このシンデレラファイトにおいて【ラストイヤー】というのは、各団体入会7年目のことを指し、♯1で3着になった犬飼あやのと♯2で2着になった大園綾乃はラストイヤーを迎えている。
犬飼と大園は、それぞれのラストイヤーをどう戦ったのか。そして、♯1から彩世来夏と♯2から鈴木桃子の2人が、この先輩たちをいかに迎え撃ったのか。GroupD♯3の試合結果を追っていこう。
見事トップを獲得し、Best16入りを決めたのは、麻雀歴3年半・プロ歴2年目の鈴木桃子だった。先述の通り歴は浅いものの、鈴木はこのシンデレラファイトに出場するために芸能事務所を退所し、退路を断って臨んでいる。
シンデレラの戦う姿を載せるため、たくさんのスクショを撮るが、鈴木の表情はどれも…言葉を選ばずに言うなら、キマッている。まるで過酷な減量を乗り越えたボクサーのような、精悍(せいかん)な顔立ちだ。もちろん、だから勝ったと言うつもりは毛頭ないのだが。
この鈴木のインファイトが奏効したのは東1局0本場のことだった。
まずは大園綾乃から先制リーチを受ける。内蔵のピンフ手で、打点は8000から。待ち牌はだ。
続いて、親番・犬飼あやのから追いかけリーチ。赤牌こそないものの、ドラ1枚内蔵で打点は5800から。待ち牌はだ。
どちらも、倍満クラスではないものの、良形高打点リーチであり、決しておどしや押さえつけが目的ではないと分かる。ラストイヤーならではの、決意と覚悟が込められた、強くて真っ直ぐなリーチだ。
ここで鈴木の手が止まる。テンパイとなるツモを引き入れたからだ。しかし、ここで勝負を選択すれば、リーチ宣言牌が大園につかまる。
この大事な局面で、ちょっとだけ余談を差しはさむことをお許しいただきたい。
筆者は、健康麻雀教室の講師をしていて、麻雀を始めたばかりの方々に
①二軒リーチがかかったら、オリましょう。
②リーチに対して勝負するときは、こちらもリーチをかけましょう。
と話している。
①は、一軒だけのリーチに比べ、単純にツモアガリの確率が倍になるし、お互いがお互いに放銃する形で決着するパターンもあるからで、
②は、どうせめくり合うなら、こちらがアガった時の打点を高くしておきたいからだ。
もし鈴木が筆者の生徒なら、ここで放銃かオリのいずれかを選ぶしかなかった。
しかし、鈴木の選択は打からのトイツ落としで2巡しのぎ、
大園のアガリ牌であるを使ったの形でリーチを宣言すると、
一発でをツモアガリ。3000・6000と2本のリーチ棒を手にして大きなスタートダッシュに成功。
親リーチをかわされた上、6000を親被った犬飼と、
よりによって、待ちが重なっていたところをめくり負けた大園の心中は、察するに余りある。
鈴木はこの後も、1つ仕掛けて12000、リーチして2600は2700オールと、東2局の親番で気持ちよく点棒を積み重ね、約6万点持ちのトップ目に立った。
芸能事務所を退所し、不退転の決意で臨んだ鈴木とは対照的に、いつも通り伸び伸びと自由に振る舞うことで力を発揮したのは、3シーズン連続本戦シードの彩世来夏。
このシンデレラファイトの撮影に合わせて6kgのダイエットに成功したという彩世は、事前アンケートで自分のメンタルを7段階中最もポジティブと回答した陽キャシンデレラの顔も合わせ持っている。
普通ならちょっと見落としがちでささやかな場面だが、そんな彩世の素が最もよく現れたシーンから紹介しよう。
東1局0本場、結果として三軒リーチになり、鈴木が3000・6000をアガった局のことだった。リーチを宣言した鈴木に対し、本来ならば次のツモ番は大園のはずなのだが、彩世が誤って山に手を伸ばしてしまい、すぐに間違えたことに気づいて
(え?な、なんでもないよ?)
と、慌ててジェスチャーで示している。左隣で微笑む犬飼の表情も含めて、ほっこりとする一幕だ。
気を取り直して、麻雀の話に戻すと、彩世はラス目で親番を迎えた東4局0本場で、
第1打を河に放つ前にを暗カンすると、
ドラ暗刻の大園が、イーペーコーのカン待ちダマテンから、
を暗刻にして、ツモり三暗刻のテンパイに組み替えてリーチ。絶妙な手順を踏み、着アップからのBest16進出を、虎視淡々とねらっている。
彩世はこれに追いついて、の三面張待ちで追いかけリーチをかけ、
見事一発でツモアガリ。4000オールを手にして戦線に復帰すると、
次局1本場は、一気呵成に攻めていきたいところを我慢し、一転して冷静なダマテンで犬飼を襲う。
イーペーコー・赤・ドラの7700は8000を直撃し、鈴木に続く2着目を確固たるものに仕上げた。連対が条件となる♯3ならではの、クレバーな戦い方が光る。
オーラスは役満条件になってしまった大園が、国士無双をねらって必死に手を組むも、テンパイまでには至らず。鈴木や彩世のところで紹介した二軒リーチ・三軒リーチで、1つでもめくり勝てていれば、展開も随分と違っただろうが…。
大園と同じく、オーラス役満条件となった犬飼は、配牌を見て熟考すると、四暗刻に一縷の望みを託したが、こちらもテンパイすることは叶わず。
綾乃とあやのはこのGroupDで姿を消す。また別の大会で再会することを誓って。
GroupD♯3で、トップを獲得した鈴木桃子、同2着となった彩世来夏は、ともにBest16へと進む。1戦目は思うようにならなかった2人だが、最後に垂れていた細い糸に指が絡まると、それをガッチリ握って離さなかった。
3着の大園綾乃と、4着の犬飼あやの。ラストイヤー2人の最初で最後のシンデレラファイトは、ここまで。勝ち残っている同期たちにエールを送り、後輩たちに温かいアドバイスの声をかけつつ、この舞台を降りる。
このGroupD、♯1ではシーズン1ファイナリストの陽南まこが、♯2ではシーズン2ファイナリストの木下遥が、多くのファンに惜しまれながら、それぞれ涙を飲んだ。この♯3の大園・犬飼も含めて、実力だけではどうにもならないところが、頑張っただけでは報われない部分が、麻雀にはある。
つい1ヶ月前は32人いたシンデレラも、気づけばあとたったの16人だ。毎週金曜日の夜に、136枚の牌の並びに一喜一憂する日々が、いよいよ折り返し地点を迎えている。
Day4結果レポート
#1,#2観戦記
その涙の名前【GroupD ♯1 担当記者・坪川義昭】
「オリる気全くなかったですね」トップを目指した強気の女神の結末は…!【シンデレラファイト シーズン3 GroupD #2 担当記者・神尾美智子】