『ここまできたら優勝しか意味がありません!日々の積み重ねを一発勝負で発揮する時がきた!今までこの大会にかけてきた気持ち、時間、努力、全てを無駄にしないためにも必ず結果を残します!』
そう笑顔でインタビューに答えるのが川上レイである。
シンデレラファイトシーズン3は遂に最終日を迎えた。泣いても笑っても残すは決勝の2戦のみである。
川上レイはベスト32、16、セミファイナルと全てのステージで初戦を3着で生き残り、次の二分の一を突破してきた。
どんなに追い詰められても、不思議と彼女は卓上で笑顔を絶やすことはなかった。
それは不安を消し去ろうとする必死な演技か、今までの努力から生まれる確固たる自信からくるものなのか————
決勝#1
東1局
みあが先制リーチを放つ。
せっかくのテンパイをヤミテンで1600点にするのが勿体無い。そこそこであれば、なるべく早く曲げておきたいところ。
どちらが入ってもオリることはないが、こっちが入るならば勢いはバッチリだ。
結果は見ずともわかるような捲り合いが開始となる。
まずは12000点。
決勝初戦の入り方としては最高である。
東2局4本場
鴨舞が役牌のを叩き、トイトイを仕上げた。一枚切れのは誰も止まろうはずがない。
しかし、川上レイは止まらない。
当然のリーチを当然のように選択できている。迷いは一切ない。
鴨舞が一発で打ち上げて、更に8000点の加点となった。
もう一撃さえ決めれば、雰囲気は川上レイのものになる。
東4局1本場
ところが、そう上手くいかないのが麻雀である。
親の鴨舞が6000オールのツモアガリを決めた。一撃で川上レイを抜き去りトップに躍り出た。
シンデレラへの道は長く険しい。
南1局
更にトップを決定付ける8000点を加点し、鴨舞が独走状態となる。
南4局
優勝する為にはどちらかでトップは必須だ。
ハネツモ以外で川上レイが手牌を倒すことはない。
だが、みあが最終戦に希望を残す為のリーチを放つ。
着順が落ちることはない川上レイがこの手で止める牌は存在せず、8000点の放銃で1戦目は終了となった。
トップ逆転とはならなかったものの、内容は抜群で焦りは見られない。
首位の鴨舞との差は65.0pである。
当然トップは絶対条件であるが、トップが取れればそれ程大きな差ではない。
川上レイはいつもの笑顔で最終戦の卓に着いた。
決勝#2
東1局
親の川上レイに勝負手が入った。
この待ち、この打点ならば文句がない。ヤミテンで直撃を狙うなんて考えずとも、シンプルにツモってトップになれば逆転である。
一発でツモった瞬間少しだけ優勝が頭の中を過ぎった。
そう。少しだけ。
東2局
4巡目にして満貫テンパイが入る。
一撃決めただけで優勝できる程、決勝戦は簡単じゃないことを川上レイはよく知っている。
初戦に手痛いラスを引いてしまった酒寄美咲がリーチと出た。
3者共トップが絶対条件である。
このテンパイが入って背中を向けていてはシンデレラにはなれない。
そんな覚悟を見せつけるような切りであった。
当然が止まることはなく12000点の放銃となったが、ここまでしっかりと打ち抜ける心の強さがあれば、きっと自身の手で優勝を掴み取ることができる。
勝負は振り出しに戻った。
東3局
みあの先制リーチに川上レイが追っかけた。
手牌もツモも優勝の後押しをしてくれているように躍動している。
安目ながらも一発で捉えて8000点。
川上レイが2回戦目の主導権を奪った。
東4局
更にヤミテンでハネマンを引き上がり、後半戦を迎える。
鴨舞に1回戦目のリードは残っておらず、川上レイが圧倒的有利となった。
南2局
このまま終わらすわけにいかないみあが意地の6000オールを決めるが二の矢は放てず。
南4局2本場
遂にオーラスを迎えて、川上レイの前にゴールテープが用意された。
あとは絵が揃いさえすれば優勝である。
流局を挟み、親が役牌のを叩く。
追い詰められた鴨舞は高くても安くても、早くても遠くても、前に出続けなくてはならない。
テンポの良い摸打を繰り返す川上レイが珍しく手を止める。
切りたい牌は一つなのだが、巡目との兼ね合いでかなり手牌の価値は下がってはきている。
ただ、鴨舞の仕掛けは高くてもおかしくはないし、安くてもおかしくはない。
決して焦ったわけでもない。
ロン————
静かな会場に響き渡る発声。
鴨舞が川上レイを捉えた。
はい————
そう返事をし、点棒を手元に置いた川上レイから初めて笑顔が消えた。
どんなに辛い展開でも窮地に追いやられても表情を崩さなかった彼女が初めて経験したプレッシャーかもしれない。
大量リードを失ったものの、未だ優位な立ち位置には変わりない。
絵さえ合えばそれで良い。
鴨舞が1000は1600オールを決めて2着に浮上した。
これによってオーラスを迎えた時のリードはなくなり、川上レイは条件を叩きつけられてしまった。
倍満をツモれるか。直撃ならば3900点。
チャンスは一局しかない。
川上レイにとって最後の選択が訪れた。
倍ツモを目指してを切るか、5200点の直撃を目指すか。
どちらを選んでも成功率は低い。
それでも奇跡を起こさなければシンデレラにはなれない。
を引く以外ヤミテンが効かない手ならば形式上リーチをするしかない。
勿論、鴨舞が放銃するような万が一は起こらないのだが。
を河に2枚並べていなければ、裏ドラにかけてツモ宣言ができたが二度手元に舞い降りる。
しかし、手牌を倒すことは許されない。
静かに三者が手牌を伏せて試合は終了した。
優勝した鴨舞がインタビューを受け、涙を流す。
その姿を観ながら、自分が優勝する勝ち筋は本当に無かったのだろうかと後悔や反省が頭の中を駆け巡る。
三代目シンデレラが何を語っていたのかは覚えていない。
その夜、川上レイがXを更新した。
『みんな本当にごめんね!申し訳ない、しか言葉が出てこない。』
自分の願いはファンの願いでもある。
情けない麻雀では決してなかった。この対局を観て、そう思う視聴者は皆無だろう。
来年、川上レイはXを更新する。
『みんなありがとう!』
それは彼女自身の願いであり、ファンの願いである。
切れなかったゴールテープはまだ、あの場に残っている。
Day8 Final 結果レポート
決勝戦 各選手視点観戦記
▼3代目シンデレラになるために〜鴨舞が箱下から積み上げた29200点〜 【8/23シンデレラファイト シーズン3 Final 鴨舞視点 担当記者・中島由矩】
▼川上レイから笑顔を奪った日 【8/23シンデレラファイト シーズン3 Final 川上レイ視点 担当記者・坪川義昭】
▼「悔し涙ではなく嬉し涙を流したい」みあが最後に流した涙は…【8/23シンデレラファイト シーズン3 Final みあ視点 担当記者・神尾美智子】
▼ラスるために勝ち上がったんじゃない、けれど〜酒寄美咲は人を愛し麻雀を愛す〜【8/23シンデレラファイト シーズン3 Final 酒寄美咲視点 担当記者・中島由矩】
公式HP