麻雀専門誌「近代麻雀」(株式会社竹書房)が主催する国内最大級のプロアマ大会「麻雀最強戦」で実況を担当されている梅中悠介さん。長い対局だと1半荘で1000プレー以上ある麻雀実況において、梅中さんが意識されていることとは?
梅中悠介(うめなか・ゆうすけ)プロフィール
1978年、東京都生まれ。しし座、AB型。千葉大学経済学部卒。大分朝日放送、新潟総合テレビを経て、株式会社ジョイスタッフ所属のフリーアナウンサーとなる。麻雀実況をはじめ、競馬、野球、バスケットボール、バレーボール、サッカー、カーリング等、様々なスポーツ実況を担当。好きな役はタンヤオと七対子と四暗刻。「シュンツ形よりトイツ形が好きなんです」
“喋ること”を仕事にされたきっかけは?
「そもそも競馬の実況がやりたくて、アナウンサーの道を志しました。初めて見た競馬は、小学6年生の時にテレビで見たオグリキャップの引退レース。レースが終わった後、中山競馬場にいた17万人の観客から地鳴りのようなオグリキャップコールが沸き起こり、世の中にこんなに華やかでおもしろい世界があるのかと衝撃を受けました」
「高校生の頃から、周りにもアナウンサーになりたいと公言していたので、ならなきゃ示しがつかないとは思っていました(笑)。でも華やかなテレビの世界に対して、自分の性格は華やかではないという認識があり、漠然とした不安を抱えていた高校3年の頃、JRAのオフィシャル実況をされているラジオたんぱ(現ラジオNIKKEI)主催の『レースアナウンサー養成講座』の募集広告をたまたま目にしたんです。これだ!と天啓を受け、大学に入ってから受講したんです」
「麻雀を始めたのも大学時代からで、サークルの先輩とのコミュニケーションツールとして、覚えようと思ったのがきっかけで、手積みでわいわいやってました」
レースアナウンサー養成講座ではどんなことを学ばれたのですか?
「競馬を中心にボートレースや競輪に関する座学、発声練習、実況の組み立て方、番組進行等を学びました。そんなある日、講師の方に、自分の競馬実況を見て頂いたんですが『君は他の人が出来ていないことが出来ている』と言われたことがあったんです」
「何が出来ていたのかというと『ひとつのことについて喋りながら、別のものが見えている』とのこと。確かに先頭の馬を見ながら先頭の馬に関して喋り、二番手の馬を見ながら二番手の馬に関して喋るのでは間が出来てしまい、滑らかな実況にはなりません。先頭の馬のことを喋りながら二番手の馬を見る、二番手の馬のことを喋りながら三番手の馬を見る。自覚したことのなかったこの感覚は、身につけたわけではなく、たまたま出来ていたものなんですが、この指摘が自分の支えとなり、アナウンサーになるんだと明確に意識することが出来ました」
「実はこの感覚が、麻雀実況にすごく役に立ったんです。ただ麻雀実況は、競馬よりも動きが早く、私にとっては競馬実況より遥かに難しいものでした」
麻雀最強戦の実況を担当されたのはいつ頃からですか?
「2017年5月に行われた女流プレミアトーナメントからです。この直前に実況オーディションがあったんですが、実際にやらせて頂くと、ルールはもちろんですが、役も点数計算も瞬時に出来、スムーズに言えなければなりません。基礎的なことだけでも麻雀実況はハードルがものすごく高いと感じました」
麻雀実況で意識されていることは?
「大前提は、目の前で起こっていることを喋ること。そして会話の流れを壊さないことです。選手のパーソナルな情報は、目の前で起こっていることが比較的に平穏で凪(なぎ)の状態の時に入れるようにしています。また麻雀最強戦であれば、新進気鋭の初出場選手にまつわる人となりに関しては、視聴者の予備知識となるよう、多く喋ることを意識しています」
麻雀実況で難しいところは?
「プレー速度が速いこととプレー数が圧倒的に多いことです。1局最大70回のツモ番があるとして、仕掛けが入ればさらにプレー数は増えるので、多い時は1半荘で1000プレーはゆうに越えます。その1プレー1プレーを見極めながら、際立てるところや聞くところを判断していくのは最も難しいところです。しかもアガった瞬間、スピーディーに役が言えるような瞬発力も要求されます」
「また野球だったらイニング間のインターバルがあり、サッカーにはハーフタイムがありますが、麻雀はゲーム開始からゲームセットまで休みといえる間がありません。麻雀最強戦の場合は、基本的には1日3試合。稀に2時間越えの試合もあるので、体力もかなり必要とされます。2017年のファイナルトーナメントC卓は、1半荘22局で約2時間40分。2018年の男子プレミアトーナメントの決勝戦では約3時間の試合もありました」