日本プロ麻雀協会所属、「弾丸娘」蔵美里。雀王戦Aリーグでしのぎを削った経験もある実力者で、麻雀ウォッチ プリンセスリーグ出場選手の中でも屈指の門前派だ。
とにかく勉強熱心な人だと思う。2017年には、朝倉ゆかり、大平亜季、水瀬千尋、安達瑠理華といった実力者たちとともに勉強会を兼ねたリーグ戦「珠玉戦」に出場。全員プリンセスリーグ出場経験者というそうそうたる顔ぶれの中で、見事に優勝を収めた実績も光る。だが珠玉戦で快勝を飾った折にも、反省やシミュレーションを欠かさない。竹を割ったような性格だけれど、そのじつ繊細な一面も併せ持つプレイヤーという印象だ。
第1節を打ち終えた時点で、蔵は▲64.8ポイントの6位。マイナススタートとなったものの、第1節は卓内3位だった。たった1節で212.7ポイントを叩き出した逢川の前に辛酸を舐めた格好だが、その結果として2位以下のボーダーが著しく下がっている。第2節の同卓者には暫定2位の小宮と暫定3位の大澤がいるとあって、大きくポイントを伸ばしたいところだ。
反逆の意志を弾倉に込め、弾丸娘が第2節に挑んだ――。1回戦は東家となった蔵。東1局は蔵の一人テンパイとなり、アガリ連荘ルールのため東2局1本場へ。親番の小宮に、2メンツが完成している好配牌が訪れた。蔵と同じくポイントを伸ばしたい佐月がメンピン赤ドラのリーチをかけたが――小宮も高め三色のリーチで追いかける! は宣言牌で、ヤミテンでも満貫になるは通ったばかり。ヤミテンにする選択肢もあったが――このリーチが6100オールを生む! を一発でツモり、大きく加点した。そんな小宮を追いかける蔵。大澤からイッツーのみ、2600は3200をアガって差を詰める。そして東4局1本場、蔵にドラのがトイツ、赤が1枚の好配牌が訪れた。これが首尾よく進み――ヤミテンを入れる。単騎から単騎へと変え――小宮から直撃!・ドラ3・赤、8000は8300のアガリ。供託1本をプラスして、小宮との差をわずか600点にまで詰めた。その後は蔵がテンパイ料を稼ぎ、トップ目でオーラスを迎えることとなった。ドラは。赤が2枚あって456の三色まで見えるような配牌の蔵だが、小宮との点差は5400点。一刻も早くアガリたい局面だが、やや仕上がるまで時間がかかりそう。その小宮は――3巡目にして1シャンテン! ソーズは4連形で、ドラをもう1枚持ってきた場合に使いきれる。5400点の条件クリアを考えると、打牌選択が悩ましいところだが――切りでシャンテン数をキープ。佐月と大澤がピンズの下目を切っていることから、の感触が良いことも理由の一つとなっていそうだ。引きで567、引きで678の三色の可能性が残るため、十分に条件クリアが見える。そして、この形は――全ての赤引きに対応できる! タンピン・赤・ドラの手を必然のヤミテンとし――あっさりとをツモ! 目前まで迫っていた蔵のトップは、手からこぼれていった……。「初戦は、とにかくツイていました。プリンセスリーグであんなに赤が来たのは初めてなんじゃないかなっていうレベルで(笑)。オーラスは、むしろ打たなくて良かったくらい」
反省はしても後悔はしない。弾丸娘は、あくまでまっすぐに次の戦いに挑む――。そんな思いとは裏腹に、2回戦は、蔵にとって厳しい展開が続いた。小宮からのリーチを受けて満貫、さらには跳満まで見える1シャンテンだ。安牌がしかなく、迂回できそうなルートもない。浮き牌のとのうちを選択したが――これが小宮に刺さってしまう。リーチ・・ドラ3。手痛い8300の失点を喫した。東4局には佐月がカン待ちのドラ1リーチ。ツモって裏1という非常に効率の良い満貫を成就させ、2着目に浮上した。南2局、初戦ラスという苦しいスタートを切った大澤の親番。ドラのが重なり――配牌からカンツだったをカン! くっつき候補が3枚ある2シャンテンだが、現状どれも甲乙つけがたい。故にカンをした結果の新ドラは――!! 一気に場の緊張が増すのを感じた。大澤がアガれば三つ巴のトップ争いとなることは必至。これを見て動いたのが佐月だった。の形からをチー。テンパイまではまだ遠いものの、堤防決壊ギリギリまで戦う姿勢を見せる。そして大澤がテンパイ! イーペーコー・ドラ6・赤1、24000点確定の凶悪すぎるヤミテンを入れる。一方、小宮もテンパイ。現状は役なしだが――を引いてタンヤオがついた。大澤の勝負手をかわし切れる可能性が、少し現実的になった。一方、蔵はここからをツモ切って撤退模様。自身がドラ2でラス目ということであれば、なんとか加点を試みたい。だが、ドラ4以上が確定している親と、それに押し返している小宮がいるとなると、愚形残りの1シャンテンになっても分が悪すぎる。現物以外にも通りそうな牌があるため、ここは歯を食いしばって1シャンテン取らずとした。そして小宮のもとへ大澤の当たり牌であるがやって来た。は自身が8巡目に切った牌だ。その後の大澤の手出しはのみ。仮に大澤がタンヤオに移行していた場合、声をかけていたとしてもおかしくなかったということも加味すると、無スジの中でも比較的安全度が高い牌ではあるが――ここはスジの切りで待ち変え。自身からが3枚見えていることもありシャンポンには当たらない。より安全度の高い選択をした一打が――最高の選択を生んだ! 会心の500-1000で大澤のチャンス手を封殺した。小宮のファインプレーで難局をしのいだ後も、蔵の受難は続く。ダブがトイツで、ツモり三暗刻の手で2軒リーチの渦中に飛び込んだが――佐月に放銃を許してしまう。メンピン赤、5800の失点。わずか7300の持ち点で迎えたオーラス、蔵には赤が3枚! がアンコとなり、一気にトップ戦線へと躍り出る可能性を秘めている。そして――ドラのを雀頭にしてリーチ! 跳満確定のカン待ちだ。一方、大澤にもテンパイが入った。着アップが難しい局面ということもあり、3着キープを目指してヤミテンに構える。たった1つのアガリで明暗が大きく分かれる一局は――蔵が大澤を打ち抜いて決着! これまでの鬱憤を晴らすかのような18000点の加点で、小宮と佐月を射程圏内に捉える。あと1アガリ、大きな手を成就させたいというところで――こんな衝撃の配牌が訪れた! チンイツ待ったなし! 赤があるため、鳴いても跳満だ。は構成上不要だが、から切って少しでも河を目立たなくする。上家はトップ目の佐月ではあるが、こうすれば――鳴きやすくなる! ここでもから先に切って、を手元に残している。タンヤオに見えるようにをスルーしてを仕掛けているところも心憎い。まさか、ここまで整った手だとは誰も思うまい。が重なり手広くなったところで、ようやくをリリース。そしてポンで再び親跳確定のテンパイを入れた!一方、トップ目の佐月にここでテンパイが入った。のターツ落とし、ドラの切り、ソーズの中ごろの牌が切られていることから、さすがに蔵にはマンズが危なそうに見える。テンパイ打牌のは切れるか?思考を巡らせ、佐月はこれを切り飛ばす。をで仕掛け、をポン。さすがにペンやシャンポンで当たる可能性は低く、に当たることも稀だ。トップを死守するため、くらいはと叩き切った。そして――蔵の河にが置かれた――1000は1300のアガリ。1回戦に続き、2回戦も爪の先にまでかかっていたトップの座を逃す結果となった。小宮がトップ2着、大澤が連続ラスということで、Bブロックでプラスポイントなのは上位2名のみという途中結果に。混迷を極める中、対局は後半戦へと突入していった――。3回戦は起家の佐月の強烈な一撃で幕を開けた。タンヤオ・三色・赤・ドラの4000オールで大きくリード。続く東1局1本場、蔵はを切ればタンヤオ赤ドラのテンパイというところ。だが佐月がとをポン、小宮がとをポンしている煮詰まった局面だ。ションパイのは、どちらに対しても切りにくい。小宮に対しては、小四喜の可能性さえある。思わず表情をしかめる蔵。そして――強気にを打ち出した。
「はまだ当たらない可能性が高いと思っていて、が鳴かれた場合は降りようと思っていました」
ブロック内の3位以下が競っている状況とはいえ、蔵がポイントを叩かないといけない状況には違いない。タイトロープな押し引きで、リスクを承知でテンパイを取った。故に――1枚切れのも――押す! 切羽詰まった状況であるが故に、選択肢は限られる。ある程度のポイントを持っていたら別のルートも選べただろうが、彼女はここを勝負所の一つと見定めた。乾坤一擲の激押し。その結末は――佐月に3900は4200を着弾させることに成功する。東4局1本場は、門前派としての技術が光った。ここから蔵は打とする。⇒と逆切りをすることによって、待ちが最終形になった場合のが盲点になりやすくなる。狙い通り、待ちでリーチをすることに成功し――佐月が勝負手から自信を持ってを切った。たしかには無スジではあるけれど、しっかり読めているからこそ止めるのが困難な牌だ。リーチ・ピンフ・赤、5800は6100を佐月からもぎ取り、この半荘のトップ目に立った。だが喜びもつかの間、南入した途端の打撃戦に巻き込まれ、気付けば蔵はラス目へと転落してしまった。オーラスは再び蔵の親番だ。をポンして切り。ホンイツやトイトイが十分に見える。佐月もから積極的に仕掛ける。ドラ2・赤1のチャンス手だが、何よりもここで優先すべきはスピードだ。打とし――もポンできた。道中でを引いたことで、これでテンパイ。選べる待ちはカンかカン。は1枚切れだが――を切ってカン待ちを選択。中スジで引っかけており、全員が前に出る可能性が局面ということも踏まえ、他家が不要そうな牌を待ち牌とした。さらにがアンコとなり、単騎に待ち変え。最終手出しがということで盲点になりやすい待ちで、展開次第で別の待ちへ柔軟に切り替えることも可能だ。このを蔵がポン! 1シャンテンとし、徐々に場が煮詰まっていく。さらに蔵はを加カン。ツモ番を1回でも増やしたく打点向上も目指したカンだったが、新ドラは。蔵には乗らず、佐月が跳満確定となった。さらに大澤もチートイツのドラ待ちでテンパイ。6400点でトップ条件の手を入れたため、もちろんヤミテンとする。佐月、大澤に続いて、ようやく蔵にもテンパイが入った。待ち取りはかを選べるが――待ちとした。
「元ドラがなので、は手の内に持たれている可能性が高い。逆には、まだ山にいそうに思っていました。あとはを鳴いた後にを切るとから鳴いたことがわかり、周りに余計な情報を与えたくなかったというのもあります。結局ドラを持ってきたらドラ単騎に受け変えるつもりでしたが、は盲点になり得る待ちだと思っていました」3者が単騎テンパイという中で、小宮にもテンパイが入った。リーチ・ドラのカン待ち。ここに来て全員テンパイの極限状況となった。無論、蔵は――無スジであろうと降りるわけにはいかない!一方の佐月にはまでやって来た。を切れば倍満テンパイではあるが――切りでテンパイを崩した。現状の安牌はのみだったが、ほぼ間違いなく全員テンパイと呼べる押し具合だ。自身はトップ目であるため、1巡の間に安牌が増えたり、横移動する可能性は低くない。切りの後に安牌がない修羅の道ではあるが、彼女はこの1巡に価値を見出した。そして――大澤のもとへ3枚目のが訪れた。チートイツのテンパイを入れているこの状況で――これが止まるわけもなかった――。リーチ・ドラ2、5200点のアガリで小宮と大澤の順位が入れ替わる結末となった。熱すぎるオーラスの攻防の果てに、蔵は痛恨のラスを引いてしまう。気付けば▲99.5ポイントのブロック最下位。番組冒頭では「トップ1回くらいは取りたい」と謙虚なコメントをしていたが、その1回さえ容易に手にすることができない。最終戦も東3局に小宮に満貫の放銃を許し、ラス目になってしまう。1、2回戦でたぐり寄せつつあったトップを逃し、3回戦にラスを喫し、最終戦東場での満貫放銃。こんな展開に身を置かれたなら、心が折れたっておかしくない。それは蔵と言えど例外ではないと思う。だが、この逆境に身を置かれてもなお、蔵の弾倉には「隠し玉」が残っていた――。南2局2本場、ラス目。ドラのも赤牌もないが、大事な親番で1メンツが完成している配牌がやってきた。8巡目、早々にテンパイを果たした蔵はヤミテンを選択。リーチで一気に満貫を狙いたくなるような点棒状況ではあるが、全員がを切っている。ヤミテンに構えれば、このは全員がツモ切る可能性が非常に高い。また高めのはタンヤオ・イーペーコーの2ハンがプラスされるため、5800点であれば十分な加点だ。なおかつリーチをして満貫を出アガったりツモあがったりしても、それだけでは決定打足り得ないというところも注目すべきポイントだ。この手をアガったところで、どのみち最低でも1回はアガらなければならないだろう。それであるならば、を着実に拾って次局以降に強く勝負に出ればいい。リーチを絡めた高打点のアガリを見舞うイメージの強い蔵ではあるが、だからこそ、ここぞという局面での繊細な判断の切れ味が増す。終盤、小宮がをポンしてドラ切り。待ちのテンパイを果たす。彼女が大きく目立ったことで、なおさらヤミテンを維持することの価値が上がった。そして――うれしすぎる高めツモ! 会心の2600オールでアガり、蔵がトップ争いの希望をつないだ。続く南2局3本場、4巡目にリーチした小宮が佐月から一発和了。メンピン・一発・ドラ2、8000は8900でリードを広げた。南3局、蔵は小宮と11300点差の2着。この局で、最低でも満貫ツモ圏内にまで点差を縮めたいところだ。そんな蔵には配牌で5トイツ。チートイツの1シャンテンだ。だが役牌のとがトイツということを踏まえると、仕掛けていきたい局面でもある。役々トイトイの満貫にでも仕上げることができようものなら、オーラスの条件はぐっと楽になる。蔵は1枚目のから迷わずポン! トイツのを切り、マンズのホンイツを目指した。ドラのとがあるため、これならばマックス跳満まで見える。さらにをアンコにし、待ち選択。ここでは――が場に1枚切られていることもあり、カン待ちとした。この選択がうまくはまり――佐月からあふれたをとらえ、8000点の加点に成功した。これで小宮とは、わずか3300点の差に。逆転トップが現実的なものとなった。かくして訪れた運命のオーラス。ラス親の佐月は、ドラ2・赤のチャンス手だ。小宮と蔵のスピード勝負が予想される局面ということもあり、から積極的にポン。バックをメインとした仕掛けだ。このがすぐに鳴け、くっつきの1シャンテンに。この時、蔵はまだ2シャンテン。間に合うのか!?やはりテンパイ一番乗りは佐月だった。を引いてカン待ちのテンパイ。さらに――とのシャンポン待ちへと変化。とともに1枚ずつ場に切られているが、50%で満貫になるという魅力は捨てがたい。とくに小宮と佐月はドラだからという理由でを絞り切れるともいえない局面のため、このでのアガリに活路を見出した格好だ。続けて小宮もテンパイ。チートイツ・赤、待ちのヤミテンで逃げ切りを狙う。そして蔵は1シャンテン。トップ条件は700-1300のツモか、3900の出アガリ。イーペーコーが確定しておらず、タンヤオも逃したくない。タンヤオを確定させる十分形だと切りとなる。そしては、小宮の当たり牌だ。蔵が危ない!蔵は打を選択。間一髪、危機を脱することに成功した。
「が2枚切れだったこともあって、リャンメン固定はしたかったです。がめちゃめちゃ良さそうに見えたこと、渋々ではあるけれどが鳴けるようにもしたかったことと、タンヤオがなくなっても受けを残したかったことが、切りの理由です」
3回戦東4局1本場でも見せた逆切りの思考。蔵が総力を結集して、反撃の機会を伺う。だが、依然は打牌候補には変わりない。直後、大澤が起死回生のリーチを放った! リーチ・三色・赤1、小宮か佐月から直撃すれば2着に、ツモ裏ならばトップへと浮上する。彼女もこの日は終始苦しんでいたが、土壇場でしっかりと条件を満たす手作りを欠かさなかった。そして小宮のもとへが流れ――大澤のスジ牌であるさえ切らず、のトイツ落としを敢行。蔵がテンパイとは言い切れず、大澤の直撃を許すと2着順ダウンする可能性もある。じつに慎重な選択なのだが――この一打で蔵は九死に一生を得た!そして待望のテンパイを果たした蔵。しかし、である。ここからがまた悩ましい。をすでに切っているため待ちにすることは間違いないとして、大澤がリーチ棒を出たものの、ツモは700-1300、出アガリは2600とほとんど条件は変わっていないのである。ヤミテンではツモ直条件。出アガリは高め条件。リーチをかければ問答無用で条件を満たす。だがリーチ棒を出すと、小宮が一人ノーテンでもトップにはなれない。大澤はリーチをしているから当然として、以降はツモ切りを続けている7センチの佐月も、テンパイ濃厚と見ていいだろう。そして小宮はをトイツ落とししたばかり。ヤミテンのままテンパイを維持し続ければ、トップになれるかもしれない。は大澤の現物なので、小宮からの直撃も狙えそうだ。だが、大澤や佐月から安目が出た場合は見逃すのか? 2着で終わることを良しとするのか? それぞれの選択肢のメリットとデメリットが交互に頭に浮かぶ。リーチか、ヤミテンか……。他のプロ雀士にとっても、大きく判断が分かれそうな究極の選択だ。それほどまでに難しい選択の中で――蔵が選んだのはヤミテンだった。
「が出た時の2000点が本当においしくなかった。ツモならうれしいけれど、ツモれる気はあまりしていなくって。でもは、いてもおかしくない。アガるなら、きっとだろうくらいには思っていたんですけど……」
次巡のことだった。を引いた蔵はとスライドさせてリーチに踏み切った。
「やっぱり、大澤さんの現物にがあることが大きかったですね。1巡だけ、小宮さんからを直撃できる可能性を追いました。だけど小宮さんがを切ったことで降りているかどうか微妙なラインにもなり、張り直す可能性もあるわけで、リーチの方がいいのかなと。リーチとヤミテン、どっちが良かったのか今でもわからないですね」
この局面について、何人かの著名プロに話を聞いてみた。やはり人によって判断は分かれていたし、それほどまでに甲乙つけがたい微差なのだろう。どちらを選んでも、ハッピーエンドにもバッドエンドにも成り得る。今回、リーチをかけた蔵は――。最良の結末にたどり着くことはできなかった――。蔵はブロック7位で第2節を終えた。だが不幸中の幸いと言うべきか、小宮が大きく抜け出したことにより、3位以下が混迷を極める結果となった。最終節、彼女が3位以内に食い込む可能性はじつに現実的だ。
「これだけ配牌がツイていたのに勝てないのもうどうなんだろうなっていうのは思いつつ(笑)、負債がそこまで大きくなかったのはでかいですね。普通よりもちょっと前のめりになるところは出てくるだろうけど、たぶん楽しくはなるかな……」
楽しい? たしかに可能性は十分にありますが、つらいとは思わないのですか? 僕は反射的に、そう尋ねずにはいられなかった。
「結局、勝つしかないので。だから楽しんでやれたらいいなって思っています。つらい時のほうが楽しいですからね。負けているからって、全部前へ行けばいいわけじゃないんですよね。基本は前のめりになりやすいけど、ちゃんと退くべきところで退く。つらい時の方が、かえって選択肢が増えるくらいに思っています。だから、次は誰よりも楽しめると思います」
そう言って、彼女は白い歯を見せた。
弾丸娘は、逆境にて輝く。プリンセスの頂へ照準を定め、彼女はゆっくりと撃鉄を起こした――。