プロ団体の公式戦で赤有りルールが採用されることがこれまでなかったのは、やはり運の要素が大きくなることを懸念されてのものでしょう。ちなみにプロ団体で一発裏ドラ有りのルールが初めて採用されたのは、1990年代後半の最高位戦とされます。第121回で取り上げましたが、裏ドラも赤ドラも昭和30年代には既に存在していたことを踏まえると、導入されるまでにかなり時間がかかったといえます。
赤ドラをツモるかどうかはツモ次第で技術介入余地がないことである以上、運要素が大きくなること自体は事実です。しかし、「運要素が大きい」と、「実力差が出やすい」とは、似て非なる概念であることに注意が必要です。以前例として挙げましたが、3×3の升目に一列並べた方が勝ちになる◯×ゲーム。互いに最善を尽くせば必ず引き分けになり、最善を尽くすことも極めて簡単です。 「二人」「零和」「有限」「確定」「完全情報」を満たすので運要素は一切ありませんが、引き分けにする手順さえ互いに知っていれば実力差は全く出ません。
赤ドラ自体は、運次第で誰でも勝てるようにすることを狙って採用されるようになったという背景は否定できません。しかしそのことを踏まえたうえでも、私としては、どちらかと言えば赤有りにすることで実力差が出やすくなるのではないかと考えております。第134回で赤有りのリーグ戦を行おうと考えたのも、単に赤有りに慣れているからというだけでなく、そうすることで実力者が出やすくなるのではないかという見解が参加者の中であったためです。
予め注意しておきたいのは、「考慮すべき要素が増えるから実力差が出る」とは必ずしも言えないということです。選択要素が多く戦略の幅が広くなったとしても、その中に極めて強力な戦略が一つあり、それさえ身につけてしまえば事足りるのであれば、その戦略の有効性を知らない相手であれば大勝できますが、知っている者同士の対局は最早運のみで決まってしまうことになります。
また、仮に全てのアガリ点を2倍にするというルールを設けても単にレートが2倍になるだけで実力差が出やすくなるわけではないように、ルールのインフレ化によって実力差が出やすくなっているわけでもないことにも言及しておく必要があるでしょう。
そのことを踏まえたうえで、赤ドラ有りにすることで実力差が出やすくなる(とはいえ、麻雀のゲームの性質上、それほど大きな効果があるとは思いませんが)と考えた理由を次回から述べていくことにします。