新鋭女流雀士たちが争奪戦を繰り広げたのがガラスの靴なのであれば、トップ女流雀士たちが誇りをかけて挑む戦いにふさわしいのは、王女のティアラに違いない――。
平成の世が終わりを告げようという4月26日、第2回目となる「麻雀ウォッチ プリンセスリーグ」が開幕した。シンデレラリーグの興奮冷めやらぬなか、今回スポットを浴びたのは最高位戦日本プロ麻雀協会、日本プロ麻雀協会、RMUの麻雀プロ3団体から選ばれた24名のトップ女流雀士たちだ。日本におよそ2000人いる麻雀プロの中で、タイトルを手にできる者は一握りしかいない。そんな過酷な勝負の世界に身を投じ続け、幾多の輝かしい称号を手にした麻雀界の王女たち。あるいは、それに比類する実力者として知られる猛者たちが集う一大祭典だ。誇張なしに予選全ての対局がメインイベント級という顔ぶれなのだが、それぞれの選手については、この観戦記でも追々紹介していこうと思う。
そんな祭りは、これまでの麻雀界の隆盛、そして令和へと続く新時代の明るい未来を想起させるような、じつに華々しい顔ぶれの戦いで幕を開けた。
大崎初音は女流雀王に3度就いた実績が光る、女流雀士の中でトップクラスのプレイヤーだ。
西嶋千春は女流最高位を絶賛連覇中。今回が待望のプリンセスリーグ初参戦だ。
水瀬夏海は第11期夕刊フジ杯麻雀女王など、近年の活躍が目覚ましい打ち手の一人。
そして多くの識者がその実力を高く評価する「未完の大器」こと瑞原明奈。
今回の4人の打ち手のうち、ただ一人だけタイトル獲得歴のない瑞原。しかしながら、その腕前は他の選手と比べてそん色ない。国内最大級のオンライン対戦麻雀「天鳳」における瑞原の最高段位は九段。天鳳では、よほどの実力者であっても八段まで到達するのさえ至難の業と言われる過酷な昇降級システムを採用している。そんな世界で活躍することで、瑞原はID名「みかん太」とともに多くのファンにその名を轟かせていったのであった。
「天鳳を本格的に始めるようになったのは、プロ1年目の冬に産休に入ったタイミングでした。ID名の由来? IDを作る時にみかんをもぐもぐ食べていたから、こんな名前になりました(笑)。あと太いってつけておけば、太いアカウントになるかなって(笑)」
瑞原は二児の母だ。育児に奔走していた時期が長いため、プロとしての活動期間はキャリアほどは長くない。故にノンタイトル。だが合間を縫っては天鳳に勤しみ、麻雀の鍛錬は怠らなかった。今回のプリンセスリーグ初陣も、産休からの復帰戦だった。公式対局は昨年10月、リアル麻雀も12月以来行っていなかったというが、それでもほぼ毎日、モニター越しに真剣に牌と向き合う時間は欠かしていない。同時期に出産を経験した大崎、西嶋、そして急成長中の水瀬を相手取り、「未完の大器」の真価が問われる一戦という構図だった。
ちなみに彼女のキャッチフレーズである「未完の大器」は、昨年のプリンセスリーグ出場の際にはID名をもじって「みかんの大器」としていた。だが「よくよく考えたらみかんの器みたいですね(笑)」という本人からの異議申し立てがあり、現在のものへと変更している。
瑞原はこの日、予選12半荘のうちの4戦に挑む。上記のシステム表にある通り、予選通過の可能性は5位の選手にまで残される。だが、まずは当然上位2位以内に食い込み、ストレートでの準決勝進出を果たしたいところ。是が非でも幸先の良いスタートを切りたい1回戦が始まった――。
東1局、南家を引いた瑞原は赤とドラを含むチャンス手を迎えた。ここから――
打とした。すでに5ブロックあるものの、横に伸びた牌次第で手変わりもありえる形。ここから234の三色などを意識してを残す人もいるかもしれないが、が雀頭の最有力候補であること、234に固執するとが出ていく可能性があることを踏まえ、早々に三色に見切りをつける。それよりも引きに対応できて打点アップが望めるを残した格好だ。
結果的にもも不要な満貫確定リーチとなり――
ツモって裏も乗せて3000-6000!
「天鳳はプリンセスリーグと同じ赤ありルールで、そのあたりに慣れていたのは良かったですね。ただ赤牌があるからアガればいいというわけではないですし、普通のドラだけどターツの優秀さが変わってきたりもします。こういうルールは、普段は天鳳のようなネット麻雀じゃないとなかなか打てないですからね」
結果だけを見ると大勢に影響のない打牌選択ではあったが、瑞原がそう述懐するように、彼女の思考が早々に伺える局面だった。
続いて東2局、ドラ。今度は大崎にチャンス手の気配が。赤が2枚にがカンツだ。
無理にカンをするようなこともなく、時間はかかったもののドラのを引いてテンパイを果たした。
そしてをツモ! リーチ・ツモ・赤2・ドラ1、そしてこちらも裏ドラを1枚乗せて跳満を成就させた。女流雀士の祭典にふさわしい、あまりに派手すぎる開幕の跳満連発だ。
大崎と西嶋の2人テンパイを経て、東4局1本場へ。ここで動いたのが、現女流最高位の西嶋だ。役牌のとがトイツで、ペンをチー。4トイツからのチートイツなどを無理に作ろうとはせずい、ネックとなるターツをしっかりと埋めていく。現状トップ目の大崎の親番というのも、この判断に至った理由にはありそうだ。
さらにもポンして、1シャンテンへ
そこに瑞原が猛然とリーチ! リーチ・ピンフ・赤2の 待ち。をツモれば、またしても跳満だ
このリーチに対し、西嶋はをポンしてとのシャンポンに構えた。現状の打点は最低2000点。打点は低いものの、さっさとテンパイに構えて局を消化しようという心積りだろう。最悪、危険牌を持ってきたとしてものトイツ落としなどで受けに回れるという自信もあったかもしれない。
この強気な姿勢が実を結ぶ! をツモって700-1300。打点以上に価値のあるアガリをものにした。
続いて南1局、ドラ。ここまでアガリのなかった水瀬が――
そしてを軽快にポン!
中盤に 待ちのテンパイを果たした。
この仕掛けを受けた瑞原は―
現物のを切っていく。最終手出しのは関連牌の可能性が高く。迂闊に切るわけにはいかない。
ターツを払っている間にを引き、1シャンテンに復活
さらにをアンコにしてテンパイ。
思考の時間を挟み――
今度はリーチに踏み切った!
「この局は点数状況的に相手にしたくない親ということもあり、もうすでにかなり受けていました。けれどがアンコのテンパイなら勝負手、って感じでした。(水瀬)なっちゃんがドラのをツモ切ったこと、赤も1枚見えてることから12000クラスの可能性がちょっと下がったかなと。現物のが降りてる2人から切られていなかったことも、リーチに踏み切った理由の一つです」
しかしながら、ここでは水瀬の当たり牌であるをつかんでしまう。
水瀬の2900点のアガリ。かくして、これで全員がアガリが発生した。
先ほどの失点で3着目へと落ちた瑞原だが、その次局には2巡目に 待ちの3メンチャンリーチ!
これをあっさりと一発でツモりアガってみせ、瞬く間に1400-2700の加点に成功してみせた。
そしてオーラス1本場、供託1本。ドラは。瑞原と5400点差をつけて33200点持ちのトップ目にいる大崎の配牌には、がアンコであった。マンズのホンイツの可能性も十分にあり、ここで満貫ツモ圏内を脱することができようものならば、高確率でトップ目を死守できそうだ。
水瀬は16400点のラス目。ダブ南がトイツでドラもあり、手格好も十分。21600点の西嶋はもちろん、27800点持ちの瑞原をまくれる可能性は十分にある。跳満をツモれば、大崎に親かぶりをさせて一気にトップへと浮上できる。
瑞原もまた、強烈な配牌だ。すでに2メンツ、1雀頭が完成しており、赤とドラを含んでいる。マンズ、ピンズともに容易に横伸びしそうな連続形となっている。
他家にやや見劣りするものの、西嶋も1メンツが完成している。ネックの処理さえうまくいけば、早期テンパイも実現しそうだ。
そんな中、テンパイ一番乗りを果たしたのは瑞原だった。ピンフ・赤1・ドラ2、ヤミテンの満貫だ。ここに――
大崎が飛び込んだ。
瑞原、あざやかな逆転トップ。大崎としては手痛い一打ではあるが、この序盤でのヤミテン満貫はやむなしといったところか。
まだまだ1/12。しかし、大きな1勝を瑞原がたぐり寄せた。初戦の勢いそのままに、2回戦になっても瑞原は攻勢を仕掛けていく。