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何もかもが「最高位」クラス! 相川まりえのラストバトル【予選第2節Aブロック2卓】

何もかもが「最高位」クラス! 相川まりえのラストバトル【予選第2節Aブロック2卓】

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「負けちゃいました……」
対局を終えた相川は、控え室に戻ると共演者にそうこぼし、涙を流したという。

遡ること2ヵ月半前、「麻雀ウォッチ シンデレラリーグ2020」の開幕戦に挑んだ相川まりえは、目を覆いたくなるほどの苦難に見舞われた。4戦打って3着が1回、4着が3回。▲175.5ポイントという、あまりにも切ないシンデレラリーグデビュー戦だった。

シンデレラリーグの予選は全2節の8半荘。前回の対局では折り返し地点を過ぎたにすぎない。けれど、今置かれている状況がどれだけ絶望的かは、他ならぬ彼女自身が自覚していた。前半戦とは違い、後半戦では各々の選手に課された条件が出てくる。トータル最下位ゆえに前半2戦くらいまでは「他の選手に勝たれるよりは……」といった理由から、相川にトップが転がり込むケースもあるかもしれない。だがポイントが拮抗するにつれ、山越し、差し込みといった条件戦ならではの攻防も出てきやすく、他家からマークされた途端にトップ率は著しく低下する。ポイント状況から4連勝を目指したいところではあるが、その難易度は前半戦のそれとは比較にならないほど厳しいものなのだ。

「でも、再開まで期間が空いてくれたおかげで、吹っ切れて挑めたと思います。第1節の直後に最高位戦のリーグ戦があったんですけど、そこで4連勝をしまして(笑)。なので、麻雀への自信はすぐに復活しました」

相川はプロ歴3年目の、まだまだ若手に位置するプレイヤーだ。しかしながら、すでに東海地方きっての打ち手として頭角を現し始めている。昨年度は女流最高位決定戦に出場し、その存在をアピールした。今年度のシンデレラリーグ出場枠も、争奪戦を勝ち上がることでもぎ取っている。出場枠争奪戦では、条件クリアのためにチートイツのフリテンリーチをアガりきるという、衝撃的な逆転劇を演じた。

加えて、この端正なルックスである。自身を「自撮り最高位」と呼び、気付けばそれがキャッチフレーズにもなってしまったが、どこからどう見ても他撮りでも最高位クラスである。

この日は新型コロナウイルス感染拡大防止の措置としてマスク着用の上での対局だったため、そのご尊顔の全てを見ることは叶わなかった。なので、せめてここで相川の自撮り特集を掲載しておこうと思う。

断っておくが、これらの自撮りは相川から送っていただいたものであり、決して筆者がニヤニヤしながら彼女のSNSを漁ってコレクションしたわけではない。本当である。本当で、ある。

さて、この調子だと僕の言い分だけで予定の文量を大幅にオーバーしてしまいかねないので、話を本筋に戻そう。

ブロック5位までに入ればプレーオフ進出の権利が得られるシステムなのだが、この日の同卓者の組み合わせもまた、相川にとって厳しい材料だった。塚田と柚花は自身と同じくボーダー下の順位だし、都美ははるか彼方の天上人。自身がどれだけ勝とうとボーダーは下がらないので、中山との162.1ポイント差を4半荘でまくらなければならない。

トップになればウマオカ合わせて40ポイントと素点分のプラスが入るため、4連勝ならば、ほぼ条件クリアだ。仮に初戦が2着ならば40000点程度のトップを3回、3着スタートならばさらに大きなトップを3回と、条件戦はそうやって目標を修正しつつ戦い続ける必要が出てくる。かくして相川が3戦を打ち終えた結果――

トップを1回取れたものの、3着を2回引いてしまう。戦前から縮まった中山との差は、およそ20ポイント程度。だが3戦で20ポイントを縮めただけでは、圧倒的に足りないのだ。最終戦で課されたおよそ130000点を越える特大のトップという条件は、端的に言って「目無し」と呼んでも差し支えないレベルだと思う。相川が所属する最高位戦日本プロ麻雀協会には、リーグ戦で167000点のトップを打ち立てた新井啓文、10連続アガリという偉業を成し遂げた醍醐大がいるが、当然ながら彼らだってそんな離れ業を頻繁にできるわけがない。ましてやシンデレラリーグはアガリ連荘である。そんな絶望の渦中に身を投じなければならない相川の心中を察すると、つい心が痛んでしまう。

「最終戦は北家(ラス親)なので、とにかく打点を作ってリーチするしかない。そう思っていました」

ラス親であれば、相川が本当の意味で目無しになることはない。それがせめてもの望みかと思っていたが――

その展開は、序盤から激動の連続だった。まずは柚花が3000-6000の強烈な先制パンチを浴びせる。塚田を3着以下に沈め、50000点トップならば柚花は予選通過を果たせる。この一撃で、その条件は一気に現実的なものとなった。

だが、塚田も負けてはいない。次局に3000-6000をツモり返し、柚花に親かぶりをさせる。一気に劣勢をひっくり返した。このアガリは、柚花と同じく塚田を3着以下に沈めたい相川にとっても痛恨だった。

さらに次局、今度は塚田が4000オールを和了。正直、決定打と呼んでも差し支えないレベルのアガリだ。塚田が大きく抜け出すことに成功し、都美と80000点差のトップラスをつけて首位通過という目標まで見えてきたのだ。激しいアガリが起こるたびに、状況がめまぐるしく変化していく。

塚田の快進撃に待ったをかけたのは、またしても柚花だった。ドラ3の手を見事にツモり上げ、2100-4100で塚田に親かぶりをさせることにも成功した。この時、相川も果敢にリーチをかけていたのだが、それはむなしく空を切った。

まだ相川への試練は続くのかと嘆いてしまいそうな展開だが、これでようやく親番が巡って来る。奇跡を起こすために欠かせない、大事な親番が。

まずはリーチ赤の4800を、柚花のリーチ宣言牌を捉えることで成就させる。打点は十分ではなかったかもしれないが、貴重なチャンスを継続できたことが大きい。そして――

シンデレラリーグが始まってからというものの、つねに不運続きだった相川のもとへ、ようやく大きな好機が訪れた。配牌で赤が3枚あり、手形も十分整っている。

テンパイには、わずか3巡でたどり着いた。を切れば、のシャンポンでリーチがかけられる。

はともかく、なら十分に出アガリも見込めそうだ。これで、少しは報われるかもしれない。そんなことを頭に浮かべながら、相川の動向を見守る。彼女は少し間を置いて――

テンパイを崩した。いわゆる局収支だけを考えるならば、即リーの価値が高そうな手だ。だが、もう一度考えてみてほしい。相川は130000点が欲しいのだ。塚田から直撃して順位を落とせるならまだしも、柚花や都美から12000をアガったところで、劇的な状況改善にはならない。それならば好形の待ちに仕上げ、ツモベースで6000オール以上を目指す方が勝利期待値は高いという判断だ。

「絶対にアガりたい手だけど、自分に赤牌が3枚固まっているから、前に出てくる人も少ない。シャンポンリーチだと残り枚数が少ないし、はこぼれるかもしれないけど、なんて出てこない。だから、ツモれる待ちにしたいなと思いました」

相川の言い分は最もだ。とはいえ、どれだけの人がこの判断をできるのだろう? テンパイを崩し、もしもアガりきることができなければ、激しく非難されてしまうのではないか。僕ならば、そんなことを考えて消極的にリーチ選択をしてしまうかもしれない。けれど、相川は違う。これは超攻撃的なテンパイ外し。彼女は失敗を恐れず、奇跡を信じたからこそ――

このを引き入れた!

鳥肌が立った。この状況を誰よりも苦しいと思っているはずの相川が、まだプロ3年目の彼女が、決して勝負を諦めていないのだ。僕のような外野が、「絶望的」などという言葉を並べたてたことを恥じるとともに――

拍手を送りたくて、たまらなくなった。完璧な手順を踏んだご褒美と言わんばかりに裏ドラも2枚乗せて、あまりにも鮮やかな8000オールを成就させた。いまだ奇跡を成就させるまでの道のりは遠い。それでも、これはあまりに大きな意味を持つ一歩だった。

その後、相川はじわじわと点棒を増やし――

オーラスでは45000点持ちのトップ目という状況。なお箱下になっている都美だが、じつは放銃を一度も許していない。この半荘どころか予選を通じ、ただの一度もである。そんな彼女が大きく失点している現状が、この戦いの激しさを存分に物語っている。

相川が条件をクリアするまで、あと90000点あまり。この親番一回で90000点を得るのは、やはり簡単なことではない。だからこそ、彼女は――

塚田が切ったを、一切の躊躇なくスルーした。もはや、2900クラスの手を延々とアガっているだけでは焼け石に水だ。たとえば都美に軽い手が1回でも入ってしまえば、それでゲームセットなのである。門前ベースで好形・高打点をツモり続ける。戦前に立てたプランを愚直に全うしようとしていた。

だが、なかなかテンパイには至らない。巡目は3段目に差し掛かるところ。塚田としては、流局で勝ち上がりという絵図も描いていそうな局面だ。のトイツ落としを完遂させ、あとはなんとか降り切ろうといったところか。ちなみに、このだが――

相川がチーテンを取れる牌だ。だが、彼女は鳴かない! が1枚切れで、このに至っては4枚目である。繰り返しになるが、アガ連ルールだ。残り5回のツモ番でアガりきらなければ、その命運は尽きてしまう。にも関わらず、彼女は我慢を選択した。

それは狂気か、執念か。無謀と笑う者もいるのだろうか? 僕は思う。さすがに、さすがに――

カッコ良すぎないかと! を引き入れ、タンピン・赤ドラのペン待ちテンパイ。相川目線、現状5位の塚田はトータル順位アップのため、7位の柚花も条件が満たされれば前に出る可能性はある。出アガリ時の打点は変わらないため、イーペーコーを崩してまで少しでも目立たない切りでヤミテンとした。だが、山にはたった1枚しか当たり牌が残されていない――。

時に、タイトル戦の終盤ともなると、条件を満たすために狂気とも無謀とも呼べるような打牌に遭遇することがある。もちろん、それは僕のような凡人視点の感想であり、実際には理に適っていることばかりなのだけれど、そんな選択が数々の名場面・名勝負を生みだしていることは間違いないと思う。事実、多くのタイトルホルダーには、修羅場をくぐり抜けてきた人ならではの風格がある。この日、この瞬間の相川に――

その片鱗を垣間見たのは僕だけではなかったはずだ。道中で2枚目のドラを引き入れ、をツモって6100オールを加点! 深い闇の中にいた相川に、ようやく光明が差した気がした。

次局、相川は7巡目にドラ1のリーチをかける。思えば、ここまでこんなにサクサクと手が進んだことなど、ほとんどなかった。こんな手が、あと少しでも予選全体で散見していたならば、もっと楽に戦えていたのだろうか。そんな野暮なことを考えている僕とは裏腹に、相川は一心不乱にアガリを見据えている。残り枚数は6枚。ポイント状況的にも、ほぼ間違いなく相川の一人旅となりそうだ。だが――

これがアガれない。全然アガれない! 残り巡目もわずかなのに、この時点で山に5枚いるはずのが、一向に姿を現さない。まさか王牌に……、なんていう考えが頭をよぎり始める中で――

ようやく執念が実を結んだ。裏も1枚乗せて4200オールのアガリ。残り60000点。もちろん簡単ではないが、今の相川ならあるいは、などという希望を抱かずにはいられない。

オーラス三本場の12巡目、またしても相川にテンパイが入った。現状はタンヤオ・赤1では2枚見え。ソーズへの待ち変えや345の変化の可能性はあるが――

相川は探る。ゆっくりと、自身の運命を託すに値する一打を――

ここはリーチを選択! が3枚、が2枚見えており、ソーズの変化に期待するのは難しい。一方で、は十分に山に眠っていそうだ。実際、2枚残っている。もう、彼女に真っ向勝負を挑む者はいない。すでに条件を満たしている都美と塚田は流局を待つだけだし、ダブル役満条件となった柚花は、その可能性がある手が訪れるまで耐え忍ぶだけだ。だからこそ相川は、ツモる以外に生き残る術はない。局は進み――

瞬く間に最後のツモ番。その手に握られていたのは――

相川の敗退を告げるだった。のうち1枚は脇に流れ、残る1枚は王牌の中だった――。

「今日はいっぱいアガれて楽しかったし、第1節は本当に悔しい負け方だったんですけど、あれのおかげで私のことを知ってくれる人が増えたので。だから、トータルでちょっとプラスかなって思います(笑)」

対局を終えた相川に話を聞いて、思い浮かんだのは前節の対局後の様子だった。あの日、たしかに相川は涙を流しはしたけれど、その表情は笑顔だった。暗澹たる様子でその場にいる人に気を遣わせないように、心の堤防決壊ぎりぎりまで悔しさを噛み殺そうとしていたのだと思う。

敗退が告げられたこの日だって、悔しくなかったはずがない。相川が無念をおくびにも出さなかったのは、彼女なりの意地であり、矜持なのだろう。 雀士が無念を晴らす場は、どこなのか? 相川は、それをよく知っている。胆力しかり、野心しかり。やはり彼女が最高位クラスなのは、自撮りだけじゃない。

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この記事のライター

新井等(スリアロ九号機)
麻雀スリアロチャンネルの中の人。
ナンバリングは九号機。
スリアロでのポジションをラーメンに例えると、味玉くらい。
お酒があれば、だいたい機嫌が良い人です。

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