2023年5月、将棋界の最高段位に昇り詰めた鈴木大介九段は、日本プロ麻雀連盟に電撃入会し、将棋と麻雀の二刀流プロを宣言。さらに同年7月に行われた「Mリーグ2023-24ドラフト会議」でBEAST Japanextからドラフト指名され「Mリーグ」という新たな勝負の舞台にも挑戦している。鈴木大介プロとは一体どんな人物なのか?
映画『麻雀放浪記』に魅了された小学2年生
大介プロが麻雀に惹かれたのは小学2年生、7歳の頃だった。「鹿賀丈史さんと加賀まりこさんが出演していたモノクロ映画『麻雀放浪記』を観て、その面白さに魅了されました。すぐに『麻雀放浪記』の小説も読んだら、著者の阿佐田哲也さんにハマって『雀鬼五十番勝負』も読みました。麻雀を覚えたのは8歳の時なので、当時は麻雀自体まったく知らなかったんですが、今考えればルールや役を知らなくても面白いと思わせるところはすごいですよね」
小学3年生8歳の時、父から人生の選択を迫られプロ棋士の道を決断
水泳と野球に明け暮れていた8歳だった頃、父からいきなり人生の選択を迫られた。「お前もそろそろ高学年になるんだから手に職をつけろ。野球のプロになるか、将棋のプロになるか、今ここで選べと言われたんです」
大介プロにとって父は絶対的な存在だった。「父からはとにかくなんでもいいので手に職をつけなければうちにはいさせないと言われました。野球は友達とやるのが楽しかっただけで、プロ野球選手になりたいと考えたことは一度もなかったので、将棋のプロの道を選んだというか選ばざるを得なかったんですよね」と父の剣幕に押され、翌日から毎朝4時に起床し、将棋の勉強を毎日10時間、1日たりとも休まずに約3年間続けた。そして小学5年生、11歳の時に将棋のプロ養成機関である奨励会に入会した。
奨励会時代、麻雀の師と仰ぐ“雀鬼”こと桜井章一会長と出会う
勝ち上がらなければ生き残れない奨励会時代。壁にぶつかり、行き詰まっていた時期。“雀鬼”こと桜井章一会長が主催する雀鬼会道場を知り、通うようになった。「将棋は好きで指していたわけではなく、手に職をつけるための手段だったので、相手を蹴落としてまで勝っていくことにどんな意味があるのか。わからなくなって行き詰まった時、雀鬼会道場の門を叩いたんです」と、のちに麻雀の師と仰ぐことになる桜井会長と出会い、麻雀と真摯に向き合った日々は心の救いでもあった。
雀鬼会道場では“利他の心”を学び、勝負に挑む心構えを立て直すことができた大介プロは、20歳でプロ棋士デビューした。

対局日が増えたことによって変わったことは?
将棋の最高段位、九段にしてMリーガーとなったのは大介プロが史上初となる。「将棋は年間約40局。週に一度の対局にすべてを注ぎ込んできましたが、二刀流になってからは年間約100日ほど麻雀の対局日が加わり、単純計算年間140日、3日に一度は将棋か麻雀の対局という過密スケジュールになりました。対局日以外は将棋と麻雀の研究会などに時間を使っていますが、相対的に将棋の勉強時間は大きく減っているので、移動時間を活用したり、朝起きた時と夜寝る前に詰将棋を1時間ずつやることをルーティンにしています。詰め将棋は自分では解けないような難しい問題に時間を使って取り組むというスタイルで、解くことが目的ではなく、考えることが目的のトレーニングとして行っています」
プロ入り後、麻雀観に変化はありましたか?
アマチュアだった2019年、麻雀最強戦2019に著名人枠で出場し優勝。以降、プロになってから出場した麻雀最強戦2023まで、5年連続ファイナルまで勝ち上がった。「Mリーグも日本プロ麻雀連盟のリーグ戦でもなかなか思い通りにはいきませんが、こじんまりとした麻雀だけは打たないことだけは心がけています。ただ打てば打つほど、しっかり打てている自信はついて来ているので、この調子で続けていけば、そのうち結果もついてくると思っています」
二刀流になってから日常生活で意識していることは?
二刀流宣言前の6年間、日本将棋連盟では理事を務めていた。「理事時代は毎朝8時起床、9時半に日本将棋連盟に行き、メディア対応やクライアントさんとの打ち合わせなど、将棋に関する様々な裏方仕事を請け負い、だいたい夜10時頃に帰宅していたので、8時間睡眠は確保していました。二刀流になってからも毎朝8時起床、8時間睡眠という生活スタイルは変えていません。そんな中、新たに始めたことは週2回、キックボクシングジムに通うようになったことです。あらゆる対局で集中力を持続するためには、やはり体力が必要なんで」

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チームで競い合う「Mリーグ」。参戦してから感じていることは?
Mリーグ2023-24シーズンから新規参戦しているBEAST Japanextは、猿川真寿キャプテンを中心に、ドラフトオーディションで勝ち上がった菅原千瑛プロ、元乃木坂46の中田花奈プロ、そして大介プロという日本プロ麻雀連盟に所属する4選手で編成されている。「将棋では個人戦しか経験がなかったので、チームで勝つ喜びを知りませんでした。Mリーグでチームメイトが勝つと自分が勝った時と同じように喜びを感じられることに気がついてからは、チーム全体として頑張って勝っていきたいという気持ちが強くなりました」
BEAST JapanextのチームオーナーであるBS放送局「BSJapanext」では、毎週水曜夜10:00~11:00まで『MリーグNo.1への道 BEAST ROAD』という番組を生放送している。「Mリーグの控え室でもよく話し合っていますが、毎週水曜日の番組出演時にも、前週の試合を全員で見返しながら、疑問点や気になったことをお互いに話し合ったりしています。さらにチーム練習は月1回、Mリーグルールで半荘4回、感想戦も入れながら実戦形式で行っています」とコミュニケーションが自然に取りやすい環境もチーム力アップにつながっているようだ。

好きな映画、好きな本は?
アニメ監督だった父からは、小学生の頃から映画を1日3本見るなら学校を休んでもいいと言われていた。「黒澤明監督映画をはじめ『風と共に去りぬ』や『ローマの休日』など、映画は幼少期からよく見ていました。小学生の頃は俳優の加藤剛さん(享年80)が好きだったので、主演されていた『砂の器』は何度も見ました。奨励会に入会した11歳の頃は映画『ロッキー』に感化され、ウォークマンでロッキーのテーマソングを聴きながら、絶対勝つんだと自分に言い聞かせて対局に臨んだこともありました。最近はアニメをよく見ていて『四月は君の嘘』という天才ピアニストの話は良かったですね」と映画から訓示を受けたものはかなりあるとのこと。
読書家でもあり、ドキュメンタリー小説や推理小説を好んでよく読んでいる。「百田尚樹さんの『「黄金のバンタム」を破った男』や沢木耕太郎さんの『一瞬の夏』はとくに好きですね。ボクシングは試合に臨むまでのボクサーの苦しみが、感情移入しやすいというか将棋に通じるものがあるんですよね。推理ものだとイギリスの小説家ディック・フランシスの競馬シリーズが大好きなんですが、騎手の感情も棋士に通じるものがあるのかもしれません」
“観る雀”ファンに伝えたい大介プロの麻雀とは?
新語・流行語大賞2023にもノミネートされた将棋を観戦して楽しむ“観る将”同様、麻雀を観戦して楽しむ“観る雀”も年々増加している。「打っている時は、ラクしたいところでも歯を食いしばって我慢して、一歩前に出る。どんなに苦しくても勝負を投げ出さず、半歩前に出る。自分が勝つために全力を注いでいるんですけど、そこは一番見てほしいところかもしれません。決して勝負の舞台から降りず、弱い気持ちを乗り越えて前に出るのが自分の麻雀なので、この人頑張っているなと伝わるような自分の人間性がにじみ出る麻雀を、これからも打ち続けていきたいと思っています」

◆取材:福山純生(雀聖アワー)
鈴木 大介(すずき・だいすけ)プロフィール
生年月日:1974年7月11日
出身地:東京都
段位:日本将棋連盟九段 日本プロ麻雀連盟五段
血液型:A型
所属団体:日本将棋連盟、日本プロ麻雀連盟、BEAST Japanext
キャッチコピー:二刀流ブルドーザー
将棋獲得タイトル:「第15回早指し新鋭戦」「第49回NHK杯戦」
将棋大賞:第24回勝率第一位賞・連勝賞・新人賞、第27回敢闘賞、第32回升田幸三賞
麻雀獲得タイトル:「麻雀最強戦2019」優勝
出版書籍:『将棋と麻雀。頭脳戦の二刀流 49歳からの私の挑戦』(ART NEXT)他
▼YouTubeチャンネル二刀流・鈴木大介【 Dの流儀 】配信中
年 | 年齢 | 主な出来事 |
---|---|---|
1974 | 0歳 | 2人姉弟の長男として誕生 |
1983 | 8歳 | 小学3年生でプロ棋士になることを決断 |
1984 | 9歳 | 中央大学将棋部の夏合宿に参加し、麻雀と出会う |
1986 | 11歳 | 小学生将棋名人戦 優勝 奨励会入会 |
1987 | 12歳 | 初段昇段 |
1994 | 20歳 | 四段昇段、プロ棋士デビュー |
1996 | 22歳 | 早指新鋭戦 優勝 第24回勝率第一位賞・連勝賞・新人賞受賞 |
1999 | 25歳 | NHK杯 優勝。第27回敢闘賞受賞 |
2004 | 30歳 | 第32回升田幸三賞 |
2017 | 44歳 | 九段昇段、日本将棋連盟常任理事に就任 |
2019 | 46歳 | 麻雀最強戦2019 優勝 |
2021 | 47歳 | 麻雀最強戦2021「著名人最強決戦」優勝 |
2022 | 48歳 | 麻雀最強戦2022「男子プロ王者の帰還」優勝 |
2023 | 49歳 | 日本将棋連盟常任理事を退任 日本プロ麻雀連盟入会 BEAST Japanextよりドラフト指名 麻雀最強戦2023「最強レジェンド決戦」優勝 |