「麻雀に正解はあるか」の時と同様に、「ルールの違いで、最善手という意味での『正解』がどの程度変わるか」についても、勝敗を競う他のゲームならどうかについて見ていきたいと思います。
例えば将棋(本将棋)は、入玉に関する取り決めがルールによって違います。一般的には24点法(王を0点、飛角を5点、他の駒を1点として、24点に満たなければ負け、両者とも24点以上なら引き分け)ですが、進行上再対局する時間が取れないアマチュアの対局では27点法(全部の駒の合計が54点なので、先手は28点以上、後手は27点以上で勝ちとすれば引き分けが起こらない)が採用されます。
また、トライルールと呼ばれるルールもあります。初期配置の相手玉の位置(先手なら5一、後手なら5九)に相手の駒が利いていないとき、その位置に自分の玉を進めるとトライとなり、その場で勝ちとなるルールです。
ただし、そもそも入玉から持将棋模様になること自体が稀であるため、これらのルールの違いで正解が変わり、結果に影響するということがほとんどありません。トライルールを採用したとしても、将棋というゲームの性質上、いきなり入玉を狙うような指し回しが有力になることは考えにくいです。
他には持ち時間に関する取り決め。ゲームの性質上最善手が変わることはありませんが、どんなに上手い指し手でも時間に追われてミスをすることがあるので、持ち時間の少ない将棋ほど局面上の最善手を追求することより、自分が間違えにくく、相手を間違えさせやすい指し手を考えることが重要になります。
プロの中でも、早指しに定評がある棋士、持ち時間が長い棋戦ほど力を発揮するとされる棋士が居て、戦績を見ても棋戦によって得意不得意があるというのはおそらく事実でしょう。
しかし、そのことをもって、ルールの違いで別ゲーになると言われることはまずありません。得意不得意があるとはいえ、それが問題になるのはプロ同士でも実力が伯仲しているからであり、大きく離れた実力差を覆すほどではないためです。
最善手そのものが変わるルールとなれば「駒落ち」があります。プロの公式戦でも以前「香落ち」が指されたことがあり、現在でもプロの養成機関、奨励会では棋力差がある相手と対局する場合は上手側が香車を落とすことがあります。プロの公式戦の香落ちと言えば、「名人に香を引いた男」升田幸三氏のエピソードが有名ですが、今をときめく藤井聡太七段も、奨励会時代は不慣れな香落ちに苦戦したそうです。
他のルールの違いに比べれば駒落ちはまさに「別ゲー」とも言えるのですが、実際に別ゲーと呼ばれていることを聞く事はやはりありません。駒落ち特有の指し回しがあるといっても、平手であっても変わらない元々の地力こそが重要であるという見解が、将棋指しの多くに共有されているためでしょう。
将棋以外でも完全情報である頭脳ゲームや、肉体を用いるスポーツとなると、ルールの影響がさほど大きくないものがほとんどでしょう。麻雀以外の競技を思い浮かべるとなると、麻雀打ちの多くがこのような麻雀と同等かそれ以上にメジャーなゲームを挙げるでしょうから、「麻雀はルールが変わると別ゲー」とみなす人がむしろ多数派になるのもうなずけます。
しかし、麻雀はあくまで不完全情報ゲーム。比べるのであれば完全情報ゲームではなく、別の不完全情報ゲームの方がやはりふさわしいのではないでしょうか。次回に続きます。