麻雀を覚えるとすぐに、「孤立牌から切っていけばいいんだな」とわかります。
そのため、初心者の方も、多くの場合、序盤に字牌を切ります。
麻雀の基本中の基本、といっていいでしょう。
しかし、「本当に今、この字牌を切ってよいのか」「複数の字牌を切るとき、どの順番が良いか」という問題は、突き詰めて考えると難しく、実力者同士でも時に考えがわかれます。
多井隆晴選手の著書「麻雀 無敗の手筋」(竹書房)には、「(数牌より)字牌の方が考えることが多い」「字牌の切り順だけで1冊本を書ける」とあります。それだけ奥が深いテーマなのですね。
字牌の機能を、改めて整理してみましょう。
東場で自分が南家とすると、次のようになります。
東 → 場風牌。3枚そろえば役になる。東家に3枚そろえられるとダブ東にされる。
南 → 自風牌。3枚そろえば役になる。他家はそろえても役にならない。
西・北 → 客風牌(いわゆるオタ風)。3枚そろえても役にならないが、2枚あるとピンフのアタマにできる。
白・発・中 → 三元牌。3枚そろえば役になる。
ここからは、場風牌、自風牌、三元牌を「役牌」、客風牌を「オタ風」と表記します。
字牌の切り方は、状況によるのでセオリー化しにくいですが、おおむね2つの原則があります。
1 自分の手にとって価値が高い字牌は残す。価値が低ければ切る
2 切る牌が複数ある時は、他家に鳴かれたくない牌から先に切る
東1局の南家の序盤を想定し、具体的に見てみましょう。
ツモ
リーチ・タンヤオ・ピンフが目指せるので、字牌に頼らなくても良さそうですね。
やが重なっても、タンヤオもピンフも消えてしまうので、すごく嬉しいわけではありません。
字牌はすべて切るとすると、最初に切る候補はです。
親に鳴かれるとダブ東で2ハン。ホンイツやドラを組み合わせるとすぐに満貫になってしまいます。
親が配牌時にを2枚持っている確率は、計算すると5%弱なのですが、巡目が進むほど確率は上がります。
であれば、最も鳴かれる恐れが少ない時に切った方が得、というわけですね。
かつては、をできるだけ絞る傾向もあったのですが、現在麻雀では「を切るなら早めに」という考え方が主流になっています。
次に切るのはです。
自分の手が良いので、他家にを鳴かれて手が進むのも嫌だからです。
と同じく、自分が使わないなら、他家に鳴かれないうちに切ろうという思考です。
最後まで残すのが。
もしをもう1枚ツモれば、アタマとして採用することもできます。
タンヤオはなくなりますが、オタ風は、ピンフのアタマにはなるからです。
また、オタ風のトイツは安全度が高いので、2枚あると、守備面でも安心です。
一方、次のような手ではどうでしょう。
ツモ
苦しい形ですね。もう少し悪い手だと、オリることを前提に、字牌を1枚も切らず温存し、守りに備える戦術もありそうです。
ただこの形は、ドラがあり、完全にあきらめる程ではなさそうです。であれば、やの重なりに期待し、から切る選択肢が有力になるでしょう。
このように、同じがあっても、他の牌の形や、状況によって、切る順序は変わります。
もし終盤で、西家だけにはアガられたくない状況なら、を鳴かれたくないので、真っ先にを切るのも効果的でしょう。
また、上記の
1 自分の手にとって価値が高い字牌は残す。価値が低ければ切る
に戻って考えると、字牌が大事な場合として、次のケースがあります。
・役満につながるとき
序盤で のような形があれば、かを1枚ツモれば大三元が見えます。
大三元は、役満の中で比較的出やすい役です。チャンスがあれば積極的に狙いましょう。
大三元にならなくても、小三元でも十分です。
他にも国士無双、大四喜、小四喜、清老頭、字一色など、字牌が重要な役満は多くあります。
・ホンイツやトイトイにつながるとき
序盤でホンイツやトイトイが目指せるときは、字牌を残した方が良いことが多いです。
字牌は中張牌よりポンしやすいので、役が完成するためのキー牌になりますし、役牌の場合は打点もアップします。
・七対子につながるとき
序盤でトイツが多くあり、七対子を意識するときは、字牌は残すことが多いです。
場に1枚切れの字牌は、七対子の待ちとして優秀だからです。
また、七対子はなかなかテンパイせず、先制リーチを受けることも多いですが、比較的安全な字牌を抱えていると、字牌を切りながら粘りがきくこともあります。
・他の役牌が2枚以上あるとき
例えば、東場でが2枚あり、が1枚ずつあるとき、をすぐに切らず、重なりを待つ手
があります。どれか重なってうまくいけば、役牌2つで2ハンになるからです。
また、のような形になれば、どちらかは鳴ける可能性が高いので、役牌バックの仕掛けもしやす
くなり、選択肢が広がります。
応用編としては、「字牌のドラが1枚だけあるとき」の対応があります。
2枚あればもちろんアタマに使えますが、1枚だけあって困ったな、という経験は誰しもあるでしょう。
この場合も、「自分の手にとって価値が高いか」が判断基準になります。
好形高打点でリーチ・タンヤオ・ピンフなどが目指せるなら、ドラに頼る必要は薄いので、早めに切った方が良いでしょう。もし他家にドラをポンされれば、それから対応を考えれば大丈夫です。
逆に、あまり冴えない手なら、ドラをもう1枚ツモることの価値が非常に高くなりますね。
であれば、粘り強くドラの字牌を抱え続ける判断に傾くことが多そうです。
ただ、現実には、自分の手牌の方向性が定まらず、字牌の価値を測りにくい場面も多くあります。
それゆえに、実力者同士でも、考え方がわかれる場面がかなりあるわけです。
2022年6月に出版された、堀慎吾選手の「麻雀 至極の戦略」(KADOKAWA)は、実戦譜に基づいた中上級者向けの本ですが、この中でも「タンヤオと役牌はどちらが強いか」「役牌ポンの基準を作れ」「字牌の場況を見極めろ」と、字牌の扱いについて、多くのページが割かれており、勉強になると思います。
一局だけで見ると、どちらの字牌を先に切っても同じ結果のことが多いでしょうが、字牌はほとんど全局出会うものなので、その扱いが長期的な成績に与える影響は大きいと思われます。
おすすめの勉強法は、放送対局やMリーグの牌譜などを、序盤の字牌の切り方だけに注目して見ることです。
一流の選手は、どの牌も漫然と切ることはなく、必ず何らかの理由があります。
「なぜこの手でより先にを切るのだろう?」などと考えてみると、いろいろと発見があると思います。
次回は、供託があるときの考え方を紹介します。