「あーっ!どうして!」
「かじりさ」こと梶梨沙子は、反省会の場で拳を振り下ろし、笑いを誘った。ともすれば湿っぽくなりがちな反省会を盛り上げ、自らの対局を振り返りたい。今日の反省を、明日以降の麻雀につなげたかったのだ。
「YouTubeで牌譜検討とかもしたくて…。」
というかじりさの願いを叶えるべく、筆者はこの記事で「観戦記」という体裁をいったん捨て、彼女の言う場面を再現した。
かじりさ、ここで牌譜検討やろうぜ。
かじりさ「牌姿は、サシゴチパピン、ササシソウ、チチクソウ、サシマ/」
それじゃあ伝わりづらいですね。上の画像を見てください。
四分割した左上が上家の齋藤で、今を切ってきたところだ。
かじりさは左下で、確かにを受けるターツがある。チーしてタンヤオ・赤のイーシャンテンに受けるか、スルーしてツモ
もOKの門前テンパイを目指すか、判断が分かれる10巡目。
かじりさ「がいいと思ってて…。でも巡目が…。」
どれどれ、枚数を数えてみよう。これまたかじりさの言う通り、齋藤がツモ切った以外の7枚は、すべて山に眠っていた。それなのに、引けない。悪い夢を見ているようだ。
試合後、彼女の父親がLINEで送ってくれた「あんなにツモが悪くては勝てません誰がやっても」の中には、この場面も含まれていたのだろうか。
読みは、合っていた。しかし、ツモが利かなかった。
パパ、見てくれてたんだ…。
【Final進出を誰かに電話で伝えてください】
という企画で、かじりさは父親を選んだ。
高島・齋藤は麻雀プロである友人に、内村は麻雀プロではない友人に電話をかけたことを考えると、思い切った決断にも感じる。
「優勝したら賞金が出るから、うなぎを食べに行こう。」
と笑うかじりさの目は、カメラを意識することなく、パパと娘のそれだった。おじさんは、こういうのに弱い。私はちょっと泣いた。
(娘もいいもんだな…。)
息子しかいない筆者が、自らの人生に思いを馳せていたところ、そうとは知らないかじりさは、今度は何やら眼光が鋭い。
「しょあちゃんがリーチかけて、芽衣ちゃんが…チートイで倍満アガった局なんですけど…。」
東4局0本場ですね。画像を準備します。
四分割した左上が、上家・齋藤の6巡目で、カン待ちの先制リーチをかけていた。
右上の高島が8巡目にチートイツで追いつき、タンキで追いかける。ドラドラ赤の勝負手だ。
左下のかじりさは、二軒リーチにはさまれ、ツモを引き入れて、何か1枚切らなければならない。
この時はどんなこと考えてたんですか。
かじりさ「めいちゃんの河がかなり変則手ぽかったので、切りは微妙でした。私は
がトイツで、めいちゃんの中スジだったし、しょあちゃんは
切りリーチで、その前に
が切れてて、なおかつ
から
に固定する打ち方は、場に
が1枚、
が3枚切れてることから可能性が薄いので、この
はかなり通りそうなんですよ。」
これが「オタク特有の早口」というのだろうか。かじりさの麻雀愛が止まらない。
一応確認のために補足しておくが、この時切ったが放銃牌になったわけではない。
を切っていればアガリがあった、というわけでもない。純度100%のただの反省の弁だ。
◾️今後同じような場面になった時、チートイツの待ちごろであるで放銃しないために。
◾️今後同じように二軒リーチにはさまれた時、2枚あるを切ることで余裕をもった進行ができるように。
かじりさは、とにかく真っ直ぐ前だけを見据えていた。麻雀の話が、したかった。
かじりさ「(牌に)遊ばれてるぅ。」
一見楽しんでいるようにも見えるように、頭を抱えて見せたのは、♯1南4局0本場、
用意した画像は、すべてかじりさの手牌で、
左上・ツモでテンパイ
左下・打リーチ
右下・一発目のツモ
右上・16巡目にツモ
となっている。どうか、彼女の話を、聞いてあげてほしい。読んでほしい。
最後に、これはかじりさが反省会で語った場面ではないのだけど、筆者のお気に入りの場面を2つだけ紹介しよう。
1つ目は、♯2東2局1本場、齋藤の先制リーチを受けた場面だ。
このタンキが長引き、局面は最終手番になる。
1度はに手をかけたかじりさだったが、手を止めて思案する。
リーチの齋藤に対し、は通っている牌だ。しかし、リーチに対する安全牌の中で、高島か内村にポンさせて、齋藤の手番を飛ばせるような牌は他にないものだろうか。
こうして、かじりさはを選び、
高島がポン。齋藤のハイテイは、煙のように消えたのだった。一軒テンパイで流局。
最後になる2つ目は、南4局1本場。
優勝に向けて、ツモアガリはダブル役満条件だが、直撃なら高島から三倍満がある。
伏せて優勝の高島から、よもや出るとは思えないが、
リーチ・清一色・一気通貫・ドラ・赤
ちょうど三倍満のカン待ちだ。
しかし、ここは当然高島がガッチリ守って流局。高島は4代目シンデレラの座につき、梶は3位という結果になった。
◾️にチーの声が出なかったことも
◾️二軒リーチにはさまれて切ったも
◾️から埋まったところが、仮に
から埋まっていたとしても
◾️悩みに悩み抜いてを選んだ場面で、フワッと
をそのまま切っていても
◾️オーラスで三倍満直撃条件のリーチをかけていなかったとしても
結果が大きく変わったわけではない。そして、かじりさ本人も、決して「こうすれば勝てたのに!」とは言っていない。いい目が出ることもあれば、そうでないことだってある。それが、かじりさの愛した麻雀というゲームだから。
ただ、最高の結果を得るために、最善を尽くす努力だけは、決して怠りたくない。それが、かじりさという人間だから。
「梶さん、そろそろ…。」
どこかから声が聞こえてきた。この稿を閉じる時が来たようだ。
かじりさ、辛いFinal、お疲れ様でした。麻雀への愛は、みんなにしっかり伝わっていますよ。私はあなたを、心から尊敬しています。いい麻雀と、素晴らしい反省を、ありがとう。
Final各選手視点観戦記
包囲網ヲ突破セヨ!【シンデレラファイト シーズン4 Final 高島芽衣視点 担当記者・中島由矩】
【シンデレラファイト シーズン4 Final 内村翠視点 担当記者・神尾美智子】