第1回、第2回はこちら
前回に引き続き、赤坂ドリブンズ広報の鈴木聡一郎さんに話を聞いている。今回がついに最終回となった。
凱旋動画は修正・補足するための最初のツールだった
前回、解説ツイートがある程度間違っていても仕方ないと割り切っていて、その代わりに試合後のフォローをしていくことにした、と語っていた鈴木さん。では、その修正・補足というフォローについて、実際にどのような形で行っているのだろうか。
鈴木「実は、そういう意図で生まれたのが、ドリブンズがトップを取ったときに流している“凱旋動画”なんですよ。今でこそ、おじさんたちが抱き合っている動画になりましたが(笑)、実は開幕戦直後の動画は、賢ちゃんが1人で対局を振り返っている動画なんですよ。開幕戦後に、賢ちゃんが帰ってきてメンバーや監督と感想戦を始めたので、ぼくの判断で即座に撮り始めた。直感的に“これこそ求めていた修正と補足のコンテンツだ!”と思ったので。実はこれが今ドリブンズの“おっさんずラブ動画”と言われるものの始まりなんです」
ドリブンズは、トップを取った直後に選手を迎え入れる凱旋動画をツイートしてくれているが、そこにこのような裏話があったとは驚きである。
鈴木「あとは、『1分でわかるドリブンズの思考』もそうですし、阿部君の『ドリブンズマッチレポート』も修正・補足をしてくれるコンテンツの1つ。最近では、選手の思考と違ったツイートについては引用リツイートですぐに選手コメントを紹介することにもしています。最後に、他力にはなりますが、松本圭世さんがメインでやっていただいている試合後のインタビューや、様々なメディアのインタビューや観戦記なども、修正と補足のコンテンツとしてはありがたいですね」
自チームの阿部さんのみならず、松本さんやメディアをも信頼しているからこそ割り切ってツイートできる。そのような麻雀業界全体への信頼感が、鈴木さんのTwitter解説を支えているのかもしれない。
鈴木「この仕事、本当に難しくて、ぼくのキャリアにおけるいったんの終着点なんじゃないかと思っています。麻雀の記事を10年以上書いてきた。番組で実況も解説もやってきた。選手として雀力を磨いてきた。選手のことも知ってきた。この全てが揃わないとできなかった仕事だと思うので。だから、たまにTwitterを担当してもらってる阿部君がいきなりできちゃったときには、本当にたまげましたね。ぼくは、阿部君って、ドリブンズが選手以外で抱えているもう1人の天才なんじゃないかと思ってます」
阿部君とは日本で2人しか使わない技術をLINEしている
いま話に挙がった阿部さんは、シーズン途中からドリブンズの記者となった。そこには、どのようないきさつがあったのだろうか。
鈴木「ドリブンズの記者になる前、阿部君がブログに書いていたMリーグの観戦記が素晴らしくて、監督に“彼はすごい。日本一の記者になれると思う”なんて話していた。監督もスポーツ記事とか好きなので、良いよねって言っていて。そこで突然“彼、ウチと契約してくれないかな?”と言い始めたんです」
監督がそのように語った意図はどのようなものだったのだろうか。
鈴木「監督が言うには“素晴らしい記事だからこそ、他のスポーツと同様に取材機会を与えて昇華させてあげたいな”と。完全に同意でした。ぼくもどちらかというと取材で記事を作ってきたタイプなので、取材の仕方などは教えられると思いましたし。で、監督からは“どうするかは聡一郎に任せる”と言ってもらったので、基本的に“観戦記は阿部君”という役割分担にしました」
おそらく日本で最も麻雀の観戦記を書いてきた鈴木さん。その観戦記の鬼があっさり観戦記を譲ったのが、なんと23歳の若者だったことには驚いた。
鈴木「ぼく自身は、ドリブンズでは観戦記以外でできることをなるべくやっていきたかったので、安心して観戦記を任せられる書き手が見つかって、よかったと思いました。その後、阿部君の提案で、観戦記ではなく『マッチレポート』として世に出ることになりました。マッチレポートの方がスポーツっぽいでしょ、と。そういうところもセンスあるなと思いますね」
こうして、シーズン途中から阿部さんがドリブンズの記者として加わることになった。阿部さんとは、普段どんなやりとりをしているのだろうか。
鈴木「ぼくが身に着けた技術、習ったことは全部阿部君に伝えたいと思っている。なので、まずは記事の添削を通してそれを伝えてますね。あと、阿部君もTwitterを担当することがあるので、解説ツイートするときにやっている工夫などを教えあったりしていますね、LINEで。おそらく日本で2人しか使わない技術ですけど(笑)」
そういえば、鈴木さんは2年前のインタビューでも言っていた。
とにかく、バトンを受けてくれる次世代を育成したい。そのために自分が知っていることは何でも伝えたい。鈴木さんにとって、ついにそれを実践できる大きなチャンスがやってきたのだと、こちらもうれしくなった。
阿部さんと越山監督が語る鈴木さんの評価とは?
記者として鈴木さんと一緒に広報活動をする阿部さん。その阿部さんからは、ドリブンズ広報・鈴木聡一郎はどのように映っているのだろうか。
阿部「聡一郎さんは、選手と視聴者のリンクマンとしての役割を担っています。赤坂ドリブンズというクラブにあっては、非常に重要なポジションです。なぜなら、麻雀の正しいゲーム性を普及していくためにも、選手の意図や目的を視聴者に伝えていかなければならないからです。聡一郎さんと同レベルでこの仕事をこなすことのできる人は、麻雀界広しといえど片手でこと足りるほどしかいないんじゃないでしょうか。お会いした当初はスマートで紳士的な方だと思っていましたが、実際はただの賢いおじさんでした。このチームにはどこに行っても賢いおじさんしかいませんね」
選択と抽選から構成される麻雀のゲーム性。とにかくその選択を突き詰めようというドリブンズにとって、選手の思考を伝えるポジションの重要性は確かに計り知れない。
では、最後に、鈴木さんをチームに引き入れることを決断した張本人・越山監督はどのような評価をしているのか聞いてみたい。
越山「聡一郎の解説は、予測力によるものが大きいと思う。きっとこうするだろうな、という仮説があって、その通りだったりそうではなかったりするんだけど、そこの質が高く柔軟性に富むから瞬時にアウトプットできるのだと思う。Mリーグでは多井さんの解説が素晴らしく今や名物になっているけど、ある意味その対極にあるシンプルで素朴な解説は文字コンテンツとしてとても優れていると客観的に思います」
Mリーグ名物ともなっているアベマズ多井隆晴選手の解説、その対極にあるのが実は鈴木さんの文字解説なのではないか、と言う。面白い見立てではないだろうか。
ドリブンズは高級チョコの詰め合わせ
最後に、ファイナルシリーズに向けて、ドリブンズの見所を広報として語ってもらった。
鈴木「ドリブンズは、とにかくシビアに期待値を稼いでいくチーム。その信念はチーム内で完全に共有されているのに、期待値を稼ぐ際のバランスの取り方が3人とも違うのが非常に魅力的だと思う。例えば、当人同士も麻雀観がすごく近いと言う賢ちゃんとたろさんですが、賢ちゃんは6ブロックに構えて選択を先延ばしすることがあるのに対し、たろさんは今5ブロックに構えて後で少しでも広いイーシャンテンになるようにすることが多い。あと、着順志向も、とにかくトップを諦めないたろさんと、それよりは少し堅実に着順をまとめにいくのが賢ちゃんだったり。なので、“もし園田の席にたろうが座っていたら?村上が座っていたら?”と考えると、1回戦で3人分、つまりは3倍楽しめると思いますね」
タイプ的に園田・たろうvs村上という構図で語られることの多いドリブンズだが、確かに園田選手とたろう選手も微妙に異なる傾向があると思うことがある。そういった違いを探すのも、ドリブンズを観戦する際の面白さということなのだろう。
鈴木「ですね!ドリブンズを観戦するプロが言うんだから間違いないです(笑) たろさんと賢ちゃんの違いを見つけたらマニアですね!まずは着順意識とターツ選択に注目してみるのがおすすめです。あと、やっぱり極端に違いが出るのが村上さん。他の2人とはバランスの取り方が根本的に違う。園田・たろうが“加点できなさそうなときでもなんとかしてやろう”という気質が強いのに対し、村上さんは“じっと我慢して一撃の機会を待つ”イメージ。ぼくは、パイレーツの小林剛選手が実は村上さんと近いと思っているんですよ。意外じゃないですか?」
仕掛け屋小林と門前派村上が似ている?今までに考えたことのない見立てに驚きを隠せない。一体どのような見解なのだろうか。
鈴木「2人とも、とにかく“待つ”タイプだと思うんですよ。待つことの比重が大きいタイプ。小林選手は、仕掛けて決め手のリーチ手牌が入るのを待つのに対し、村上さんは門前のまま決め手のリーチ手牌が入るのを待つ。根本の考え方はかなり似ていると思います。園田・たろうのように“ダメそうな手牌をなんとかしてやる!”っていう感じではない。違いは、仕掛けて少しずつ加点を狙う小林派か、門前のまま決め手になる確率を少しでも上げる村上派か、というだけ。他の要素では当然色んな違いがありますが、大きなバランスの取り方という意味では似てるなと思うことがありますね」
なるほど。この辺りは観戦者・鈴木聡一郎としての独特な視点に映る。
鈴木「ということで、ドリブンズは、個性の違う3人の詰め合わせ。最高級の、ビターチョコ、ミルクチョコ、ホワイトチョコのようなチーム。お察しの通り村上さんがホワイトです、1人だけカカオゼロで大人しめ(笑) その個性豊かな3人の違いを味わっていただけると、ドリブンズの観戦がより楽しくなると思います。ぼくもそういった違いを伝えていけるように、ファイナルシリーズでもがんばります!」
今でこそ、各チームの記者やスタッフに麻雀プロが配置され始めているMリーグ。鈴木さんはその先頭に立ってチームに入り込んだうちの1人だろう。私たち麻雀ファンは、観戦のプロ・鈴木聡一郎の目を借りて、ドリブンズの麻雀をより一層おいしく味わうことができるのかもしれない。
赤坂ドリブンズが、“チーム”一丸となってファイナルシリーズに臨む。