アグロ戦略と言えば聞こえは良いですが、言い替えれば「棒テン即リー」「出るポン見るチー」「バックに形テン」。「何故そのような打ち方で勝てるのか分からない」と言われたのも、麻雀初心者にありがちな、ただアガリたがりのタコ打ちにもよく似た打ち筋だったからでしょう。
正しく「高速低打点」の手順を踏めていれば有利にゲームを進められますが、正しい知識に基づかないアガリたがりの打ち方では、アガリやすくなってない鳴きや、かなり苦しい待ちを残したままテンパイが入ってしまうこともしばしば。これでは精々「中速低打点」がいいところ。これでは「低速高打点」の打ち手にとってはむしろカモの部類。アガリたがりばかりで先手を取られた時にうまく降りることが出来なければなおのこと餌食にされてしまいます。
「高打点」は、手役やドラという、ルールを覚える際に必ず身に付けることになる知識があればそれだけでも意識して狙えるようになりますが、「高速」については、どのような手組がアガリやすいのか、手変わりはどの程度待てるのかといった、ルールの範疇を超えた知識が必要になります。麻雀研究が進展して、手組の技術に加え、後手を引いた時に正しく降りる方法が体系化されたからこそ、「強いアグロ戦略」を取れる打ち手が増加し、結果を残せるようになったのではないでしょうか。
強いアグロ戦略が書かれた戦術書の走りと言えるのが2009年3月出版の『最強デジタル麻雀』。体系化された決定版と言えるのが2015年2月出版の『神速の麻雀』。この頃はまさに、ネット麻雀においてはアグロ戦略の隆盛期と言ってよいでしょう。私が「現代麻雀技術論」を記していた頃は異端に思われることも多かった戦術が、天鳳関連のコミュニティで当然の常識のように扱われているのを見て、時代の変化に驚かされたものです。
しかしそれ以降の戦術書は、それまでからすると打点寄り、ミッドレンジ指向のものが増えたように思います。拙著『勝つための現代麻雀技術論』も、サイト版の頃より意識的に打点指向の手組を多く取り上げ、自分自身もそのように打つことが増えました。本にサインを求められ時によく、『神速の麻雀」のキャッチフレーズ。「ファストフード麻雀」に対抗して、「ファストフードも美味くなければ生き残れない」と書いたものです(笑)
私がミッドレンジ戦略に切り替えるようになったのは、強豪の打牌選択から、打点重視の手組が有利な手牌自体は案外少なくないのではという、あくまで自分の手牌都合の問題でしたが、今思えば、その方がアグロ戦略に対して有利に立ち回りやすいというのもあったのかもしれません。天鳳のデータを見ても、一時期は37%程度あった天鳳鳳凰卓の平均フーロ率が、今では35%台に落ち着いています。他者の思考は分かりませんが、案外似たようなことを考えている人は多いのではと思ったことでした。
この傾向が続くなら、ミッドレンジからより高打点重視のコントロール型にシフトし、そこでまた再度アグロ戦略が有力になるという、TCGで言うところの、「メタゲーム」の変遷が起こると考えられますが、果たしてどうなりますか。こういった予想をするのも、個人的には麻雀の一つの楽しみ方と捉えています。