2回戦東1局、松嶋の手牌はカンチャンや二度受けがあるものの、うまくいけばメンタンピンへと育てられそうな気配だ。浮いているのはだが――
ここではツモ切りとする。234と678、両方の三色を見据えた格好だ。松嶋の肉食獣的な貪欲さが伺える。
を引いたことでマンズがリャンカン形になったところで、打とする。234よりも678の方が成就しやすいと見て選んだのだろう。を切ったシーンでを切っての雀頭固定をしていると、一気に高打点へのルートが狭まっていた。切りは、マンズ変化も見据えた一打だったというわけだ。
局面が大きく動いたのは、7巡目。上田が切ったを、朝倉が でチーをした。ドラのがアンコだ。普段は門前で高打点に仕上げることが多い朝倉のこの仕掛けは、他家からも脅威に感じることだろう。
故に松嶋は、タンヤオのみのヤミテンに構える。ソーズが場に高く、河を見る限り朝倉が抱えていてもおかしくなさそうなだ。この待ちでめくり合いを挑むのは得策ではないとの判断だろう。
上田がタンヤオ・赤2の勝負手でを勝負したが――
松嶋が見事にそれを捉えた。上田がリーチに備えてを抱えていたことから、松嶋がヤミテンでなければ別の結末を迎えていた可能性は十分にある。
1回戦に引き続き好調の松嶋。続く東2局はチートイツの1シャンテンから切り。メンツ手の可能性をほぼ断ち切るような一打から、またしても高打点に仕上げようという意識が感じ取れる。
松嶋と同じくチートイツの1シャンテンだった朝倉だが、このでメンツ手へとシフトチェンジ。ドラのを惜しむことなく切り捨てる。
そして絶好のカン引き! ・チャンタ・ドラの満貫を盤石のヤミテンに構える。
その当たり牌の一つであるが松嶋のもとへやって来る。が重なった場合はさすがにドラの待ちとしそうなので、これは非常に危うい! などと思っていたら――
今度は引き! 2種類ある朝倉の当たり牌をともにつかんでしまう。
を切ったものの、もはやこの局の松嶋は崖っぷちだ。だが、このままテンパイすることさえなければ、朝倉のチャンス手を封殺することになる。テンパイさえしなければ。そう思っている時に限って――
残り1枚のドラを引いてしまうのも、また麻雀の魅力の一つなのだろう。
この8000点のアガリで、ついに松嶋の快進撃がストップすることとなる。ならば、誰なのか?
以前手が入り続ける松嶋のドラ待ちチートイツをかいくぐり、2戦目のトップをもぎ取る主役は――
「惑わしのキャッツアイ」こと上田唯だった。
彼女は松嶋と同じくドラの待ちチートイツで応戦すると――
最終ツモで残り1枚のをたぐり寄せた。この日の初アガリとなる3000-6000を決め手として、上田は2戦目のトップに就いた。
14年というキャリアを誇る上田は、今ほどの麻雀ブームとなる前からこの業界を支えてきた立役者の一人だ。かつて、あの秋元康氏に楽曲提供をしてもらったこともあるほどの人気雀士でもある。しかしながら、これまで個人タイトルに恵まれることはなかった。決勝進出の経験は複数回あるものの、あと一歩で栄冠を逃してしまう。だが、それでも上田はプロの世界で研鑽を続け、チャンスを伺い続けた。
上田は近年の松嶋とは対照的に、とにかく実戦を通して腕を磨いた打ち手だ。彼女の勤務先の麻雀店では、赤ありのアガリ連荘ルールを採用している。それは奇しくも、プリンセスリーグと同じルールだ。親番での立ち居振る舞い、親リーチへの対応など、彼女はとにかくそれを実戦で学び続けた。そうして、彼女はプリンセスリーグの申し子というべき打ち手へと変貌を遂げた。インプットを繰り返した松嶋と、アウトプットに特化した上田。対照的な2人が1トップずつ飾るという展開で、後半戦の3回戦へと突入した。
3回戦は、3局連続の流局で始まる。溜まった供託棒は3本。アガリに3900点が加算される状況で、上田は親番を迎えた。