「与那城さんがカッコいいと思う人って、どんな人ですか?」
最後に僕は、彼女にそう問いかけた。「そうですねぇ……」と少し考え込んだ後、彼女は軽く笑みを浮かべながら答えを返してくれた――。
最高位戦日本プロ麻雀協会所属、「漆黒のホリーホック」与那城葵。過去にモデルを務めていたこともあるほど端正なルックスを誇り、キャッチフレーズを決める際には「中2病っぽくしてください!」というリクエストを飛ばしてくるなど、ユーモラスに富んだ人柄も兼ね備えている。麻雀プロ歴は3年目だが、「麻雀最強戦2018 女流プレミアトーナメント 美女の乱」での優勝経験もあるなど、知名度急上昇中の注目雀士だ。
また、その才能は麻雀だけに留まらない。「アオイベルッチェ・リースイ・カリプレイ」の名で、パチスロライターとしても活躍中。興味があるジャンルに積極的に挑戦し、そのいずれにおいても一定の成果を出している。以前の僕は、与那城に対して「天才肌の人なんだな」といったイメージを抱いていたくらいだった。
2017年、そんな与那城のシンデレラリーグ初挑戦は、予選第4節での途中敗退という結果に終わっている。第1節を+4.4pで終えた以降は、全節がマイナス。「全然ダメでしたね」と自身で振り返るほど、見せ場を作ることができなかった。
「麻雀プロになってから連続昇級して、女流リーグもすぐにAリーグに上がって、自信があったんですよ。でも、結局麻雀は弱い人が負ける。この2年くらいでけっこう負けの波がきてしまって。で、なんでだろうと自分の放送対局を見返したら、『あぁ、それは負けるわ』と(笑)」
自身の不調を受けて、与那城は自らの対局はもちろん、様々な放送対局に目を通すようになったという。
「自分の出た対局は必ず見ます。客観的に自分の悪いところを見ようと。他の対局番組もよく見ますし、自分が打つ相手なら、なおさらチェックしますね。前は全く見なかったんですけど、負け続けると、腹立つじゃないですか?(笑)」
あれから1年、与那城のリベンジ戦は初出場の3選手を相手取る格好となった。
1回戦東2局、昨年と違い、与那城の見せ場は早々に訪れた。
先制リーチは田渕。ピンズの変化も見て一度はヤミテンの待ちに構えたが、すぐにドラのを持ってきて、「どうせ目立つなら!」とばかりにツモ切りリーチ!
これを受けた与那城、配牌からとがトイツでマンズのホンイツやチートイツ、トイトイなども見えていたが、それらをバッサリと切り捨てるかのように、丁寧に現物の打、続けてをトイツ落とししていく。リーチを受けてドラ1の4トイツ、決して前がかりになる局面ではない。
現物を処理しきった後はのトイツ落とし。イーペーコーの目は残るし、か にくっつけば、十分に勝負にいけそうだ。
「前ならこれは押していたけれど、今年はそれを押さなくなったとか。逆に押せなかった牌が押せるようになったりしています」
引き過ぎず、押し過ぎず。与那城自身は「今は麻雀迷走期に入っている」と評していたが、少なくともこの日の与那城にその陰りは見えなかった。
のトイツ落としの道中でとを引き入れて、颯爽とリーチ! リーチ・イーペーコー・ドラ1、ツモれば満貫確定だ。
このカンを、見事に一発でツモってみせた! 裏も2枚乗せ、会心の3000-6000をものにし、このリードを生かして初戦トップとなった。
続く2回戦は、オーラスに爆発!
まず川又から・ドラ1・赤2、12000点を和了! 一気にトップの日當を射程圏内に捉えたかと思えば――
次局にはリーチ・ツモ・ドラ1・赤2、4100オールをアガってトップ目に。続く南4局2本場に川又の倍満ツモ上がりで詰め寄られはしたが、トップの座を死守してみせた。開幕連勝だ。
その後は2着、3着とまとめ、トータル70.5pでフィニッシュ。
「トップを取れたことは純粋にうれしいんですけど、横移動とか、展開が良くて取れたもの。いい麻雀を打てたとは、言えないですね。100点満点中、35点です」
快活なキャラクターの与那城だが、この上ない最高のスタートダッシュを前にしても慢心する気配は一切なかった。休憩中、自身の打牌を反省する局面も多く見られた。自分を客観視する。ひじょうに難しいことを、与那城は自身の放送対局を振り返るという勉強法とともに、習慣づけているように感じられた。
「でも……」
と付け足す与那城。
「SNSで、勉強しているとか動画を見ているとか、そういうことは一切書いていないんですよね。『普段は好きなことをしているのに、こういう牌も止められるのか!』みたいな方が、カッコよくないですか?」
そういえば、と僕は振り返る。与那城のツイッターは、人気女流プロらしい華々しいツイートにあふれている。仕事の告知やプロ仲間との交流に触れていることが大半で、泥臭さを感じさせるようなものは皆無だ。それに、よくよく考えてみれば、パチスロライター「アオイベルッチェ」としての活動は、完全に別アカウントだ。彼女は麻雀にとても真摯だが、好きなことに一切の妥協をしない。だが、その努力を人に見せることを良しとしない。なぜならそれが、彼女の美学だからだ。なかば僕が無理やりに聞き出したけれど、これからも与那城は何食わぬ顔をして陽気なツイートを続けるのだろう。
「与那城さんがカッコいいと思う人って、どんな人ですか?」
最後に僕は、彼女にそう問いかけた。
最後まで読んでいただいた方ならご理解いただけるかとは思うが、この質問は決してナンパ的なアレではない。
「そうですねぇ……」と少し考え込んだ後、彼女は軽く笑みを浮かべながら答えを返してくれた――。
「謙虚な人、ですかね」
それならば。この日の与那城葵は、最高に「カッコいい人」だった。
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