――「ツモ、300・500。」
なぜだろう。
園田賢の麻雀を見ていると、とても清々しい気持ちになる。
こんなに安いアガリなのに。
東2局、園田はのチーから入り、バックでのアガリに向かう。
園田「赤もないサンシャンテンの手牌。こういう手牌は、リーチを目指すことの価値が低いんだよね。どのみちアガリにはが必要だから、鳴いてアガリに近づいておく方がいいかなって」
園田が鳴く手は、メンゼンではどうしようもなく価値が低い手であることがほとんどだ。さらに、この鳴きにはもう一つ別の狙いが隠されていたという。
園田「ソウズのホンイツを匂わせながら鳴くことで、どこが来そうなのかのアンテナを張るっていう狙いもあったね」
この鳴きを他家視点で見てみると
確かにソウズのホンイツに見える。この仕掛けに対して、役牌やソウズを切ってくるようであれば、その人には手が入っていると考えることができる。園田は仕掛けをレーダーにして、他家の速度感や手牌の価値を探査しているのだ。
すると、イーシャンテンになったところで親の瀬戸熊選手からリーチが入る。園田は宣言牌のをチーして打としバックのテンパイに取った。
園田「一発を消して自分がテンパイならばくらいは押してもいいかなあ。危険牌を掴むまでにが出ればラッキーくらいの感覚だから、次の危険牌は大体やめるつもりだったね。」
そう語った通り、無筋で当たり牌のはしっかりと止めた。一歩間違えれば大怪我をしかねない。そんな茨の道をギリギリのバランスで進んでいく。
東2局3本場、2枚目のをチーして11巡目に役なしのテンパイに取る。
園田「場にピンズが高くて、これをスルーするとテンパイを組むことすら難しいと思ったんだよね。を使わずにテンパイを取るには、ここからと河に切らなくてはいけなくなるから、そのリスクも負いたくなかった。」
残りのは読み通り、滝沢選手と朝倉選手が1枚ずつ使っており、このを逃すと園田の言う通り”テンパイすら組めなかった”可能性が高い。
さらに今局、園田はしきりに親の瀬戸熊選手の河を気にする素振りを見せていた。
園田「瀬戸熊さんの7巡目のの手出しに違和感があったのね(上図①)。何かなと思ってたんだけど、が3枚とが4枚見えたことで、高確率でがトイツ以上だろうと読めた(上図②③)。」
を切っているのにが手出しということは、手の内にソウズの上のブロックがある。①の時点ではそれがどのような形か断定できなかったが、②の時点での可能性が否定され、③の時点での可能性も否定された。残る可能性はかしかないということだ。
園田「さらにを切っているのに8巡目にを手出し。これも気になった(上図④)。」
ヨミトーークは止まらない。
園田「が4枚見えてるから、ダブルメンツ(からの落とし)ではないんだよね。がとのスライド(にを引いて打)なら、を切った時点でからを切っていることになるからシュンツ手の場合はイーシャンテン以上の可能性が高いと思った。」
2345から2を切るということは、23と45の2つの両面を崩して1メンツを確定させていることになる。これだけの良形を固定しているところから、瀬戸熊選手はテンパイにかなり近い位置にいると読んでいたというのだ。
園田「チートイツ系の手だとしても、は場況のいい牌で残したいだろうから、その場合もイーシャンテン以上だと思ってたよ。」
この読みが見事的中、瀬戸熊選手はチートイツのイーシャンテンであった。
しかし、イーシャンテン以上ということは、裏を返せば既にテンパイしていて、ダマテンにしている可能性も考えられるのではないだろうか。
園田「そこで、の情報が生きてくるんだよね。がトイツ以上の牌姿で、ダマテンで高いケースは少ない。もちろん当たることもあるけどね。」
園田「例えばこういうがチートイツドラドラのダマテンに当たったりするかもしれない。でも1枚切れのを切っているから、それより悪い待ちになるくらいは押して、テンパイを維持した方が期待値が高いと思うんだ。」
ただ闇雲にテンパイへと向かっているのではない。高精度な読みに裏打ちされたリスク管理の中で、1,000は1,900をアガり切った。
南2局、園田の読みはさらに冴え渡る。
をポンして打、効率だけで言えばを切りたいところだ。
園田「が既に3枚切れ。がもう1枚切れてしまうと、このはかなり厳しくなると思っていたから、やをポンするルートを残したかったんだよね。逆にの感触は良かったからカンを固定してみた。」
手牌を開けてみると、この読みがドンピシャ。は山に残り3枚と薄く、受け入れとして残した・・は全てが山に残っていた。
次巡、を引いてテンパイすると、狙い通りをツモ。流れるような手順で300・500をアガってみせた。
この試合、細かいアガリは拾えたものの、決定打となる手牌に恵まれず2着でフィニッシュ。
しかし、微妙な結果とは裏腹に、やはり私の心は清々しい気持ちで満たされていた。
この時、私はようやくこの清々しさの正体に気付いた。
――ジャイアントキリング。
決して良いとは言えない手材料を駆使して、周りの勝負手をことごとく潰していく。この感覚がたまらなく気持ちいいのだ。
開幕前、「無名の自分は結果を残すことでしかこの場所で生き残れない」と語った園田。
タレント揃いのMリーガーを前に、園田賢のジャイアントキリングは、まだ始まったばかりである。