~以下「麻雀界 第7号」より転載~
麻雀にローカルルールは多いですが、リーチは1000点供託というのが全国どこにいってもほぼ共通。
でも自分の点棒箱の中に1000点棒がなかったら、みなさんどうしていますか……?
リーチ棒が5千点棒!
先日ある麻雀関係のSNSを見ていると、ひとつの書き込みが目にとまりました。
「これはやめてほしい」というタイトルの文章です。
その方がやめてほしいものは「リーチをかけて五千点棒をそのまま置く行為」でした。
その文章はこのように続きます。
「前局で千点棒を切らす支払い方をしたことを恥じる訳でもなく、堂々と五千点棒を置いて何も言わない。
こういった場合、私は千点棒5本を相手の手元に置いて、その後は何もしません」
なぜその人が替えた五千点棒を自分で取らないかというと、うっかりリセットスイッチに触って捨て牌を流してしまったら自分のチョンボになるからです。
つまりその人のおもだった主張は、「千点棒を切らした状態でリーチをかける時は『すみませんが両替してください』とちゃんと口に出し、相手の手元に五千点棒を置くべきだ」というものです。
しかし原文に「恥じる」という文言が入っていることから、この人は『千点棒を切らすこと自体が罪』と考えていることがわかります。
不特定多数の人が見るサイトですから、こういったマナー関係の書き込みには多くのコメントがつくのが普通です。
このケースも例外ではなく、「ちゃんとお願いすべき」の意見には同意を示すコメントがたくさん寄せられました。しかしその一方、「千点棒を切らすのはそんなに悪いことなの?」というコメントも散見されたのです。
こういうSNSにおいて、少数意見と思えるコメントをつけるのは勇気が要ります。
周りからの攻撃対象にならないとも限らないので。
それでも同様の意見がちらほら出るからには、この点についてあまり気にしていない人が実は案外多いということではないでしょうか。
では私はどうなのかというと、「必ず千点棒を残すように心がけるべき」と考えております。
両替するほうが気を遣うの?
ずっと昔、都内にあったAという店に初めて飛び込んだ時のこと。
最初の半荘の東1局に私が4000オールをひいたところ、千点棒が私の点箱に16本集まりました。相手のうち一人はスタッフさんだったんですけどね。
そして次の局が、私以外の3軒リーチ。
こうなると図らずも両替係に任命された私は大忙しです(笑)。
もちろん(?)両側の年輩のお客さんは何も言わずに五千点棒を置くわけで、なぜか私は気まで遣わねばなりません。
「どうせアガるんだから余計なことすんなよ」とか言われないかとヒヤヒヤしながら、「よかったら両替しましょうか?」などと。
リーチの成立条件は「①発声をして②打牌を横に曲げ③『千点棒』を供託する」ですから、よくても悪くても替える一手なのですが、こちらが気を遣わねばならないくらい堂々たる態度なわけです。
さすがにスタッフの方だけは「両替お願いします」と言ってくれましたけどね……。
どうです、なにかと面倒ではないでしょうか?
なお余談の中にまた余談ですが、リーチ成立条件の①と②の順が逆転している人をかなり見受けます。
「動作の前にまず発声」の基本原則を忘れないようにしましょう。
マナーには理由がある
逸れた話を戻します。
麻雀を覚えたての人にマナーを教える時、理由を添えて説明すると必要性を理解してもらえます。
例えば「点棒の手渡しをしてはいけない。対局者兼審判である他のプレイヤーが、授受が正しく行われたかどうか確認できないから」というように。
今回の「千点棒残すべし」の話についても、理由をちゃんと示せば『どっちでもいいじゃん』と思う人は減ると思うんですね。
「両替をすること自体が面倒だから」というのが主たる理由だと思ってる人が大半ではないでしょうか。
先の新宿の例のように、両替が重なるとゲームの進行に支障をきたす場合もありますし。
そう理解されている人は、『支払いで大きい点棒を出してお釣りをもらうのもリーチの時点で替えてもらうのも、手間としては大差ない』という言い分をお持ちでしょう。
だから千点棒が2本しかない時に2000点を振り込んでも、ちょうど払ってしまう。
両替に関するもう一つの問題点
でも実はもうひとつ理由、というか問題があります。
『両替という余分な作業により、相手の思考を止めさせてしまう』という、ゲーム性に関わる問題が……。
リーチがかかった瞬間は、両替のタイミングとしては実は最悪なのです。
ある程度のレベルの人を想定します。自分の手を作るのに精一杯の時期は脱し、他家の捨て牌から動向を探ろうとする習慣がついているレベルの人を。
その人は局中、何を考えているでしょうか。
麻雀において、敵は通常三人います。持ち点の状況によっては、その内の一人ないし二人が味方になりうるケースもありますが。
オーラスなど押し詰まった局面でなければ、三人のうち誰が最大の脅威となるかまだわからないわけですから、まずは均等に眺めることになるでしょう。
相手三人の志向する役や進捗状況などのデータを、局の序盤から中盤にかけて頑張って収集するわけです。
そして他家に大きな動きがあった場合、例えば仕掛けやリーチがこれに相当しますが、思考のスイッチを切り替える必要が生じます。
このスイッチ切り替えの際に違う作業が入ると、それに必要な時間が奪われてしまうのです。
もっと具体的に話しましょう。たった今、私のトイメンからこんな捨て牌のリーチがかかりました。
さあ、ここが今まで蓄積したデータを活かすべき時です。
『とはツモ切りだからが完全な浮き牌ならばに続いて切られているはずで、少なくともかは手にありそう。
またリーチ直前にポンカスの白をツモ切っているということは、宣言牌のは受け入れに関係がある。
先にを切っているにもかかわらずもう一枚をひっぱるということは、その付近のシャンポンかあるいはカンマチが本線で、周辺のリャンメンマチはないはず…。』
と、これくらいのことを自分の手番がくる前に考えたいわけです。
ところがリーチ者が千点棒を切らしていると、この思考を展開させる時間がありません。
両替するに十分な千点棒を自分が有していない場合でも、いちおう点箱を確認して
「私は〇本しか持ってないのでお願いできますか?」と言うことにしているからです。
すると直前の打牌についての考えがまとまらないうちに自分の手番を迎えるわけで、これが非常に困ります。
その分長考に及ぶことはないとしても、また着手が影響を受けることがないとしても、最高の知的ゲームを目一杯楽しむ機会を失ったような気になるのです。
自分も相手も知力の限りを尽くすことが内容濃いゲームの成立条件であり、そうであってこそ勝った人も負けた人も満足できるはずです。
したがって相手の集中を欠くような余分な作業は極力排除するのが、全プレイヤーの務めだと思うわけです。
いかがでしょう、千点棒を残す必要性を感じていただけたでしょうか?
なお千点棒ほどではないにせよ、百点棒を使い切った場合もゲームの進行に支障をきたす可能性があります。
千点棒以下の点棒については全員がなるべく均等に本数を持つのが望ましいのですが、いいプレイヤーはこのへんの配慮も怠りないものです。
今回はこのへんで。皆さんの麻雀ライフがより豊かなものになりますように。
著者:大貝博美
プロフィール:昭和35年、東京都生まれ。101競技連盟所属。第22・30期王座。ファミレス店店長を経験後、競技麻雀に惚れこみ、麻雀プロの世界に足を踏み入れる。
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