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「他のチームも応援したい」と言われた監督の反応は?
ドリブンズ広報といえば、これまで鈴木聡一郎という名前を公表してこなかったのが印象的だった。それにはどのような背景があったのだろうか。
鈴木「これは、ぼくのわがままでした。Mリーグのドラフト会議が終わったとき、応援するならパイレーツだなって思った。やっぱりぼくも天鳳プレイヤーの端くれだし、ネット麻雀代表の人がMリーグで勝つってすごく夢がある話だと思ったので。だから、監督にも“個人としてはパイレーツも応援させてもらいます”と伝えました。もちろんパイレーツだけじゃなくて他のチームもフラットに応援したくなると思いましたしね。その辺はみなさんと同じ1人の麻雀ファンなんだと思います」
確かにこれはわがままと言っていいかもしれない。今から広報に就任しようとしているチームの監督を前に、「他のチームも応援したい」とは破天荒だ。
鈴木「図々しいにもほどがあるお願いですよね。でも、監督の心は海のように広かった(笑) 監督から言われたのは“同じようにドリブンズを応援してくれるなら全く問題ない”ということと、“今後もし公式ライター的なポストができたときなど、そういう仕事を並行して受けることを邪魔する気はない”ということでした」
鈴木さんの気持ちと立場を考慮した非常にありがたい理解ではないだろうか。そして、それを踏まえると、監督の提案は1つしかないように思われる。
鈴木「そう、“名前を出さずに広報活動をした方が聡ちゃんにとって得なのではないか?”です。そういう風に監督から提案いただきました。あと、Twitterの中の人って、誰がやっているのかわからない不思議な感じがあった方がぼくは好きで、そういうのもあってありがたく提案を受けました」
ところが今回、赤坂ドリブンズの中の人として取材を受けていただいた。そのきっかけのような出来事でもあったのだろうか。
みんなでドリブンズ。だから名前を出してほしい
鈴木「2つありますね。1つは、ドリブンズ広報としてレギュラーシーズンをやってみて、当たり前なんですけど、“やっぱりドリブンズしか応援できないわ”って思ったこと。ドリブンズって、そもそもMリーガーの中でもぼくが思い入れの深い3人だった。たろさん(鈴木たろう)は一緒に本も作ってるし、村上さん(村上淳)はぼくが最高位戦を受けたときの面接官で入会後も面倒見てくれて、賢ちゃんとはよく飲んでる(笑) 麻雀観もよく理解しているそんな3人と同じ空間で麻雀を観て麻雀の話をしていたら、もうドリブンズしか応援できなくなりますよね、そりゃ。複数のチームを全力応援できるほど器用な人間ではなかった」
観戦のプロも人の子。やはり根っこは私たちと同じ麻雀ファンであり、人間なのだなと感じる。
鈴木「同じだと思いますね。たぶん、みなさんが応援するチームで迷ったり決めたりするのと同じような感覚です。で、もう1つの理由は、レギュラーシーズンが終わってから賢ちゃんと飲んでたときなんですけど・・・」
デジャヴだろうか。園田選手と飲みにいかなければ動けないルールでもあるかのようだ。
鈴木「ぼくの保護者か何かなんですかね(笑) でも、冗談はさておき、賢ちゃんはまっすぐに意見を言ってくれるので、何かのきっかけになったりすることは多いかもしれませんね。たろさん、村上さんも、まっすぐ意見を言ってくれるのは間違いないんですが、やっぱり賢ちゃんの方が歳が近い分メッセージが届きやすいとかはあるのかもしれませんね。この前、賢ちゃんに言われたんですよ。“おれは選手3人でドリブンズっていうわけじゃないと思ってる。監督も、阿部君(ドリブンズ記者・阿部柊太朗さん)も、聡ちゃんも、スタッフのみなさんも、みんな合わせてドリブンズなんだよね。だから、阿部君と同じように聡ちゃんにも名前出してほしいと思ってるよ”って」
選手が、支えてくれるスタッフのことをチームメンバーだと言う。選手が、スタッフのことをもっと知ってほしいし、評価されてほしいと願う。これがチームスポーツだということなのだろう。
鈴木「今まで気を使わせちゃってすまなかったなと思いました。たろさんも村上さんも、他チームの選手だって、自分のチームのスタッフに対して同じような気持ちを当然持っていると思うんですけど、ここまでまっすぐに言ってくれる人ってなかなかいないですからね。この言葉で、自他ともに完全に“ドリブンズの中の人”になったと思った。だから、ぼくは今回、ちゃんと名前を出すことにした。それで少しでも選手がやりやすくなって、少しでもドリブンズを知ってもらえる機会が増えるなら、喜んでそうさせてもらう覚悟が決まった。そんなときにいただいた今回のインタビューについて、監督に相談したらぜひ、と。それが、今回名前を公表した経緯なんです」
鈴木さんと園田選手のケースでは同じ最高位戦所属選手で友人という特殊な関係性があるため、実際に選手からここまでまっすぐに気持ちを伝えられるスタッフは珍しいかもしれない。しかし、おそらく選手はみな同じような感謝にも似た気持ちを抱いているのだろう。その気持ちは、今までの麻雀には存在しえなかったものだ。この話を聞いて、チームの内側から、チームスポーツとしての麻雀を改めて感じることができた。
画像が取れないし、140字で収まらない。さてどうするか?
では実際にドリブンズの広報をやってみて、大変だったり、苦労したりしているところはあるのだろうか。
鈴木「なんといってもTwitterの解説。あれは難しい」
Tweets by AkasakaDrivens
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赤坂ドリブンズ公式Twitterでは、試合中に選手の打牌意図を解説している。あまりにリアルタイムで正確に選手の意図を解説しているため、驚かれた方も多いだろう。この企画はどのように生まれたのだろうか。
鈴木「開幕日、早めにクラブハウスに行った。試合中に何をやるか監督と相談しようと思って。広報就任から本当に日数がなかったですからね。とにかく手探りでした。そこで監督に言われたのは、“とにかく選手の思考をつぶやき続けてみてほしい”。そのときは“了解です!”と軽く受けた。麻雀番組の実況も解説もかなり経験させてもらってきたし、それを文章にする観戦記者も10年以上やってきたわけなので、いつもと何も変わらないと思ってしまったんです」
つまり、開幕日の解説ツイートが鈴木さんとしても初めての試みで、ぶっつけ本番だったわけである。
鈴木「でも、やってみるとこれが難しかった。実況解説で普段言っていることを即座に文章にするだけなのにこんなに難しいのかと。最初の30秒ぐらいで、“監督・・・これ無理だわ”って音を上げようかと思った」
そんな過去最高難度の仕事に、鈴木さんはどのように着手していったのだろうか。
鈴木「まず、PC上でキャプチャして、それについて解説していくんだろうなと、漠然と思っていた。でも、“今の1打はすごい!”って思ったときにはその場面が終わっているのが麻雀放送なんですよ、当然ですが。なので、PC・スマホの2画面で流し、微妙な通信時間の差を利用してキャプチャすることを思いつきました。ただ、それだと時間差が数秒しかなくて取捨選択が間に合わない。どうしようか考えていたら放送が始まってしまった。そこでクラブハウスのモニターを見ると、WEB上の放送より数十秒早いことに気づいた。“これだ!”と光が差した瞬間でした」
※鈴木さんが説明のために書いてくれた絵
おそらく会場のモニターはオフラインで直接つながれているため、WEB上の放送より少し早い。会場のモニターで解説対象の打牌を先に見つけると、PC(WEB)上でその局面が来るのを待ってキャプチャする、という今にも混乱しそうなことをやり続けているそうだ。
鈴木「これでなんとか画像は手に入った。画像さえあれば、あとは普段の解説で言っていることを文章にするだけなので楽勝だなと思っていた。しかし、大きな壁が2つ立ちはだかる。1つは修正できないこと。解説って、話しながらだんだん選手の思考に近づいていくようなところがあるんですよ。例えば、“こういう局面だからこういう要素を優先したのかな?(次巡を見て)あっ、でもそうじゃなかったみたい。じゃー・・・”のような感じ。ぼくは解説って、論理の構築と修正によって成り立っていると思っている。仮説立案と検証の繰り返しにも近いかもしれません。だけど、当然ながらTwitterではツイートを編集できない。つまり、修正が利かないわけです」
今まで何気なく聞いていた麻雀番組の解説だが、言われてみれば、修正というアクションは頻繁に行われているように思われる。それができないなら大変だ。鈴木さんはどう対処したのだろうか。
鈴木「そこを話す前に、先に大きな壁のもう1つを言いますね。140字制限です。ツイートって140字以内じゃないですか。これも麻雀の解説に向かない。麻雀って用語も長いし、考慮すべき要素が多すぎるので、140字で収めるのって無理があるんです。修正不可と140字制限、この2つを打ち破るためにぼくが取った行動は1つだけ。ただただ、“割り切る”でした(笑) いくつかは間違っていても仕方ないし、考慮漏れがあっても仕方ない、と」
鈴木さんはこのようにさらっと「割り切る」と言うが、麻雀の記事を書けば書くほど、割り切ることの難しさに気づかされる。自然と様々な要素が見えてしまうし、自分の間違いにも後で自分で気づくようになるからだ。そのため、修正や補足をしなければ気が済まないような気持ちになってくるのである。
鈴木「わかります、ぼくもそうでした。そう考えると、Mリーグだからこそ割り切りやすかったのかもしれない。何しろ相手は最高峰のお墨付きをもらった人たちで、その人たちの思考が瞬時に全部わかったら、それこそぼくがMリーガーですからね(笑) ある程度はわからなくて当然。だから、あくまで、“ぼくはみなさんにドリブンズの打牌について考えるきっかけを提供しているんだ”と割り切り、情報を削ぎ落してある程度断定的に伝えることにした。その代わり、自信のなかったところは試合後に選手に聞いて、しっかり思考をフォローすることで修正・補足することにしました」
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