~「麻雀界 第13号」より転載~
お客にとっては親切心から言っていることでも、お店からしてみると迷惑なこともあります。ただ、親切心から来ているので、なかなかそれに対しては文句が言えないのも事実。
お店とお客の双方が気分のいいマナーとは!?
今回は、フリー雀荘限定のマナーのお話です。多くのお店が頭を悩ませているはずの問題、内心では苦々しく思っているけれど直接お客さんに言うのは抵抗がある問題についてです。そんな気持ちを代弁するべく、いつかは書こうと長らく思っていたテーマでもあります。
ラス半コール
フリー雀荘には『ラス半コール』というものがあります。「私はこの半荘でやめますよ」という意思をあらかじめ伝えてもらうことにより、他のお客さんのご案内や卓の拡大・縮小をスムーズにするのがその目的です。
わかりやすい例として、スタッフが全員卓に入ってゲームに参加している状態、いわゆる「全入り」を想定してみましょう。その状況で一人のお客さんが突然やめてしまった場合、その卓の残った三人は、
A:新たな来客かスタッフ卓の終了を待つ。
B:スタッフの持ち点状況等が納得いくものであれば、そのゲームを途中から引き継ぐ。
C:待たずに帰る。
このいずれかを選択することになります。
AとBはお客さんの不満につながりますし、Cはダイレクトに店の機会ロスになります。つまり前ぶれなしにゲームをやめた場合、必ず誰かが困ることになるのですね。
それを防ぐためにラス半コールがあります。欠員が出るのが前もってわかっていれば、店側が対処しやすくなるわけです。むろんその対処のベースとなるのは店側の都合でなく、「他のお客さんをいかに待たせないか」であることは言うまでもありません。
ラス半コールの発祥は不明ですが、その定着によってお店のオペレーションが格段にスムーズになったことは想像に難くありません。待ち時間の短縮はお客さんにとってもありがたい変化と言えるのではないでしょうか。
困ってしまう「もしラスコール」
これに対して10年ほど前に登場したのが『もしラスコール』なるもの。念のために説明すると、「もしかするとラス半になるかも」の意味です。横浜のYというお店で初めてこれを聞いた時は、新しい言葉自体に妙に感心したものです。そしてこのもしラスコールが、本当にあっという間に全国の雀荘に蔓延していったのです。
「蔓延」というのは、好ましくないものが広がる時に使う表現ですよね。では、もしラスコールのなにが好ましくないのでしょう。
よく考えてみればわかることですが「やめるかもしれない」は「やめないかもしれない」と同義なわけで、お店にとってこれほど困ることはありません。やめるとわかっていればあらかじめ卓組みを考えられますし、何も伝えないお客さんは続行と判断できるわけですが、「やめるかやめないかわからない」と言われてしまった場合は、複数の卓組み計画が必要となるのです。
同じ時間帯に4人以上のスタッフを置けるようなお店なら、たいていの事態に速やかに対処することも可能ですが、スタッフ3人でまわすお店が圧倒的に多いのがフリー雀荘なので、もしラスが何人も入ったりすると収拾がつかなくなることもあります。そこで各店は対応に頭を悩ませることになりました。今まで私が見てきた各店のもしラスへの対応を書き連ねてみましょう。
「わかり次第『続行』か『ラス半』への変更をお願いします」「東場のうちに続行できるか終わるかを決めてください」「新たなお客様がいらした場合、席を譲っていただくこともあります」「同時に理由も添えていただけると助かります」「もしラスはご遠慮ください」等々。
どうでしょう、それぞれに苦慮の気配が感じられませんか。唯一断固たる姿勢を示した最後の「もしラス禁止」は、水道橋にあったPというお店の貼り紙ですが、できることなら他のお店もこれに倣いたかったことでしょう。
しかしPほどの繁盛店でなければ、強気に出るのは難しい問題なのです。お店としては他のお客さんに迷惑がない限りは、なるべく多く打ってもらいたいのですが、先に決断を迫ると大半のお客さんが「じゃあラス半で」と言うわけですからね。私自身、この問題に胃を痛めた一人です。
「もしラスコール」のなぜ
さて、あえて「もしラス」を使う理由にはどんなものがあるでしょう。
①次の予定までに2回打てるか、微妙な時間である。
②今回負けると次のゲームをするお金が足りなくなる。
③連絡が入ったらやめなければならない。
④終わった時の気分や次のメンツによっていつでもやめられるよう、保険をかけておく。
⑤半荘が終了して「もう1回やるよ」と言った時、スタッフの女の子に「わあ、ありがとうございます」と言ってもらえるのが嬉しい。
こんなところでしょうか。①から③については納得いく理由ですよね。先に挙げたもしラス対策のひとつである「理由も添えて…」というのはこれらの場合のことだと思います。
例えば「〇時〇〇分までにこの回が終わったら続行」とか「3着かラスになったら終わり」とか、少しでも予測を立てやすくするためのお願いでしょう。
④は身勝手を絵に描いたような話ですが、そんな理由だとしか思えない使い方をする人はけっこういます。毎回「次ももしラス」と言いながら延々と打ち続ける人、座った時から「常にもしラスで」と堂々と言い放つ人。こういう人に限って、なぜかお店が一番困るタイミングでやめるんですね。「しばらく続けてもらえそうかな」とスタッフが油断した頃合いで唐突に。
そして困り果てたスタッフから「もう1回だけやってもらえませんか」と頼まれても、「いや、ちゃんと『もしラス』って言ってたし」ととりつく島もありません。お店が「正しいラス半のかけ方」を指導してあげる方がよいと思います。
⑤は最近急増したタイプですが、その人の知性まで疑いたくなりますよね。女の子の笑顔が見たいなら、雀荘よりいい場所が他にもあるでしょう。だいたい雀荘勤務の初日でもない限り、もしラスからの続行に感謝しているように見える顔と言葉の裏では「はっきりしなくてウザい男だなぁ」と思われていますよ。
30分後の自分の行動すら決められない男が、女の子の目に魅力的に映るはずはありません。今回の話は、もしラスの減少を旨として書いたものですが、特に④と⑤の理由で濫用している方々にはもう一言添えておきましょう。
あなたは意図せずしてお店や他のお客さんに多大な迷惑をかけています。周りへの配慮も怠らないようにすると、麻雀がより楽しくなりますよ。
お店の対応も問題!?
さてお客さん側への啓蒙が主たる目的である一方、店側に対しても言いたといこがあります。
「あるお客さんに振り回された結果、他のお客さんに迷惑がかかるのは避けるべき」ということです。
あるお店であった例を挙げましょう。店に入ると責任者格と思える男性スタッフから「今こちらの卓にもしラスが2軒入ってますので、少々お待ちください」と告げられました。
20分ほど経ってその卓が終わりましたが、どなたもやめません。「皆さん続行ですが、隣の卓にももしラスが入ってますから、もう少しお待ちください」と先の責任者。15分後にその卓のゲームも終了しました。「もう1回やろうかな、次ももしラスで」と若い子が言い、ラス半と告げていた人までが「じゃあ俺もあと1回やるよ。いいでしょ?」と言っています。
その時、責任者が「はい大丈夫ですよ、ありがとうございます」と言ったのには仰天しました。
誰が考えてもこれは完全に誤った対応。ここはラス半をかけていたお客さんに「別卓が空きますから、いったん代わってもらってよろしいですか」と言うべきところでしょう。結局元の卓がもう1回終わるまで計70分も待たされたわけですが、件の責任者は気まずさゆえか、その間話しかけてもきませんでした。
スタッフの困惑もわかる私ですから平気な顔で待ちますが、普通の人なら怒り出すことも十分ありえるケースです。当分空きそうにないとわかれば出直す人もいるでしょうし、新しく来客があった時点で「もしラス中」の方に意思の再確認をすることが必要だと思うのですね。
けして難しいことではありません。そしてもしラスのように他のお客さんに迷惑がかかりうる事柄については、「指導教育もスタッフの仕事」と知っていただきたく思います。
それでは今回はこのへんで。皆さんの麻雀ライフがより豊かなものになりますように。
著者:大貝博美
プロフィール:昭和35年、東京都生まれ。101競技連盟所属。第22・30期王座。ファミレス店店長を経験後、競技麻雀に惚れこみ、麻雀プロの世界に足を踏み入れる。
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