4年連続でこのシンデレラファイトを彩っている高島芽衣・成海有紗に、昨年のシーズン3予選Finalで涙を飲み、今年初めて本戦を戦っている内村翠・松浦真恋の新鋭が挑む。
先手を取り、このSemiFinal♯1の主導権を握ったのは高島だった。
東1局0本場にいきなりジュンチャンをテンパイすると、タンキで即リーチを決断。
松浦から8000を打ち取って、Final進出を大きく手繰り寄せる。
高島は東3局0本場にも、場風のを暗刻にしたテンパイを入れると、またもや即リーチすると、
を一発でツモアガリ。2000・4000を加点した。
高島の独走に待ったをかけたのは内村。東4局0本場の親番で、ダブドラのを生かした、ピンフ・赤赤・ドラの手を、5巡目にリーチ。
東3局の高島同様、ダマテンでの小さな加点ではなく、6000オールツモをねらった前がかりな攻撃を見せた。
成海のトイツ落としをとらえて12000の出アガリ。
こうして、トップでのFinal進出をねらう高島・内村、ラス回避したい松浦・成海の構図ができ上がった。
しかし、それが崩れたのは、南3局0本場。
親番の松浦が、リーチ・ドラ・赤赤の12000を高島から出アガリ。トップ目は内村に、ラス目は親番のない成海が押しつけられる形になる。
ところで、このシンデレラファイトではないものの、別の麻雀大会において、持ち時間制が導入されるというニュースが、先日麻雀界を駆け巡った。1人の持ち時間は6分だという。
ラス目の成海有紗が、南4局1本場の勝負所1手番で使った時間は、実に2分13秒98だった。1半荘、ではなく、1局、でもなく、1手番、だ。1牌持ってきてから、1牌切るまでの時間。込められた夢・希望・読み・恐れ・不安・葛藤。成海が麻雀を始めてからの6年間が、ギュッと詰まった134秒間。
麻雀というテーブルゲームにおける、命懸けの選択が、そこにはあった。
【南4局1本場】
東家・内村翠 42600
南家・成海有紗 2800
西家・高島芽衣 35100
北家・松浦真恋 19500
事前インタビューでは
「みんなにドキドキさせないぞっ。」
とグーを握って見せた成海が、多くのファンの心臓をわしづかみにし、本人も悩みに悩み抜いた名シーンを紹介しよう。
南4局1本場、まずタンキのチートイツで先制リーチをかけたのは松浦。
をツモって裏裏を乗せれば、倍満ツモで、子の高島とは20400点、親の内村とは24400点変わる。つまり、一躍トップに立って、この♯1を通過できる計算だ。ラス目の成海とは16700点差あるし、ここは一攫千金をねらう。
その時、成海の手牌はこの通り。
ドラがなので、ジュンチャン・三色同順・ドラドラなどを目指した手組みにしていたが、実はこのとき松浦から出たリーチ棒で、少し条件が緩和されていた。
次に追いかけリーチを宣言したのは高島。
松浦からリーチ棒が出たことにより、リーチ・チートイツ・赤の6400は6700で、どこから出てもトップ目の内村をかわせるようになった。決してタンキに自信があったわけではないだろうが、松浦同様リターンが大きいと見て、勝負のリーチに踏み切る。この
が山に2枚あった。
2800点持ちでラス目の成海は、失うものが何もない。そんな中、最後のチャンスが訪れる。筆者は、スマホをストップウォッチの画面にした。
このとき成海が思い描いていたのは、2つのエンディングだった。
【case1・跳満ツモによるラス抜け】
画像下の点棒表示は
松浦真恋 19500
となっているが、松浦はリーチ棒を出しているから、この時点で点箱には18500点あることになる。成海が3000・6000は3100・6100をツモると、松浦は15400点だ。一方、成海は2800点持ちだから、跳満をツモって12300を加点すると、15100点。ここに、松浦と高島のリーチ棒が加わると、17100点で、逆転となる。
【️case2・満貫直撃によるラス抜け】
上のcase1同様、松浦の点箱には18500点あり、ここから8000は8300を直撃すると、松浦は点棒を吐き出して10200点に。一方、成海は2800点持ちに8300を加点すると、11100点。これだけで逆転しているが、さらに松浦と高島のリーチ棒を加えて13100点だ。これまたラスを免れることとなる。
成海有紗は協会20期前期で、関東と関西で分かれているものの、筆者の同期だ。
4年前の、シンデレラファイト・シーズン1・DAY2では、オーラスにかけたリーチが物議を醸したこともあった。逆転条件が残っていなかったのだ。アガリにならなくて本当によかったと、当時は筆者も胸をなでおろしたものだ。
その後成海は、第15期雀王の角谷ヨウスケさんに師事し、協会関西本部の仲間たちとともに、質・量ともに最高の環境で麻雀の勉強を積み重ねてきた。
もし打とすると、高島のチートイツに当たり。しかし、山に残っている枚数を考えると、
の場況がよく、
は自身で2枚使っている、いわゆる中ぶくれの形だ。積極的にアガリを取りにいくなら、打
となるだろう。
自身のアガリだけを真っ直ぐに考えるなら、打とするのがマジョリティで、我々視聴者はその先の世界を見ることはできないはずだった。
133秒98もの時間が経ったあと、成海の口から「リーチ。」の発声とともに放たれた牌は、ではなく
。まずは、1つ目のハードルである放銃回避をクリアだ。
2つ目のハードルである、ラス牌のを引きにいく。
麻雀において「たられば」は御法度だが、松浦が一発でをつかむと、
(なんでタンキにしなかったんだよ!)
(いや、打してたら高島に放銃じゃん!)
筆者はもう、気持ちが、追いつかない。スクショを撮る手は震え、全身がじんわりと汗ばむ。
を見る成海を、スイッチャーが機敏にねらう。
そこには、明らかにクラッときている成海の表情があった。
(いやいやいや、後悔しないでくれ!)
(タンキ選んでたら、リーチ宣言牌がつかまってるから!)
本当に、気持ちが、追いついてこない。自分が自分じゃないような。
高島と成海が、それぞれの悲願達成のために欲した、山にたった1枚のは、ついぞ最後まで姿を見せなかった。松浦も含めた三者痛み分けの流局で、熱戦にピリオドが打たれる。
開かれた成海の手を見た高島の表情がとてもよかったので、最後に1枚だけ使わせてもらいたい。見てもらいたい。
(へぇ、止めたんだ。やるじゃん。)
(May’sBar入るの遅くなるけど、♯3頑張るかー。)
という感じだろうか。
勝手にアテレコしてごめんなさい。
SemiFinal♯1でトップを獲得した内村翠は、8人の中で1番最初にFinal進出を決めた。内村は、BEST32・BEST16ともにトップで通過しており、次戦のFinalは5連勝でのパーフェクト優勝がかかる。達成すれば、もちろんシンデレラファイト初だ。
2着の高島芽衣と3着の松浦真恋は、♯3に回り、Final行き最後の切符を争う。トップが必須だった今回とは異なり、今度は2枚あるから、しっかりつかんでもらいたい。
ラスの成海有紗は、ここまで。麻雀プロとして、シンデレラファイトとともにここまで成長してきた成海だが、Finalを前に矢折れ刀尽きた。
次は8月15日(金)19:00〜、今回と同じくABEMAでのFinalとなる。
この夏最後に打ち上がる花火を、太陽に向かって気高く咲く向日葵を、ガラスの靴を手にするシンデレラを、みんなで一緒に見届けよう。
#2,#3観戦記
ダブル遥(はるか)対決の決着【シンデレラファイト シーズン4 SemiFinal #2 担当記者・神尾美智子】
お咎めなしの二人が目指した頂【シンデレラファイト シーズン4 SemiFinal #3 担当記者・坪川義昭】