麻雀業界唯一の総合情報雑誌「麻雀界」にて連載されていた珠玉のコラムが、麻雀ウォッチでもお楽しみいただけるようになりました!
第2弾は「将棋名人・森内俊之、プロ雀士・土田浩翔 新春特別対談」です!お楽しみに!
- 以下「麻雀界 第13号」(2012年1月10日発行)より転載 -
勝つための思考とは?
──それでは、よろしくお願いします。
まず、麻雀界では、麻雀を将棋と比較されることが多いのですが、私は、実際にはかなり違うものだと思っております。
麻雀の場合は、偶然に左右される部分が非常に大きいと思うのですが、たとえばその中で、何が正しい打ち方なのかという議論がよくされています。そのなかで土田プロは、一般の麻雀ファンの固定概念を覆すような考え方で結果を出しています。そう考えると、一般的な打ち手には見えていない何かが、土田プロには見えているのではないかと思うことがあります。
逆に将棋の場合は、全ての情報は盤上にありますから、勝ち負けは運に左右されない読みの力の勝負だと思うのですが、それでも、何か直感的なもので判断することもあるのかなと思うこともあります。
そういう点では、最終的には似てくる部分があるのかなと思っています。
勝手な想像ですが、一流の勝負の世界にいる人たちは、競技や種目が違っても、技術を超えた何かしらの共通点を持っており、それで結果を出していると思っています。その部分が少しでも読者に伝わればとこの対談を企画しました。もちろん、結果的に違っていてもいいのですが…。
まず、森内名人(※掲載当時)は麻雀についてどういうイメージをお持ちですか。
そうですね。将棋の世界にも麻雀が好きな人は多いのですが、やはり自分にとっては将棋で疲れた頭を癒すような、クールダウンの役目を果たしてくれるようなもので、楽しいことが一番かなと思って麻雀と付き合ってきました。
初対面の方と麻雀を打つ機会が今まであまりなくて、だいたい限られた近い人たちとやってきたというのが現実です。
──麻雀で、理不尽だとかツキが偏っているとか、感じたことはありますか。
それはいつも感じていますが、だから面白いということもありますし、将棋ではなかなかそういうことはありませんので、そこが爽快な面もあります。だからこそ気楽にできるのだと思います。
麻雀を打っていて、一番面白い瞬間はどういうときですか?
確率とかはあると思うのですが、確率どおりいかなかったりしたときなどは、何が起こるかわからないんだなあと思うことがありますね。
アガったときに面白いと思いますか?
それとも、アガらなくても面白いと思うことがありますか?
アガらなくても面白いと思うことはありますね。仲間同士なのでアガったあとに手を開けて見せ合うことがありますが、よく待ち牌の残り枚数を数える人がいます。
自分のほうが残り枚数が多いのに、少ないほうにアガられたという感じで悔しがるのですが、そういうのを見ていると、確率的には厳しくても牌の並びだから何があるかわからないというところが面白いと思います。
──土田プロは、将棋に対してどういうイメージをお持ちですか。
やはり思考と思考のぶつかり合いというイメージが強くて、その思考回路をどこまで増やしていけるのか、人間はけっこう使っていない部分が多いといわれていますが、将棋の世界の人たちが最先端を行っているように思えていて、どこまで進んでいくのかという魅力を将棋を見ていていつも感じます。
たぶん、トップレベルの人にしかわからない思考のぶつかり合いというものがあると思うんですよ。一般の将棋ファンが見ていても到底理解できないような、思考と思考のぶつかり合いがあるように見えます。ぶつかり合いの結果、勝ち負けが出て、さらにその後、双方いろいろ反省するというか次なる機会に向けて勉強していく中で、最先端の脳の開発をしているのではないかと思うんです。
もちろん一般社会でも、脳を際限なく使っている人はたくさんいると思いますが、同じレベルで、どの分野でもトップレベルの人たちの脳の回路はすごいんだろうなというイメージがあります。 それと比較して麻雀界は、ということになるとちょっと愕然としますよね。脳を使わなくてはいけないところまで使っていないので、非常にストレスが溜まります。
麻雀では思考を極められない?
──麻雀はやはり、考えても考えても結局は運に左右されるので、思考を極めるような方向になっていないということでしょうか?
そうですね。だから、思考を停止してしまうようなところに問題があって、運の流れを解明していくことが大事だと思いますね。わからない、運の動きをどのように解析していくかをプロがやらないと、一般の人は当然やらないから、目先の確率論に終始してしまうというところに問題があると思います。
囲碁、将棋界では10代からそういう部分が開発されて、18歳くらいになれば、この人は近い将来タイトルを獲るなとか、獲らないなとか、わかってくるような世界ですよね。麻雀界は、10代や20歳そこそこでタイトルを獲る人が現れていないということは、相当遅れているということです。
だから10代のうち、あるいは一桁代から勉強し始めないと解明されない部分が多過ぎるゲームなので、本当はそこに着手しなければならないし、指導者がいなくてはならない。その指導者がいないから、そういう部分が未開のまま、麻雀は低いレベルで止まってしまっていて、そこにチャレンジする人、思考回路を深めたり開発したりする人がいなさ過ぎるというのが現状です。囲碁・将棋界とは、そこが大きな違いだと思います。
──森内名人は、将棋にも運や偶然に左右されると感じることがありますか。
対局が終わって幸運に恵まれたなと思うことはよくあります。
負けたときは自分のミスなので、それが実力なのですが、勝ったときに自分が見えていないところで悪い面が出なくて、たまたまうまくいったなと思うことがありますので、そういうことを感じることはあります。
──それは、最初の読みが想定外の展開になったときですか?
ええ、ちょっと読んでいなかったけれど途中で何かうまい手に気づいたとか…。なかなかすべてを見通すことはできませんから、偶然性に救われるということはあります。
もちろん、全部読み切って指せればいいのですが、なかなか将棋は難しいものですし、わからずにやっていることも多いですから。
──棋士の場合、初手から最後まで読み切って戦えるということはありますか。
そうなったら将棋がなくなってしまいますね。
レベルを上げようと思ってやっていますが、それは人間の頭脳では難しいと思いますので、少しでも前に進めて行こうという意識でやっています。
──麻雀も思考を高めていけば、今の我々には全然見えないような山の牌なども少し体感できるようになってくるのでしょうか。
それはなってきますよね。次に何をツモってくるかわからないゲームだから面白いというところから、次に何をツモってくるかわかってくるようになってこないとプロじゃない、という世界だと思います。
普通の人にはわからないけれど、プロは次に何をツモってきて、この手がどういう最終地点に行くのかが見えるという世界にしていかないとダメなのではないでしょうか?
ヤマ勘ではなくて、なぜこの牌が来るのか、来ないのか、初期の段階でここは埋まるがここは埋まらないという判別ができる、読めてくることが大事で、プロはそれに備えなくてはならないと思います。
将棋でもそうだと思うのですが、すべてはわからないはずなんです。人間としては限界があるのですべてはわからないけれど、まあ、6~7割くらいはわかってこないと、一般社会からプロの世界は認められないと思いますね。
その勉強をしなさ過ぎるのですが、麻雀も過去のデータが牌譜で残っていますので、運の動き、持ち点でもいいのですが、持ち点が低いときの牌の来方と持ち点が高いときの牌の来方が明らかに違うので、それを解析して検証するべきだと思います。そこは10代、20代の人たちが得意とする分野だと思うのですが、全然やっていません。
そういうことが証明されたら面白いですね。
(次号へつづく)
目次
プロフィール
土田浩翔
1959年生まれ、大阪府出身。
最高位戦日本プロ麻雀協会所属。
鳳凰位、王位、最強位、十段位、プログランプリなど獲得タイトル多数。
独自の戦法土田システムを操り、「トイツの貴公子」の異名を取る。
森内俊之
1970年生まれ、神奈川県出身。
日本将棋連盟第69期名人。
名人位8期在位のほか、竜王、棋王などのタイトルも獲得。
「鋼鉄の受け」と呼ばれる強靱な受けに絶対の自信を持ち、順位戦では驚異的な勝率を誇る。
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