世界中に愛好家を持ち、登録ID数約586万人(2021年1月現在)を誇るオンライン麻雀ゲーム「天鳳(てんほう)」において、全プレイヤーの頂点に登り詰めた者だけに与えられる天鳳位を2度獲得。
ネット麻雀の雄として名を馳せ、鳴り物入りでプロデビューした朝倉康心プロは、Mリーグというチームで戦う舞台をどう捉えているのか?
「天鳳」最高レベルの鳳凰卓に東風戦1000回で到達
中学生の頃、朝倉プロは麻雀漫画「哲也 雀聖と呼ばれた男」を読んで麻雀の存在を知った。ただ実際にやったことはなかったので、ルール等に関しては、兄と一緒に父から教わったという。
大学進学後、仲間内で麻雀をやるようになり、麻雀店でアルバイトも始めた。「麻雀の練習方法を模索していたら、天鳳というネット麻雀で鳳凰卓というのが一番レベルが高いと知り、やり始めるとすぐにハマりまして。授業中も考えていることは天鳳のことばかりでした」とASAPINという本名を文字ったハンドルネームで、多い月は東南戦500回、東風戦1000回程を打ち込んだ。
天鳳では、レーティング制と段級位制が採用され、プレイヤーのレベルによって一般卓、上級卓、特上卓、そして最高レベルとされる鳳凰卓という4つの卓のいずれかでプレーすることになる。「早い人だと500回程で行ける人もいるので、普通のペースだと思います」と朝倉プロは東風戦1000回程で鳳凰卓に到達した。
しかし鳳凰卓でプレイできるようになったことで目標を見失ってしまい「惰性で打つようになってしまったんです」と約1年間、天鳳から離れた。
天鳳位として活躍後、さらなる新しいフィールドへ
大学では農学部に在籍し生態学を学んでいたが、もともとゲーム好きだったこともあり「将来は麻雀に関する仕事をしたい」と思っていた。そんなある日、天鳳で十段になったプレイヤーがいると知った。「久しぶりに天鳳をやってみたら、以前は東風戦卓しかなかった鳳凰卓に東南戦の卓も立っていたんです。東南戦だったら自分も十段になれるかもしれない」とプレーを再開してから1年後、24歳の時に十段よりさらに上、全プレイヤーの頂点となる天鳳位を獲得した。
初代天鳳位になったことで、アマチュアながら麻雀プロ同様にゲスト等にも呼ばれるようになった。「その立場だからこそ出来る独創的なことはないかなと自分なりに考えながら活動していたので、この時点でプロになるのはもったいないという気持ちは正直ありました」とハンドルネームのASAPIN名義で麻雀戦術本も出版した。
対局映像番組等からもオファーが入るようになり、2016年に行われた対局番組「天鳳位vs連盟プロ1st Season」に出場し優勝。翌年には日本プロ麻雀連盟、最高位戦日本プロ麻雀協会、日本プロ麻雀協会の代表選手と、藤田晋AbemaTV代表取締役社長率いるアマチュア連合という4チームが競い合った「第一回 麻雀駅伝」にアマチュア連合のメンバーとして選出され、三人麻雀部門で区間賞を獲得する活躍で、チーム優勝に貢献した。
「当時はプロ団体に所属していない分、自由な立場で活動できたのは魅力的でしたが、プロになりたいという気持ちはずっと持っていたので、新しいフィールドに行って様々な挑戦をしていきたい」と31歳の時にプロ入りを決断し、2017年に最高位戦日本プロ麻雀協会へ入会した。
麻雀をメンタルゲームとして初めて認識した「Mリーグ」
プロ入りから1年後、2018年にはU-NEXT Piratesからドラフト2位指名を受けた。
チームメイトは「天鳳名人戦」というタイトル戦でしのぎを削り合ってきた小林剛プロ、石橋伸洋プロに加え、2019シーズンから天鳳八段の瑞原明奈プロが新規加入。初年度こそレギュラーシーズンで敗退したが、2019シーズンでは栄えあるチーム優勝に輝いた。
2000人以上いる麻雀プロの中で、Mリーグでドラフト指名された選手はわずか30名に過ぎない。「Mリーグに参戦するまでは麻雀ってあまりメンタルゲームとは思っていなかったんです」という朝倉プロの心境には、ある変化が芽生えていた。
「個人戦でもメンタルは大事ではあるんですけど、しっかり練習していれば、打牌に影響するほど精神状態が不安定になることは早々なかったんです。でもMリーグではチームメイトのファン、オーナー会社、さらには選手契約を継続できるかどうかといった様々なプレッシャーとも戦わなければならないんで、個人戦とは全く別物」とチーム競技ならではのメンタル力も必要だと感じていた。
だからこそ「麻雀プラスアルファも必要かなと考えていろいろやってみたりしています」と多彩なヘアスタイルチェンジで登場する等、ファンを意識した試みにも積極的に取り組んでいる。
「失敗をどう活かすのか」朝倉プロの失敗学
Mリーグでは国士無双の当たり牌をビタ止めする等、読みの深さには定評があるが、誤チー、誤ツモといったミスをしたこともあった。「人よりチョンボやエラーの類いが多いという自覚はあって、そもそもプロであるべきではないんじゃないか。Mリーグにいるべきじゃないんじゃないか」と落ち込んだ日もあった。
「牌の見間違えに関してはどうしようもなかったんですが、精神的に不安定なのかなと病院でも検査しました」とミスをきっかけに、あらゆる角度から自分を見つめ直した。
そして「リーチするたびにちゃんとテンパイしているのか、誤ツモしないか、牌を見間違えないか、怖がりながら打っている後遺症はありますが」とありのままを受け入れた上で「Mリーグで戦わせて頂いているうちは腹を括ってやるしかない」と行き着いた。
ミスを減らすための具体的な対策として、リーチ後のツモり方を変えた。「それまではリーチ後は空中で牌を確認してから河に切っていたんですけど、今は一旦手牌の右に牌を置いて確認してから切るようにしています」と自身のフォームを矯正して試合に臨んでいる。
「結婚するまでは、自分の納得する麻雀を打つことが一番という自分のアイデンテティを大事にする生き方でしたが、家庭を持ったことで、今まで以上にしっかりしなきゃいけない」と愛する家族のため、ベストパフォーマンスを発揮するため、勝利に結びつく可能性があることなら、貪欲に素直な姿勢で取り入れている。
プロとしてさらに飛躍するために。
朝倉康心(あさくら・こうしん)プロフィール
生年月日:1986年3月4日
出身地:福井県小浜市
血液型:A型
所属団体:最高位戦日本プロ麻雀協会
愛称:ASAPIN
勝負めし:うなぎ
最近見た映画:劇場版 鬼滅の刃 無限列車編
主な獲得タイトル:初代・第11代天鳳位、第4・8期天鳳名人位、天鳳位vs連盟プロ 1st season、第一回「麻雀駅伝2017」チーム優勝 他
著書:「麻雀の失敗学」「夜桜たま×朝倉康心に学ぶ現代麻雀」「超精緻麻雀 多角的思考による盤面把握」「新次元麻雀 場況への実戦的対応とケイテンの極意」他
年 | 歳 | 主な出来事 |
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1986 | 1歳 | 福井県小浜市で3人兄弟の弟として生まれる |
1999 | 13歳 |
中学では卓球部に所属 |
2004 | 18歳 | 高校ではテニス部に所属 |
2005 | 19歳 | 東京農工大学農学部入学 |
2010 | 24歳 | 初代天鳳位を獲得 |
2012 | 26歳 | 東京農工大学農学部卒業 |
2014 | 28歳 | 第4期天鳳名人位 |
2016 | 30歳 | 天鳳位vs連盟プロ1st season優勝。第11代天鳳位を獲得 |
2017 | 31歳 | 第1回麻雀駅伝2017チーム優勝(3人打ち区間賞)。最高位戦日本プロ麻雀協会にプロ入りし、B1リーグから参戦 |
2018 | 32歳 | A1リーグ昇級。U-NEXT Piratesよりドラフト2位指名を受ける |
2020 | 34歳 | Mリーグ2019朝日新聞ファイナル優勝 |
◎写真協力:U-NEXT Pirates 、インタビュー構成:福山純生(雀聖アワー)