セガサミーフェニックス・魚谷侑未プロは、Mリーグ2019で個人MVPに輝いたが、チームは優勝できなかった事実を真摯に受けとめている。「最終戦で自分が対局して、優勝に届かなかったという事実が重くて。応援してくれた方も、おめでとうと言いにくかったと思うんです」と常にファンありきで行動する魚谷プロの根幹にあるものとは?
騎手を断念し、目標を失う
小学校でミニバスケットボール、中学校で卓球、高校では陸上と運動も勉強もそつなくできるタイプだった。日曜日になると競馬好きな父と一緒に競馬番組を見ていた。その影響で、競馬漫画「風のシルフィード」を読み「私も漫画の主人公のように夢を与えられるような仕事がしたい」と騎手に憧れた。
その夢を叶えるべく、中学3年生の時に競馬学校を受験したが思いは届かず、新潟県柏崎市の地元の高校に進学した。「でもやっぱり諦めることが出来なかった」と高校卒業後、競馬学校に再チャレンジするため、山形県にある乗馬倶楽部の研修生となった。同県に住んでいた祖母の家に身を寄せ、馬の世話をしながら日々厳しい練習に取り組んでいたが「どうしても落馬してしまう」という現実と体重制限に伴う減量という孤独な戦いに苦しんだ。徐々に「自分には向いていないんじゃないか」と己を疑うようになり、思い悩んだ末、1年後に騎手の道を断念した。
やりたいことがみつかった喜び
地元に戻り、様々なアルバイトをしながら新たな道を模索していたが、心の中にぽっかり空いた穴が埋まることはなかった。
そんな頃、友達から連絡があり、その子が働いていた麻雀店に行ってみた。麻雀の存在は知ってはいたが、興味があったわけではなかった。「打ってみる?と教えてもらいながら始めたその瞬間、私、麻雀やりたいと思ったんです」と魚谷プロの目は一瞬で輝きを取り戻した。「すぐ夢中になっちゃいました」とその日のうちにその店で働くことも決めた。
やりたいことがみつかった喜びは、新たな活力を与えてくれた。
21歳で麻雀に出会ってからは、すべてに前向きになった。「もっと勉強したい」と新潟市にあった麻雀店にも通うようになった。そこで麻雀教室をやっていた講師から「そんなに好きならプロを目指してみたら」と言われ、日本プロ麻雀連盟のプロ試験を受験。6カ月間の研修を経て、1年後にプロ入りした。
「研修期間は本当に劣等生だった」という自覚があったため、働いていた麻雀店でも日々の成績を記録し、麻雀を始めてから3年目には、平均着順2.2台をキープできるようになった。
自分に自信を持てるようになった魚谷プロは、同団体の女流プロナンバー1を決めるリーグ戦「女流桜花」で優勝することを目標に据えた。
そして2011年「自分の麻雀を打ち切って結果を出す」と決定戦に残り、女流桜花のタイトルを獲得した。念願のタイトルを取れたのは必然があったと笑う。「すごく好きだった人にフラれて、もう自分は麻雀勝つしかない。絶対強くなってやるという反骨精神があったんですよね」
しかし目標達成後、バーンアウトした。いわゆる燃え尽き症候群だ。「タイトルを取ることだけを目標としていたので、以降1年間は目標がわからなくなってしまったんです」と新たな壁が立ちはだかったが、己を信じ抜き、再び前を向いた。「最終的には自分がもっと上のフィールドで戦えるように結果を出し続けるしかない。もっともっとたくさん勝つしかない」と主戦場とするリーグ戦で勝ち上がることを新たな目標に据えた。
気持ちが入っていかないと集中したいい麻雀は打てない
気持ちをリセットし、具体的な取り組みも始めた。「対局後、何がダメだったのかをノートに書き出し、ブログに牌姿を書いたり、人に意見を求めたりしました」と自分の弱点を洗い出した。
さらにプロ入り当初から自覚していた「うっかりミスが多い」というウイークポイントは、試合直前に瞑想する時間を持つようにして克服した。「気持ちが入っていかないと集中したいい麻雀は打てないので、対局前に麻雀を思う時間というか、試合に向けて心を整える時間を作るようにしています」と1戦1戦、どんな対局でも大切に打つことを心がけた。
そして2012年には女流桜花を連覇。同年、女流モンド杯では初出場で初優勝。モンド王座に駒を進めると、オーラスで劇的な逆転優勝を決め、栄えあるモンド王座も獲得した。
最後まで諦めずに戦い続けるその姿は、観る者を魅了し、2018年にはセガサミーフェニックスからドラフト1位指名を受け、Mリーグ2019では個人MVPにも輝いた。
理想のプロ像を追い求めて
信条は「応援してくれている人より先に諦めない」。「私が先に諦めてしまうと応援してくれる人が応援しがいがなくなると思うからです。応援してくれる人のことを思って戦えば、諦めない気持ちを保つことができます」と実際、明らかに不利と思われるような条件をものともせず、逆転優勝を決めた対局をいくつも経験している。
このように、ファンあってこそのプロ活動だとより明確に意識するようになってからは「人間としてしっかりすることが一番大事」と考えるようになった。
だからこそ、応援してくれるファンに対する感謝の気持ちはきちんと伝えたいと思っている。「恋人同士のように言わなくてもわかるでしょではなく、言ってこそわかる部分もあるので、ファンの方や周りの関係者にも伝えられる自分でありたい」と日常から、模範とされる存在になることこそプロフェッショナルだと考え、人間としての成長を生涯の目標に据えた。
騎手を断念した経験があったからこそ、拓けた麻雀プロという世界。「自分に何もないと思っていたので、自分が輝ける人生の宝物がみつかってよかった。麻雀は素敵なものなので」とこれからも麻雀ありき、ファンありきで、誰かの心に響く対局を創造し続けるだろう。
魚谷侑未(うおたに・ゆうみ)プロフィール
生年月日:1985年11月2日
出身地:新潟県柏崎市生まれ
血液型:B型
愛称:最速マーメイド
勝負めし:とくにないけど、お寿司は好き
主な獲得タイトル:第6・7期女流桜花、第10・12回女流モンド杯、第9・11・12回モンド王座 、第16回日本オープン、女流プロ麻雀日本シリーズ2018、第44期王位
著書:「ゆーみんの現代麻雀が最速で強くなる本」(鉄人社)、「麻雀が強くなるための心と技術」 (竹書房)
年 | 歳 | 主な出来事 |
---|---|---|
1985 | 1歳 | 二人姉妹の姉として新潟県柏崎市で生まれる |
1999 | 15歳 |
競馬学校を受験するも不合格となり、地元の高校へ進学 |
2003 | 18歳 | 高校卒業後、山形県にある乗馬倶楽部の研修生となる |
2004 | 19歳 | 競馬学校再受験を断念する |
2006 | 21歳 | 麻雀と出会う |
2007 | 22歳 | 日本プロ麻雀連盟25期生としてプロデビュー |
2011 | 25歳 | 第6期女流桜花 |
2012 | 26歳 | 第7期女流桜花、第10回女流モンド杯、第9回モンド王座 |
2014 | 28歳 | 第12回女流モンド杯、第11回モンド王座 第一回リーチ麻雀世界選手権・女性最優秀賞受賞 |
2015 | 29歳 | 第12回モンド王座 |
2018 | 33歳 | セガサミーフェニックスよりドラフト1位指名を受ける。女流プロ麻雀日本シリーズ2018、第44期王位、第16回日本オープン |
2019 | 34歳 | Mリーグ2019準優勝&個人MVPを獲得 |
2021 | 35歳 | 結婚 |
◎写真:佐田静香(麻雀ウォッチ) 、インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)