンをチーしてバックのテンパイ一番乗りを果たした。
テンパイ二番手は塚田。を345でチーした後、を重ねてペン待ちに。
さらに、唯一門前だった樋口が、塚田の当たり牌であるを使い切って 待ちのリーチをかける。
そして水谷も、樋口の宣言牌のをポンしてカンのテンパイとなった。この煮詰まった局面で、全員テンパイという激アツ展開!!
そんな中、都美の元へ全員に無筋のがやって来る。をすでに切っているために、バックでアガるためのテンパイを維持するなら、を切るしかない。
が、都美は切りを選択した。
「マンズとソーズは全部切るつもりでいました。供託が大きすぎるから自分がアガるつもりで行くんですけど、は切れなかったですね。誰かに当たっても厳しい状況になってしまうので。それに、ラス目の樋口さんがツモる分にはいいかなとも思っていました」
そう都美は述懐する。これを受けた河野は、またしても都美を絶賛するのだった。
「あそこでを打つのは雑な放銃かもしれないけれど、見返りが大きすぎて僕なら押してしまうと思います。ほぼトップ確定みたいになるので、そっちの見返りに甘えちゃう。だけど、都美ちゃんは甘えなかった。打ち手として一貫性を持つのなら、あそこは絶対に打っちゃいけない。素晴らしい一打でした」
結果としてを切っても放銃にはならず、直後に自力でを持ってきたことでアガリを逃した選択ではあった。だが、実際に樋口と水谷はピンズ待ちであったし、僅差とはいえ現状はトップ目だ。リスクを最小限に抑える打ち回しは、都美の大きな強みだと思う。それにを中抜いたとはいえ、完全撤退というわけではない。
ソーズを1メンツ落としていき――
道中に持ってきたも重ねて、再びテンパイへとこぎつけた。
この局は塚田の300-500は800-1000のツモアガリで決着した。だが、そのポーカーフェイス同様に自身のスタイルを崩さなかった都美の一貫性に、河野のボルテージはさらに上昇するのだった。
続く南3局、都美は塚田と5500点差の2着目。トップ目を射程圏内にとらえたまま迎えた親番で、ドラのがトイツになる。
同巡、樋口がこの超好形1シャンテンからをリリース。
絶妙すぎるタイミングでをポンすることに成功し――
この半荘の決定打となる4000オールをものにした。この日、都美は終始好調だったが、いわゆるツイていた局面と言えば、このシーンくらいだったように思う。
前半2戦で、都美は63.1pを獲得。順風満帆な展開で、後半2戦へと臨んだ。