かつて中国に曹操(そうそう)という極めて頭の良い将軍がいた。
曹操は関羽(かんう)と領土を巡って争いを繰り広げていたが、どうにも戦力が足りず、いよいよ敗北寸前というところまで追いつめられてしまう。
真正面から戦っても勝機がないと感じた曹操は考えた。
曹操「自分の力だけではどうにも戦えない時に、何か策はないものか…。」
時はMリーグ2019第4節、たろうも自分の手牌だけではどうにも戦えない局面を迎えていた。
親の松本選手が→の切り出し。
役牌のあとにオタ風の手出しが入るということは「私は役牌の重なりは必要ありません。」という宣言だ。
つまりメンゼンで十分リーチにたどり着けそうな手牌であると推測できる。
さらに北家の近藤選手が→と役牌を連打。
手牌が悪い時は字牌を抱える傾向にある近藤選手が、役牌から素直に切り出しているということは、こちらも十分に戦える手牌なのではないかと推測できる。
そしてそのを亜樹選手がポン。
亜樹選手はMリーグ全体の中でも副露率が低いため、仕掛けたときはかなり整っていることが多い。
こちらも十分に戦える手牌だと推測できる。
たろう「この時点で自分のアガリは相当厳しいと思った。」
たしかにドラ受けこそあるものの、愚形も多く打点も低い手牌では、この3人相手に真正面から戦うことは難しい。
たろうはこの状況を”リーチ待ち”という独自の表現で語る。
たろう「マツ(松本選手)と誠一さん(近藤選手)からは、いずれリーチが飛んできそう。戦えない手牌の時に、指を加えてこの状況を傍観してるのって、2人からリーチがかかるのをただ待ってるみたいで、すごく損だと思うんだよね。」
ではこの戦えない手牌で、たろうはどのような戦術を取るのか。
たろう「自分がアガる以外で、この局の良い結末を想像すること。例えば亜樹ちゃんのアガリで2000点くらいの横移動が発生したら、かなり嬉しいよね。低打点と横移動、それがこの局の期待値をマシにする方法だね。」
ではそれを目指したときに取るべき選択は何か。
たろう「亜樹ちゃんにアシストすることだと、俺は思った。Mリーグってリーチの平均打点が高いから、リーチ待ちはすごく損。鳴いてアガリに向かってくれてる人がいるなら、その人を使うことも考えた方がいい。アガリに向かう人が増えれば、それだけ横移動確率も上がるからね。」
そしてたろうは、この手牌から打を選択する。
その後、立て続けに、と切って亜樹選手の仕掛けにアシスト。
結果は亜樹選手が1300-2600をツモアガリして終局となった。
たろう「できれば横移動して欲しかったけど、この局を1300点の失点で切り抜けられたなら十分だよね。」
確かに松本選手からのタンピンリーチや、近藤選手からの赤赤リーチを受けるよりは、遥かにマシな結果だと言えるだろう。
自国の戦力が乏しいなら、他国の戦力を使う。自分がアガる以外にも、戦う方法はある。
ちなみに曹操はというと、自国の領土を他のライバル国に分け与えることで味方に付け、ライバル国と共闘することで苦しい局面を乗り切ってみせた。
まっすぐ戦うことだけが、戦略ではない。
ときには周りを使ってでも、自分の理想の結末へと向かっていくのだ。
たろう「それでいうとさ、もう1つあったのよ。アシストした局面が。」
トップ目で迎えた南1局、たろうはこの手牌からドラのを切った。ドラ切りがアシストとはどういうことだろうか?
たろう「まず誠一さんが3巡目に自風の生牌東を切っててめちゃ速そうだったんだよね。自風の生牌って、普通は最後に切られるから、手牌に不要な字牌はないってことが分かる。で、そこからさらにとの手出しが入って、相当ヤバいと思ってた。」
2着目で親の近藤選手のアガリは、トップ目としては是が非でも回避したいところ。
たろう「そこでマツか亜樹ちゃんにドラを鳴いてもらった方が、誠一さんのリーチ待ちをするよりマシだなって思った。」
それでいうとドラのは近藤選手に鳴かれる可能性もあるのではないか?
たろう「それはそうなんだけど、役牌ドラがトイツのときってもっと他の役牌を大切にすることが多いのね。だから誠一さんにがトイツの可能性は通常よりも低いと思ってた。それよりもマツか亜樹ちゃんに鳴かれる可能性のほうが高いなって。」
つまり近藤選手からリーチが入るよりも、亜樹選手か松本選手にドラポンされる方が良いということか。
たろう「俺はそう思ってる。あとは自分の手牌はアガリに向かえそうになったのも大きい。ここでを切っとけば、無理なくアガれる手順も残るからね。」
しかし残念ながら、ドラアシストは誰からも声がかかることなく不発。数巡後、たろうの読み通り近藤選手からリーチがかかり、6000オールをツモられる最悪の結果となった。
そのままズルズルと点棒を減らし、たろうは3着でこの半荘を終えた。
しかしこの日の試合、たろうの結果こそ振るわなかったものの、2回戦目の村上は躍動し、トップを獲得。
自身は悔しい敗戦を喫したにも関わらず、たろうの顔は晴れやかに見えた。
やるべきことをやって負けたなら仕方がないだろう。
勝つのは必ずしも自分でなくていいのだ。
時には周りを頼ってでも、チームのポイントが増えるのならばそれでいい。
たろうの笑顔にはドリブンズのエッセンスが詰まっている。