じつにフラットな打ち手だと思う。
日本プロ麻雀協会所属、「わかにゃん旋風」月城和香菜。どこかホワホワとした佇まいで、周囲の人々の笑顔を誘う。麻雀においても、その雰囲気が大きく揺らぐ様子はない。
「緊張することはないですね。番組に出演して苦手に感じるのは、おしゃべりくらいです(笑)」
番組冒頭、終始リラックスした立ち居振る舞いで解説陣を煙に巻く姿を間近で見ていただけに、「何が苦手なものか」と異議申し立てをしたくはなった。ただ、それは裏を返せば麻雀に対する自信の表れなのだと思う。
「卓につく時は、私が一番強いと思うようにしています。それぐらいじゃないと、気持ちで負けちゃう。だって、知名度は私が一番ないし、だから麻雀だったら私が一番だぞと考えるようにしています(笑)」
プロ入り4年目で、日本プロ麻雀協会の女流最高峰リーグであるAリーグに所属。タイトル獲得経験はないものの、その実力は折り紙つきだ。最近は2019年度よりAリーガーとなった「魔神」渋川難波に師事し、さらなる成長を遂げているという。
とはいえ、新進気鋭の女流雀士が集結するこの「麻雀ウォッチ シンデレラリーグ」においては、そんな月城も簡単に勝てるとは限らない。第1節ではトップ1回、3着1回、ラス2回という厳しい結果で、Cブロック8名中7位に甘んじている。
この日行われた第2節では、5位の日當、2位の与那城、1位の山本と同卓。上位陣と直接対決するこの日は、月城にとって大きなターニングポイントだ。差を詰めることができれば、予選最終節の戦いが非常に楽になる。逆にさらに水を開けられようものなら、準決勝進出はおろか、プレーオフに勝ち進めるかも危うい立ち位置だ。
そんな天王山に、やはり月城はフラットな装いで挑むのだった――。
1回戦東2局1本場、「さらにポイントを伸ばしたい」と語っていたトータルトップの山本が、有言実行の手順を見せる。自力でを暗刻にして、さぁ何を切る? 現状ターツオーバーで、を鳴きやすくするメリットを考えると、打がマジョリティだろうか。
山本の選択は、切り。ソーズ1メンツを、全て捨ててトイトイを見据えた。たしかに現時点でもも、比較的鳴きやすい牌だ。せっかくもらったこのチャンス手、安手で終わらせてなるものかという覚悟を感じる。
論見通りをポン。河にと、強烈な牌が並べられた。
この異変を敏感に察知したのが月城だ。カンをチーして食いタンの1シャンテンに構える。
さらに山本がをポンして中・トイトイのテンパイを果たす。なら満貫の勝負手だ。
直後、山本のテンパイ打牌のを月城がチー。を勝負して、待ちのテンパイを取った。
この局面で、日當が一気通貫も見える1シャンテンに。だが、浮いているが危ない!
ここで日當は切りを選択。ソーズ1メンツを落とした山本には通りそうだが、はドラのまたぎ牌で、月城には通っていない。だがが4枚見えているため自身の受け入れとして弱いことや、生牌のを切るよりはるかにマシだと考え、この判断に至ったのだろう。
このファインプレーの結果、山本がをつかんで1500は1800を月城に放銃。打点以上に局面を左右する、じつに効果的なアガリだった。
「私、好きな役とか得意な役ってないんですよ。手役とかに固執しないで周りの動向をうかがって、さばけそうなら普段だったら鳴かないようなところを鳴いたり、柔軟に構えるようにしています」
そう語る月城の持ち味が、早々に発揮された局面だった。
続けて東4局、7巡目に日當からリーチ・ピンフ、待ちのリーチが入る。宣言牌はだ。同巡、月城の手牌がこちら。
なんと、ヤオチュー牌の余りなしで国士無双のテンパイ! しかも待ち牌は日當の宣言牌であるだ。与那城が1枚切っており、日當が1枚手牌に使っている。山に眠る残り1枚の、こんなの誰だって止まるわけがない。
そんなドキドキが僕を襲った直後、日當が悠然と一発ツモ! しかも――
裏が2枚! 会心の3000-6000で、月城の大物手は露と消えた。日當が絶好調のまま、1回戦はオーラスへ。ここで日當に立ちはだかったのが、ラス親の与那城だった。
まずチートイツ・赤・ドラ2のヤミテンを、リーチをかけていた山本から海底ロン。18000は19200点のアガリで、一気にトップ戦線へと駆け上がる。
続いてオーラス4本場。赤含みのカンから仕掛け、 を自力で暗刻に。そしてカンをツモりあげ、2600は3000オールで、たちまちトップ目に躍り出た。
トップ目の与那城とは大きく差がついてしまった月城だが、日當から満貫直撃、あるいは跳満ツモで2着に浮上できる。このシンデレラリーグの順位点は10-20。3着から2着になると、20000点分のポイント加算となる。2着に滑り込むことの価値が、非常に高いルールだ。
南4局5本場、そんな月城のもとへ一気通貫も見えるチャンス手が舞い降りた。
5巡目、一気通貫は確定していないが待望のテンパイを果たす。高めのを日當から出アガるか、ツモって裏を1枚乗せれば着順アップの条件クリアだ。意気揚々とリーチ!
こ…この牌は!
をツモって、まずは第一関門突破! あとは裏ドラを1枚乗せるだけ。ピンフ系の牌姿で裏ドラが乗る確率は、およそ30%と聞いたことがある。裏ドラをめくる手に、自然と力がこもる。
が…ダメ! 2000-4000は2500-4500のアガリとともに、1回戦を打ち終えた
負債を増やしてしまった月城だが、傷口は浅く、トータルトップだった山本と差が詰まったのは大きい。
2回戦東3局、相も変わらず日當が秀逸な打ち回しを見せる。789の三色が見えるこの形から、打とした。は山本と月城の筋牌で、比較的安全度が高い。さらにを先に切っておくことで、が出やすくなるという狙いもありそうだ。
すると、望外のが雀頭に!
自信たっぷりとばかりにリーチをかける。
このリーチに挑んだのが月城だ。をぷりっと切って、ピンフ・赤・ドラのヤミテンに構える。現物のを着実に拾いにいった。
だが次巡、を持ってきたところでとスライドして、リーチを敢行! この1巡で、いったい何があったのだろう? 注目は親番の山本の河だ。無筋のを勝負している。降り打ちが期待しにくいのならば、この手は最高打点を目指すのみ! 対応型の月城らしい選択だと思う。
この選択が最高の結果を生んだ。高めのをツモり、裏ドラも1枚乗せた。リーチ・ツモ・ピンフ・イーペーコー・赤・ドラ3、4000-8000のツモアガリ。まさに「わかにゃん旋風」!
このアガリについて「思い描いた通り」と振り返った月城。どことなく、満足そうな表情だ。それはそうだ。倍満をアガれば、誰だってうれしい。トップを取れる可能性も、かなり高いだろう。だが次局、この日最大のインパクトを残す出来事が待っていた。