- 以下「麻雀界 第15号」(2012年3月10日発行)より転載 -
土田先生は他の雀士と違って、特別な流儀があるとお聞きしたのですが。
第1打に字牌を切らないということですね。そのおかげで、配牌の時に持っている位置エネルギーを測りやすくなりました。
やはり字牌から切りたいときもあるのですが、そういう時が自分にとっては一番危険なので、そういう局は配牌がよくてもアガりにくいなという思いでやれて、かなり有利だということです。
そうですか。タンヤオみたいな手が来たときに苦しいのではないかと思うのですが。
苦しいです。その時点でこの局は苦しいなとわかるわけですが、それは別に第1打が難しいからわかるのではなくて、そういう配牌をもらうと本当にアガりが遠くなるんですね。 配牌がよくて、たとえば一萬とか、第1打で切りやすい牌があるときは、この局はアガれるなと思ってできるんですね。
時間配分とリズム
──本当にいい時は、いらない牌をどんどん切っていくだけで手が作れますよね。しかも1枚くらい安全な牌を持ちながらということもよくありますが、その辺りの話は将棋とはまったく共通するところがないのかもしれませんね。 先ほど土田先生のほうから、対局に入ってから思考するのはプロではないというお話がありましたが…。
麻雀の場合は時間が短いですからね。1対1ではなくて4人でやっているので、全体のリズムというものがありますからね。
待たせてはいけないですものね。
そうそう、待たせたら失礼にあたるということもあるし、相手の思考回路のリズムもあるので、自分の手番は極力短くするというのがマナーとして大事なのではないかと思います。
自分が時間を使うということは相手の時間も奪っていることになります。将棋と違って麻雀の場合は、1手1手時間をかけて思考して正しい答えが出てくるわけではないので、逆に時間をかけないで回すほうが正しい答えが出てきやすくなると言えます。
みんなでリズムよくやる、特にプロはそういうことに気をつけないと、ギャラリーや視聴者もいますので、間合いが長すぎると見ている人が退屈したり眠くなったりするということがあります。 考えたあげく、結局視聴者と同じ打牌をしたりすると、お前は何を考えてるのということにもなりかねない。
違う牌を切って意外な展開になるのなら、ああそうかと思うかもしれませんが、結局はそれなのということが多いので、ボロが出ないようにパッと切ったほうがいいのではないでしょうか、手数も多いですし。 1局で70手もかかるので、1人が30秒も考えていたら終わらなくなってしまいます。
──名人は将棋の時間の配分にも気を使われますか。
もちろん、持ち時間が決まっていますので、それをどういう割合で使うかということは考えます。
──たとえば、1手2時間などということも…。
持ち時間が一番長い対局の場合、9時間あって二日に分けてやりますので、そういうこともあります。
──個人的にすごく不思議だなと思うことは、棋士の方は普段から研究されて、棋譜なども最新のものを解析されているにもかかわらず、途中で大長考が入りますが、それは何を考えているのでしょうか。
だいたいは、研究してきたものから予期しない展開になった時に、そこからまた新たな対局が始まるということで、考え直すということです。
──逆に持ち時間がないにもかかわらず、スラスラといくこともありますか。
それはありますね。
──そういう時は何か不自然に感じますか。
長い対局の場合は周囲も長い時間考えていますので、そこだけ極端に早い進め方をするとテンポが違うなと思うこともありますが、ずっと早いペースでいくことはあまりなくて必ずどこかで止まりますので、そこからどうなるかということですね。
──相手の長考によって違和感を感じたり、自分が有利だと思っているのにここで長考されるとなんとなく嫌だなとか、あるいは自分が不利な時に、なんで相手は長考しているんだろうとか思うことはありますか。
まあ、持ち時間は自由に使っていいことになっていますから、むしろ持ち時間を残して帰るほうがもったいない感じがするので、できたら最後まで与えられた時間を使って全力を尽くすということを考えています。
麻雀は早く打つほうがいいのでしょうが、将棋は持ち時間を残して負けると、あまりいいように思われませんので。
──持ち時間の中で、ちょっと休もうとか、外が綺麗だなとか、違うことを考えることはありますか。
やはりありますね。相手が長考している時はボーッとしていることもありますし、息抜きをしたりすることもあります。
その場から離れている時に相手が指した場合、時計はどうなるのですか。
自分の時間が減っていきますが、長い持ち時間ですので、そこで5分や10分減ってもあまり関係はありません。
──相手が指したという連絡が来るのですか。
以前はそういう習慣もありましたが、将棋は自分ひとりでやるものですから、人の助けを借りてはいけないということもあるようで、その辺は曖昧です。
ここで考えるだろうなという時は、わかるものですか。
わかりますね。すぐに指されると研究してきたと思って警戒しますが、対局していると、相手が研究して指しているのか、その場で考えて指しているのかが、なんとなくわかるものなんですね。 研究されて指された時は怖いですから、かなり警戒します。
麻雀もそうなのですが、アガれそうな人はツモって捨てる動作が変わるんですね。また、オーラがフッと変わって、それでアガるだろうなと思うと、やはりアガります。
相手にわかっても不利ではないのですか。
それは早めにリーチしているようなものでしょうか。 もっと早く、たとえば配牌の時点でオーラを出す人もいますので、そういう時はツモをずらすという手はあります。いいツモがいくでしょうから、プロ同士だとチーとかポンして、ちょっと困らせようかなという手を使う場合もあります。
平常心で、相手に何も感じさせないで打てる人は、今まで見た中で一人だけでした。その人以外はなんらかのオーラが出ますね。
目は口ほどに物を言う!?
──将棋も、タイトル戦やテレビを見ていて、わかるような気がしますね。
将棋の場合は別にわかってもかまわないのですが、麻雀の場合はわかると厳しいと思うのですが。
3人麻雀が多いと聞きましたが、それでもわかる時がありませんか。
ありますね。すごく鋭い先輩がいて、私がテンパイするとすぐにバレます。特に、チートイツは目がキョロキョロするらしくて(爆笑)。
チートイツの場合は、みんな牌を探しますから独特の間合いに変わることが多いですね。
(次号へつづく)
目次
プロフィール
土田浩翔
1959年生まれ、大阪府出身。
最高位戦日本プロ麻雀協会所属。
鳳凰位、王位、最強位、十段位、プログランプリなど獲得タイトル多数。
独自の戦法土田システムを操り、「トイツの貴公子」の異名を取る。
森内俊之
1970年生まれ、神奈川県出身。
日本将棋連盟第69期名人。
名人位8期在位のほか、竜王、棋王などのタイトルも獲得。
「鋼鉄の受け」と呼ばれる強靱な受けに絶対の自信を持ち、順位戦では驚異的な勝率を誇る。
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