デコボコだった。
をポンして、ホンイツ・小三元・赤の18,000点のテンパイ。村上の手牌は大きくよれていた。
レギュラーシーズンの整然とした牌の並びと見比べると、その違いは一目瞭然だ。
村上「めちゃめちゃ緊張しちゃってさ。このときも手が震えてて、牌を直したら倒してイエローカード貰いそうだからできなかったんだよね(笑)」
たろう「ずんたん(村上淳)でも緊張するとかあるんだね。」
たしかに18,000点は大きな手だ。しかし過去に幾度となくタイトル戦に出場し、数多くのタイトルを戴冠してきた村上が、手が震えるほどの緊張を味わっている。
村上「このときだけじゃなくて、東場からずーっと震えてた。」
そう思って見返すと、確かにこの半荘は、動作のおぼつかない部分が何度か見受けられた。
村上「いやでもね、だからといって緊張で選択が変わることはなかったけどね。」
緊張、重圧、願望、覚悟。あらゆる感情がうずまくこの状況においても、やるべきこと、するべきことは変わらない。何度でも言う。ドリブンズは期待値を追求するだけだ。
ただこの終盤戦、期待値の追い方が序盤とは少し変わってくる。
ハイテイ飛ばし、ハイテイ送り
18/24回戦、南3局。佐々木選手のリーチと、多井選手の仕掛けを受けてオリに回っていたたろう。
最終手番にこのバラバラの手牌で、亜樹選手が切ったに止まる。
たろう「このまま行くとハイテイが多井さんなんだよね。で、亜樹ちゃん(二階堂亜樹選手)が安全牌に困っているように見えた。ポンをすればハイテイが亜樹ちゃんに回るでしょ。風林火山には放銃して欲しいからさ。」
この時点でのポイント状況は上記。優勝を争う目下の敵はEX風林火山だ。
そうなるとここから見るべきは468.1ptという我々のポイントではない。283.8ptという風林火山とのポイント差だ。
たろう「あとはほんの少しだけ多井さん(多井隆晴選手)のハイテイを飛ばしてあげたいという気持ちもあるよね。トップ目の多井さんにはできれば2着目の亜樹ちゃんよりも遠くに行って欲しい。テンパイだけどハイテイだからオリるとかなったら嬉しくないしね。」
結果的にハイテイをずらしたことにより、何かが起こったというわけではない。
しかし自身の得だけが優勝期待値を上げる行為ではない。風林火山の損も、優勝の期待値を上げる行為になるのだ。
リーチ棒でアシスト
風林火山の損を誘発する行為は、ハイテイずらしだけではない。
16/24回戦のオーラス、ハネマンをツモればトップという状況で園田はこの手牌。
ツモって裏ドラが2枚乗れば白鳥選手をまくることができる上に、着順の降下がほとんど無さそうな状況。当然のリーチだ。
しかしこのリーチにはもう1つの意図が隠されている。
園田「リーチ棒を出したかったんだよね。まりちゃん(高宮まり選手)のために。」
現在4着目の高宮選手と3着目の勝又選手の差は10,900点差。
マンガンツモで変わる点差が10,000点なので、900点足りない。つまりフラットな時点での高宮選手の着順上昇の条件はハネマンツモ。
しかし、ここにリーチ棒が出たらどうなるだろうか。高宮選手はマンガンツモでも勝又選手をまくることができる。
高宮選手の着順が上がる=風林火山の着順が下がる。このリーチは自身の得を追求しながら、風林火山の損を誘発する行為でもあるのだ。
決しておじさんが美人を贔屓しているわけではない。
その狙い通り高宮選手から追っかけリーチが入る。リーチドラドラ赤のツモってマンガンの手牌。
園田のリーチ棒がなければツモって裏ドラ条件になっていたが、今ならば無条件だ。
このリーチに園田が一発でを掴み放銃。このときドリブンズ一同は1つの願いを送っていた。
「裏ドラよ乗れ!」
さて、放銃したのに裏ドラが乗って欲しいとはどういうことか。
上図を見れば分かる通り、園田は裏ドラが乗らず8,000点の放銃だと対風林火山的に8pt損をし、裏ドラが乗り12,000点の放銃をすれば8pt得をする。
自身の得だけが優勝への期待値を上げるわけではないということがよく分かるシーンだった。
そしてこのシーンに関しても、結果的に8ptの損をしたわけだが後悔などは全くない。
園田「優勝に向けて期待値的に最大の選択をしただけだから。」
手牌はデコボコ、でも思考はフラット。
ドリブンズは残り6試合もひたすらに期待的だけを追い続ける。
半荘の期待値ではなく、優勝の期待値を。
LOAD TO CHAMPION――