麻雀を打つことを、「卓を囲む」ともいいます。
「囲む」という言葉には、4人で一つの空間をつくる語感がありますね。
麻雀の本質をいいあらわした、味わいのある言葉だと感じます。
国際交渉にかかわる人は、「バイ」と「マルチ」という言葉をよく使うそうです。「バイ」はbilateral(バイラテラル)の略。日本と米国、日本と中国のような二国間の関係をいいます。「マルチ」は3カ国以上のやりとりです。後者の方が、各国の思惑や利害がからみあい、複雑になります。
これにならえば、麻雀卓のうえでは、常にマルチ外交が繰り広げられています。
盤面上のプレーヤー同士を結ぶ線は、2人のゲームではA=B間の1本だけですが、麻雀はA=B、A=C、A=D、B=C、B=D、C=Dの6本あります。他家が別の他家からアガり、自分はプラスもマイナスもない局も多いです(点棒が横に動くイメージから、横移動といいます)。局面によっては、4人のうち、2人ないし3人が力をあわせて戦った方が有利なときも生じます。前の局では協力関係にあった2人が、次局は一転してライバルになることも珍しくありません。戦況に応じて、盤面上の関係性がめまぐるしく変わることも、醍醐味の一つです。
プレーヤー同士の関係をつくる要素の一つが、座順(誰がどこの席に座るか)です。
親しい仲間内で長く打っていると、「この人の下家になると、鳴かせてくれないからなあ」という会話で盛りあがることがあります。チーは上家からだけできるので、上家にどんなタイプの人が座るかは、ポイントになるのです。
座順は、フリーの麻雀店などでは、その時空いた席に案内されることも多いですが、4人で新たに始めるときは、場所決めをします。

席と親が決まり、東1局で親を務める人を「起家(チーチャ)」といいます。
起家は開始早々の親で高い手をあがると、一気に主導権を握れる魅力があります。競馬でいえば、先行逃げ切りの勝ちパターンに持ち込みやすいのです。
時間打ち切りやトビ終了があると、半荘が途中で終わることがありますが、起家は親が2回まわってくる可能性が最も高く、その点でも有利です。開局時に西家や北家だと、南場の親がまわってこないことも多いです。
必ず南4局まで行うルールでも、起家には、南場の親で無理をしなくて良いメリットがあります。
大敗するときに多いのは、
1 東場で失点して劣勢になる
2 南場で自分が親のときに「ここであがらねば負ける」と焦る
3 他家からリーチなどをされても、「行くしかない!」と無理をして、振り込んでさらに失点する
というパターンです。
しかし起家は、南1局の自分の親が流されても、まだ最低3局(南2局~オーラス)あります。無理をせずに、じっくり反撃の機会をうかがう選択肢もあるのです。
一方、開局時に北家になった人(ラス親)はどうでしょうか。
ラス親の魅力は、最後の南4局(オーラス)に主導権をとれることです。
いくら劣勢でも、オーラスの親でアガり続ければ逆転できます。
自分がゲームを終わらせやすいのも、ラス親の強いパワーですね。
アガリやめがあるルールだと、安くても、とにかくアガってトップになれば終わりにできます。
アガリやめの有無にかかわらず、自分がトップなら、安全に進めてノーテンで流局にすれば、半荘が終わり勝利を確定できます。
(ただし2着の人が1人テンパイだと、テンパイ料の3000点を得て、自分は1000点失うので、あわせて4000点縮みます。ノーテンで終わらせて確実にトップをとるには、2着との差が4100点以上必要です)
「麻雀の匠」の動画で、サイバーエージェントの藤田晋社長(Mリーグチェアマン)が登場する回では、ラス親として理想的な展開が見られます。
オーラスの親を迎えた時は18300点持ちで厳しい状況です。
(東風戦なので、東4局がオーラスになっています)
しかしここからアガリを重ね、最後は2着に大差をつけて勝利します。
【麻雀の匠】藤田晋#7
【麻雀の匠】藤田晋#8
【麻雀の匠】藤田晋#9
【麻雀の匠】藤田晋#10
最終回の#10では「勝負せずノーテンで牌を伏せて終わらせる」という明確な方針を見られます。途中で高い手になりかけますが、ぶれることはありません。中途半端にアガリに行くと、2着目に放銃してトップをとれないリスクが高いからです。ぜひ参考にしてみてください。
起家やラス親には、以上のようなメリットがあるので、統計をとると、ほかの座順より少し成績がよくなることが多いようです。長く打っていると、「自分はこの座順と相性がよい」という好みの席が出てくるかもしれません。一定期間、自分がどの座順で何着になったかを記録し集計してみると、傾向がわかって面白いと思います。
次回は「残りの局数を確認しよう」をお届けします。