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第265回 ネマタの麻雀徒然草

第265回 ネマタの麻雀徒然草

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ネマタの麻雀徒然草とは
  • 『ネマタの麻雀徒然草』は、麻雀戦術サイト「現代麻雀技術論」の著者・ネマタさんによる「麻雀に関する話題を徒然なるままに書き連ねていく」コラムです。
  • 第1回はコチラ

昨今の戦術本では「ハイテイずらし」のテクニックがよく取り上げられますが、理由はもちろん、ハイテイツモ、ホウテイロンの1翻役があるため。麻雀の話をする時はハイテイ、ホウテイと略することがほとんどですが、正式名称は海底撈月(ハイテイラオユエ)・河底撈魚(ホウテイラオユイ)といいます。

撈という漢字はあまり馴染みがありませんが、意味は「すくい取る」。海底撈月は、海の底に浮かび上がる月をすくい取るの意味です。海の水をいくらすくっても月が取れるはずもないですから、元々は、「無駄骨を折るだけで全く見込みがないこと」を表す四字熟語です。

それでは、河底撈魚は、河の底の魚をすくい取るの意味だから、「簡単に出来て見込みがあること」。海底撈月と対になる四字熟語ではないかという気になりますが、実はそのような熟語は存在せず、麻雀の役として採用する際に用いられた造語です。

最後のツモ牌だから「海底」。最後に河に切られる牌だから「河底」なのは分かりますが、何故「月」に対して「魚」なのか。以前から気になっていたので、これを機に調べてみることにしたら、幾つもの意外な事実に気付かされることになりました。

・中国古典麻雀には、海底撈月はあっても河底撈魚はなかった

海底牌でアガれなかった場合、現在のルールでは打牌を行い、その牌がロン牌であれば河底撈魚のアガリになります。しかし当時のルールは海底牌でアガれなかった場合、打牌を行わずそのまま流局するのが一般的だったそうです。

・海底牌をツモった後に打牌するルールもあったが、その牌がロン牌だった時につく役の名前は河底撈魚ではなかった

では何という名前だったのかといいますと、何と「人和」!現在では第一ツモが来る前のロンアガリを意味する人和が、全く違う役の名前として用いられていました。最初のツモでアガることを親なら天和、子なら地和と言うのですから、最後のツモでアガることを、天地に対するアガリとして人和と名付けられたというのも分からなくもないですが、全くもって驚きの事実です。

・海底撈月が中国古来からある役なのに対して、河底撈魚は日本で生まれた役

大正時代、日本に麻雀が伝来した頃には、海底牌をツモった後も打牌を行うルールが主流でしたが、その時は前述の「人和」は伝来しませんでした。そのため昭和初期に結成された日本麻雀連盟では、ハイテイツモが1翻ならホウテイロンでも1翻つくべきという声が上がり、同団体の木村衛氏によって、河底撈魚と名付けられました。「魚(ユイ)」にした理由は、「月(ユエ)」と中国語読みで語呂を合わせるためだったようです。

・河底撈魚の名付け親は、実はその後、役の名前を変更しようとしていた

木村衛氏は、命名の1年ほど後に、「海女が海底から宝珠をとってきた」という謡曲「海女」の“面向不背の珠”の物語を知り、『海底撈珠』という名称へ変更しよう」と提案されました。しかしもうすでに河底撈魚という名称が定着してしまっていたので、この案が受け入れられることはありませんでした。

確かに「月」と「魚」では、それこそ月とスッポンの方がまだ対比になりそうなもの。「珠」であれば、月のように丸くて美しく、手に入れ難いものという意味合いになり、よりふさわしい名前になっているように感じさせられます。

・現在の中国麻将の「海底撈月」は、日本麻雀の「河底撈魚」の意味

河底撈魚が日本での造語となると、中国麻将では違う名前がついていることは分かりますが、何故かホウテイのロンアガリが「海底撈月」で、ハイテイツモは「妙手回春」という名称がついています。何ともややこしいですね。ややこしいと言えば、この話を調べているうちにまたしても「ややこしい」事実に気付かされたのですが、それはまた次回お話することにいたします。

この記事のライター

ネマタ
浄土真宗本願寺派の僧侶。麻雀戦術サイト「現代麻雀技術論」の著者。
同サイトは日本麻雀ブログ大賞2009で1位に。
1984年佐賀県生まれ。
東京大学文学部中退。

著書:「勝つための現代麻雀技術論」「もっと勝つための現代麻雀技術論 実戦編

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