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株式会社池田屋テクニカルプロデューサー・軒名秀明「形のないものこそ大事」【マージャンで生きる人たち 第35回】

株式会社池田屋テクニカルプロデューサー・軒名秀明「形のないものこそ大事」【マージャンで生きる人たち 第35回】

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 映像技術プロダクションである株式会社池田屋は、CS放送・MONDO TVの麻雀チャンネル『MONDO麻雀プロリーグ』の立ち上げから番組制作に携わっている。 

 麻雀プロによる対局番組が皆無だった草創期から、TP(テクニカルプロデューサー)という技術コーディネーターとして、撮影現場を機材面から支えている軒名秀明さんに、麻雀番組制作にまつわる話を聞いた。

軒名秀明(のきな・ひであき)プロフィール

1956年、神奈川県出身。牡牛座、A型。日本工学院卒。株式会社池田屋・営業本部顧問。麻雀対局番組『MONDO麻雀プロリーグ』をはじめ、TVドラマ『金田一少年の事件簿』等、幅広いジャンルで映像制作を行っている。好きな役はメンタンピン三色。

麻雀番組を制作していく上で苦労されたことは?

「一番最初に制作を担当させてもらった麻雀対局番組は、CS放送MONDO TVの麻雀チャンネルでした。1996年当時は麻雀プロによる対局番組が無かったので、対局の流れを止めない中で、どう撮影したら視聴者が見やすくなるのか。ツモった牌を切るまでの見せ方や打牌スピードも含め、プロの方達に相談しながら手探りの状態で制作していきました」

「たとえば小考に入った場合は対面のカメラで表情を抜いたり、熾烈なトップ争いをしている2人のプレイヤーがいれば、ENG(イーエヌジー)と呼ばれる持ち運びできるカメラで、2人のツーショットを撮影したり等、熱い闘いをより熱く伝えるため、試行錯誤の連続でした」

麻雀番組制作における役割分担は?

「カメラマン、スイッチャー、音声、照明、VE(ビデオエンジニア)、TP(テクニカルプロデューサー)といった役割があります」

「新型コロナウイルスの影響で、第16回モンド王座決定戦は小型無人カメラを使用しましたが、基本的にはカメラマンは5人で、対局者4人の手元と対面の顔を撮るカメラが4台。遊軍的にENGが1台あって、アガリ形を撮影したり、全体カット等を撮影していきます」

「画面を切り替えるスイッチャーは、2人体制でやっています。スイッチング画面には、カメラ4台分の画像と天カメと言って天井に固定で吊るされたカメラ画像があります。ツモ番の選手の表情から手牌、次のツモ番の選手の表情から手牌という順番にスイッチングしていくのと同時に、私はポンやチーといった仕掛けの動きを瞬時にフォローするため、手元だけをスイッチングしていきます」

「音声さんは音量調整を行うミキサーと、卓上に吊るしてゲーム中の音を確実に捉えるガンマイクのふたりです。さらに照明さんがいますが、弊社は少人数なので、麻雀対局番組の場合は自分たちで照明を仕込んでいます」

「すべての機材がスムーズに使えるよう整えていくVEは、カメラの色調整をしたり、照明さんと光量を相談しながら絞りを決めます。そして演出の意向を聞き、各部署と確認しつつ機材を選定、手配、運用するのがTPです。こういった役割分担で、スタジオ等で撮影する場合は、カメラ調整だけでも約2時間、すべてを完全にセットアップするまでには約3時間はかかります」

「収録番組でも、同じものは二度と撮影できない生放送のつもりでやっています」

 

MONDO麻雀プロリーグ以外で制作されてきた対局番組は?

「女流雀士がチームに分かれて、心拍数を計測しながら対局した『麻雀BATTLE ROYALチーム・チャンピオンシップ 2020』や、2016年にAbemaTVで放映された『第一回麻雀プロ団体日本一決定戦』等も制作させて頂きました」

制作現場はどんな方が向いていますか?

「私の持論ですが、スイッチャーもカメラマンも麻雀をまったく知らない方でも大丈夫です。手元の手牌と対局者の顔を順次撮影していく必要があるので、むしろ知らないほうが、確実に動きだけを追えるので、撮影漏れがありません。麻雀を知っていると、仮にチンイツといったように待ち牌が複雑な場合は、ついついファインダーの中の手牌を考えてしまうからです。なのでやる気のある方なら誰でも大丈夫です」

「実際私もスイッチングをしながらチンイツの多面待ちで何待ちかなと考えてしまい、気づいたらすでに2手ぐらい進んでいたこともありました(笑)」

番組制作において心がけていることは?

「信用と信頼です。相手を思いやったり、相手から信用されてこその仕事であり人間関係なので、信用と信頼といった形のないものこそ、大事にしていこうと心がけています」

新型コロナ感染症予防対策のため、小型無人カメラで収録することになった『第16回モンド王座決定戦』

撮影現場等における失敗は?

「若かりし頃、収録したテープを消してしまったことがありました。すぐに謝って撮り直させて頂いたのですが、そういった苦い経験があったので、VTRが回りましたと言われても、自分も含めてお互いにRECボタンが押されているのか等、すべてにおいて二重三重にも確認しています」

麻雀にまつわる忘れられない思い出は?

「番組の懇親会を兼ねた麻雀大会で、一番最初に同卓させてもらった麻雀プロは小島武夫先生でした。待ちでリーチをかけたんですが、流局した時に小島先生から待ち牌をズバリ当てられたことは、今でも忘れられませんね」

軒名さんにとって麻雀はどういう存在ですか?

「麻雀の仕事をすること自体が、ライフワークみたいなものかもしれません。麻雀は毎回毎回ドラマや小説と同じようにピークがあって、決して同じ展開はありません。なかなか手が入らない時の我慢もドラマだし、そういうことをひっくるめて見ているだけでも楽しいものですね」

インタビューを終えて

 軒名さんは55歳の時、心臓バイパス手術を受けている。腕とふとももと内臓につながっている動脈と大静脈を切り取って冠動脈に移植するという大手術だった。「昼食を食べている最中に気を失ってしまいました。心臓の冠動脈につながっている計12本の血管すべてに狭窄(きょうさ)があったんです」

 以降、大好きだったお酒も揚げ物も我慢した。しかし60歳の時、今度は悪性リンパ腫が喉に出て、ステージ4と宣告された。「ラスベガスから第2回リーチ麻雀世界大会を中継する予定だったんですが、抗がん剤投与がピークの時期だったので行けなくなってしまいました。髪の毛もほとんど抜け落ちましたが、自分の中では治ると思っていたので、死を意識したことはなかったですね」と常に前向きに日々を送ってきたことで、根治する可能性も出てきているという。

 大病を乗り越え、常に優しい笑顔を絶やさず、麻雀愛に溢れている軒名さんは、撮影現場におけるまさに守護神的な存在だった。

◎写真:佐田静香(麻雀ウォッチ) 、インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)

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