中小企業の“事業承継”に関する問題を解決すべく、2018年にM&A総合研究所を創業した佐上峻作さん。AIを駆使した中小企業の合併・買収(M&A)の仲介事業を展開し、2022年には東証グロース(※)に上場。2024年のフォーブス「日本長者番付」では、最年少33歳で41位(約1800億円)にランクインした辣腕経営者は、2024年に最高位戦日本プロ麻雀協会のプロテストを受験して合格。いったいなぜ麻雀プロの道も歩み始めたのか? その理由とはーー。 ※東証グロース:将来成長が見込まれる企業向けの市場のこと
◆佐上峻作(さがみ・しゅんさく)プロフィール
1991年2月25日、大阪府生まれ。A型。神戸大学農学部卒。2013年に株式会社マイクロアド入社後、2015年に株式会社Alpaca(現在は株式会社メディコマ)を設立。2017年に同社を株式会社ベクトルに売却後、自身も10件ほどのM&Aに携わる。2018年、M&A仲介事業を行うM&A総合研究所を設立し、代表取締役社長に就任。2024年、最高位戦日本プロ麻雀協会に所属。好きな役はピンフ。著書は『効率化の精鋭』(朝日新聞出版社)ほか
M&A総合研究所の事業内容とは?
「どんな業界においても経営者が高齢になった時、会社経営をそのまま継続していけるのかという課題に直面します。事業承継に関しては親族内承継が多かったかもしれませんが、お子さんが別の仕事をする等、必ずしも引き継ぐわけではありません。そうなると外部に引き継いでもらうことになるので、事業承継型のM&Aのニーズが高まっているという現状があり、その仲介事業を行っています」
社名にもなっているM&Aに興味を持たれたきっかけは?
「父は警察官でしたが、祖父は経営者で80歳になるまで不動産業をやっていました。父が祖父の不動産業を継ぐことはなかったので、事業承継できず廃業しました。大学生だった頃、不動産業を清算する祖父の姿を目の当たりにした時に事業承継問題とはこういうことなんだと、伝統や技術を残していくことのできるM&Aに高い社会貢献性を感じていました」
M&A総合研究所の特徴は?
「私自身、自分の会社を譲渡する際にM&A仲介会社を利用した経験があります。着手金をはじめ成約するまでにかかる費用があったのですが、成約する前に費用を支払うのはリスクがあり合理的では無いと感じました。譲渡をする経営者の立場に立って考えると、着手金や中間金を支払うのは抵抗があるので、弊社は完全成功報酬制とし、譲渡企業様からは成約するまで一切費用をいただいておりません。」
経営者として心がけていることは?
「従業員が働きやすい環境作りが一番大事だなと思っています。よく“幸福度”と言っているんですが、日々幸せで楽しいと感じてもらえるような環境で働いてもらいたい。そうなれば他人であるお客さんのことも本気で考えられるようになれるからです。ある程度のお金がある、ある程度プライベートの時間もある、仕事にやりがいがある。この3つの軸のバランスが取れていてはじめて幸福度を実感できるので、会社はそういう場所でありたいと思っています」
今後の目標は?
「これからは海外案件にも本腰を入れていこうとシンガポールに支社を設立しました。今後はハードルは高いですが、時価総額で何兆という規模のインパクトのある会社に成長させることを目指しています。現在日本に1兆円を超える会社は約170社ほどありますが、戦前や戦後にできた会社がほとんどで、ここ20年で創業した会社は1社もありません。令和の時代でも1兆円を超える会社が出て来れば、これからの若い人たちにも夢があるし、そこを目標にしてしっかり取り組んでいけば、到達できる可能性はあるのかなと思っています」
これからM&Aの仕事を目指す人へ
「M&Aの仕事に必要なスキルは、コミュニケーション能力です。経営者やオーナーさんの人生と向き合って二人三脚で進めていく仕事なので、相手の気持ちがわかる人、気遣いができる人、財務や法務の知識も必要なので賢い人が求められています。営業職なので泥臭くしっかり働けるかどうかも大事です。年齢も上の方が多いため、麻雀やゴルフといったように共通の趣味を持つことや様々な経験を積むことも必要だと思っています」
麻雀を始めたのはいつ頃から?
「大学2年の頃、テニスサークル仲間と麻雀を始めたらすごくおもしろくてハマり、バイトも全部やめて1年のうち300日は仲間内で打っていました。とにかく麻雀に明け暮れた大学時代でしたが、4年で卒業しました。そこは効率よくやったんで(笑)」
なぜ麻雀プロになろうと思われたのですか?
「麻雀で学んだことはめちゃくちゃあったので、それが経営者としてうまくいった理由なのかなと思っています。なので麻雀に対して何かしら貢献というか恩返ししたいという気持ちから、プロになっていろいろやってみようと思ったんです。自分で体験して深みに入らないとわからないことってたくさんあると思うんですよね」
麻雀がビジネスで活きたことは?
「基本は確率と押し引きのふたつです。会社を創業して1年後に約10億円で売却したり、M&A総合研究所を創業から3年9ヶ月で上場させたり等、ある程度のゴール設計を持った逆算思考で、そこに向かっていかに最速で行けるのかを常に考えながらやって来ました。麻雀もテンパイからイーシャンテンに戻してでもアガリやすい最終形にするとか、アガリは高目だけを狙うのか等、どういうやり方でいけば最速かつ最も大きな手牌に育つのかといった確率的なことを考えながらやるのはほぼ一緒。ここは前に出る場面だなとか、じっと我慢する場面だなといった押し引きも含め、麻雀の本質的なゲーム性は経営に似ています。適切なタイミングで適切な行動をとらなければボロ負けするのでじっとしておこうみたいなことも同じです(笑)」
佐上さんの麻雀スタイルは?
「押しが強いんですが、ちゃんと計算しています。打点が高いとか、アガリやすそうとか、山にありそうとか、ツモれる確率はこれぐらいで、この人に放銃した時はこのぐらいの点数でとか相手の打点を読んで、期待値はプラスだろうみたいに、ふんわりと思考はしている感じです」
座右の銘は?
「先意承問(せんいじょうもん)というお釈迦さまのお経に出てくる言葉です。相手に言われるより先に、ホスピタリティを持っていろんなことに気づいて行動しましょうという意味で捉えていますが、M&Aの仕事のみならず、人間関係でも大事なことだと思うので、相手が喜ぶことを先読みして動けるよう心がけています」
好きな本は?
「経営に活きる部分がある『孫子の兵法』や、過去の組織論や戦略の失敗話がいろいろ書かれている『失敗の本質』は好きですね。失敗事例の歴史には法則性があるので、成功より失敗を学んだほうが同じ轍を踏まなくなる。麻雀も「この打牌は間違っているな」というのをつぶしていけば、おのずと勝てるようになるんじゃないかという考えに近いロジックです。うまくいっている時はラッキーこんなのツモってきたって感じなんで、失敗事例を集めまくるほうが大事だと思いますね」
佐上さんにとって麻雀とは?
「麻雀ってもはや学問だと思います。確率論だったり押し引きだったり、心理学と数字の掛け算のゲームなのでめちゃくちゃ学びがある。基本商売も相手がどう思うのか、会社としてどう思うのかという心理を読みながら数字のゲームにするという似た部分があります。心理と数字は相関するものですが、麻雀はまさにその掛け算で、やったほうが絶対頭も良くなるし、思考も深くなります。ありきたりな勉強より、押し引きも学べると思うんですよね」
インタビューを終えて
起業3年目というスピード感のある上場も「最速で上場したいなと思っていたので、そうなるためのやり方を考えてやって来ました。牌効率みたいな感じかもしれません(笑)」という佐上さん。2025年には65歳以上の人口が3,657万人と日本の総人口の約3割を占めるとされている現在、日本が抱える社会課題のひとつである中小企業の“事業承継”問題には、佐上さんが麻雀で磨いてきた確率論と押し引きがますます求められる。
◎写真:河下太郎(麻雀ウォッチ)/インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)
関連リンク
M&A総合研究所