夏真っ盛りだ。まるで気温上昇に比例するかのように、シンデレラファイトも1日ごとに熱を帯びていく。
夏の風物詩と言えば、夜空を彩る花火。
随筆家・寺田寅彦氏は、
花火の中には「序・破・急」のリズムがある
と言った。
【序】始めはゆっくりと動き出し、
【破】中ほどに激しく花を開かせ、
【急】やがて暗闇に消えて行く。
これが日本的な三段生成のリズムなのだ、と。
Best16最後の試合となったGroupB♯3を、花火に見立てて振り返っていこう。
【序】始めはゆっくりと動き出し
序盤のリズムを作ったのは、ラストイヤーの丸山奏子だった。純白の衣装に黄色の向日葵が映える。
東1局0本場、丸山はピンフのテンパイを入れると、リーチは宣言せず、親番・川上レイから1000点のロンアガリで先制。ゲームをゆっくりと動かした。
ドラ4枚・赤3枚の所在が分からないまま、前がかりな勝負はしない。牌の入れ替えによる自身の打点アップもさることながら、他家からの攻撃にも備えながら、静かに1局進める方針に決めた。
南4局までの間ずっと、こうやって先制テンパイが入り続ければ、丸山にとってあるいはもっとラクな展開になったかもしれないが…。
【破】中ほどに激しく花を開かせ
中盤でこの試合の主導権を握ったのは、自団体・最高位戦のリーグでも初昇級を決めて、心身ともに充実している梶田琴理だった。
東2局0本場に、ヤミテンで8000(ジュンチャン・イーペーコー)をロンアガリすると、
続く東3局0本場の親番で、またもやヤミテンの9600(七対子・ドラドラ)をロンアガリ。
2局連続で闇夜に大輪の花を咲かせ、SemiFinalへの道を照らしていく。南4局1本場で差し込みの判断ができたのも、この貯金が大きく生きたのだった。
東場はずっと苦しんできた川上レイだったが、自身の親番が落ちた直後の南2局1本場に、会心のアガリを決めた。最初の仕掛け出しから、さらにライバルの手組みも同時に紹介するので、この観戦記のメインだと思って読んでもらえたら。そら、花火が上がるぞ。
ドーン!バババ!ドドーン!ババババ!
川上は、まず役牌のから仕掛けた。トップ目とは21900点もの大差がついているが、2着でも勝ち抜けられるこの♯3なら、と積極的に動いていく。2着目まではわずかに2000点差のラス目で、アガリの価値が高い。のんびり見てはいられない。
これに呼応したのが、2着目の廣岡璃奈。字牌をたっぷり抱えつつ、のポンから積極的な仕掛けで、ソーズに向かう。
廣岡は、牌効率マックスに受けると、カンを引き入れてテンパイ。待ち牌はとのシャンポンになった。
廣岡にテンパイが入った後、川上はようやくイーシャンテンに漕ぎ着ける。しかし、このイーシャンテンは、まだ仮初の姿だった。
一般的に、上家とホンイツの色が被ってしまうと、自家は不利になってしまうことが多い。チーしたい牌が出てきにくいし、同じ牌に対してロンすることになった場合、頭ハネで競り負けてしまうからだ。
しかし川上は、カンをチーすると、ピンズの両面ターツを払ってソーズにねらいを定め、
最後は廣岡と同じ待ち牌であるラスト1枚のを、力強く引きつけた。白・ホンイツ・赤の2000・4000は2100・4100で、ラス目から一躍2着目に駆け上がる。
もう1回、仕掛け出しを見てもらいたい。まさか、これが満貫に化けるとは。そして、廣岡のアガリ牌を2度に渡って奪い取ることになろうとは。
試合後のインタビューで、川上が真っ先にに手を伸ばしたのには、こういう背景があったわけだ。
【急】やがて暗闇に消えて行く
南3局0本場以降は、廣岡が意地を見せた。つまり、「序・破・急」のリズムが一瞬途切れたことになる。牌の並びが1つ違えば、「急」ではなく、オーラスに一際大きな「破」が見られた可能性もあった。
南2局1本場で、川上が満貫をツモった余韻さめやらぬ中。廣岡は南3局0本場、ロンで、リーチ・ピンフ・赤の3900をアガり、2着目の川上をその視界にクッキリとらえると、
続く南4局0本場の親番で、一気通貫確定・ドラ1内蔵のリーチ。このカンが山に3枚眠っていた。廣岡に、最後の一波乱を起こすラストチャンスがやってくる。
出アガリの12000はもとより、一発でツモって6000オールになることもあるのが麻雀なのだが、は
川上の手に2枚(合計3枚)、
最終盤、梶田の手に1枚渡って、廣岡のリーチは水泡に帰した。まったく、牌の巡り合わせが悪かったとしか言いようがない。
廣岡にとって、無念で痛恨の流局。一軒テンパイで1000点ずつ受け取るのだが、もしこれが4000オールや6000オールだったら…
南4局1本場は、川上が試合後のインタビューで「梶田さんなら(私のリーチを)役なしだって分かってくれると思って…。」と語ったリーチに対し、
そうはさせじと、親番・廣岡が、カン待ちリーチで追いかける。これで梶田が打てる牌のバリエーションがグッとせばまった。よもや親に放銃するわけにはいかない。
しかし、「序・破・急」のうち最後の「急」は、文字通り唐突にやってくる。
■2着目の川上に対してなら、12000は12300まで放銃できる
■3着目の廣岡には連荘されたくない
そんな思惑を持つ梶田の手元にやってきたのは、廣岡の現物で川上には通っていない。
梶田がこれを打つと、川上が牌を倒す。阿吽の呼吸だ。♯1・2ではあまり見られない、2着抜けトーナメント特有の差し込みは、こうして鮮やかに決まったのだった。
ラストイヤーの丸山奏子は、自らの気配を消して後輩たちの闘牌を見守り、大きな花火を仕込んでいた廣岡璃奈は、それを披露することなく、ともに会場に一礼して踵(きびす)を返した。
Best16GroupB♯3で、トップを獲得した川上レイと、同2着の梶田琴理は、SemiFinalへとコマを進める。激闘を制し、緊張から解放された梶田のインタビューでは、感極まって思わず涙ぐむシーンも見られた。
「勝ち負けだけ決めるんだったら、ジャンケンでも何でもいい。」と言ったのは、将棋の羽生善治氏。
スッと身を引いてくれる先輩がいて、最後の一牌まで諦めない後輩がいて、震えるほど怖い牌を河に並べて、分の悪い勝負をめくり勝って、初めてSemiFinalが見え、Best8が出そろった。対局者も、視聴者も、一牌に思いを馳せ、全力で過程を楽しむ。麻雀は最高の頭脳スポーツだ。
1週間のインターバルをはさみ、次はいよいよ8月16日(金)、ABEMAでのSemiFinalとなる。大時計の短針は11から12へゆっくりコチコチと、長針は猛スピードでビュウウウっと、物語の結末に向けて動き出している。
次はどんな色鮮やかな花火が見られるのだろう。今からワクワクが止まらない。
Day6 Best16 GroupB 結果レポート
#1,#3観戦記
彩世来夏が見据える先には【Best16 GroupB ♯1 担当記者・坪川義昭】
天使にふれたよ!【シンデレラファイト シーズン3 Best16 GroupB ♯2 担当記者・坪川義昭】